スポーツとは「向上」を目指すもの
b0038294_19133095.jpgフィギュアスケートのニコライ・モロゾフコーチ(安藤美姫選手・織田信成選手・村主章枝選手等が師事)が読売新聞の取材に応えた際、今年ジャッジがジャンプの回転不足を厳しく取る傾向と、回転不足認定になった場合の2重減点のシステムについて「理不尽」と苦言を述べた。

「厳しく回転不足を取る今季の規則は、高難度に挑む選手を罰し、競技の未来のためにならない。浅田真央(愛知・中京大中京高)の2度のトリプルアクセルにしても、安藤の3―3にしても、回転不足で大幅減点され、跳ばない方がマシというのは理不尽だ。ロシア選手権では、高難度技に挑んだ選手にボーナス得点を与えるが、全日本でも一工夫あってもいい。また日本は、選手をアイドル扱いし過ぎる。長い目で人間として成長を見守る支援体制があるべきだ」
(2008年12月30日 読売新聞)

この「2重減点」というのは大まかに述べると下記のようなものである。




ジャンプの回転の認定は3/4回転(270度)まで回っていれば「1回転」と判定される(誤差が1/4以下なら認定)というもので、申告よりも回転が不足していると認定された場合、「申告したジャンプの回転不足」ではなく、「1回転下のジャンプの回りすぎ」とされ、基礎点が低くされる上に更に不正確なジャンプとして出来栄え(GOE)を減点される、というもの。

例えば3回転ジャンプを跳んだ場合、回転不足と認定されると「3回転の回転不足」ではなく「2回転の回りすぎ」と認定され、2回転の基礎点から更にGOEが減点されてしまうのだ。

この採点方法はファンの間でも疑問視する声が多い。何故3回転からの減点としないのかも理由がわからないこともあるが、これを運用してフィギュアスケートと競技の発展についてメリットがあるようには思えない。また、転倒の場合は減点の上限が決まっているが回転不足認定の減点には幅があるので、失敗した場合リスクが高い。3回転を跳んで転倒した方が、綺麗に着氷して回転不足認定をくらうよりも結果的に得点が高くなる場合も多くなる。
これが最近多い「見た目と実際の得点とのギャップ」が生まれる要因のひとつとなっている。

何よりもモロゾフ氏が言うように、これでは難しい技が出来る、または挑戦しようと思う選手のモチベーションは奪われ、演技が小さくまとまるようになってしまう。また挑戦できる選手のほうが、技術が足りず挑戦すらできない選手よりも点が低くなる可能性が高まるというスポーツとしては信じられない状況を生み出しているのだ。
これでは競技としての発展もなくなるし、見ているほうも同じような演技ばかりで面白さが半減してしまう。

モロゾフ氏が述べている通り、今季は回転不足認定、特に3-3のコンビネーションジャンプについてはことごとく回転不足を取られることが多く、選手やコーチ、そしてファンもフラストレーションが溜まっている。まさに「やらないほうがマシ」という状態になってしまっているのである。
また厳しいなら厳しいで徹底してくれれば良いのだが、いつも認定が甘い選手がいたり、逆に他の選手より毎回厳しく取られがちな選手もいたりして公平性があまり感じられないのもファンにとっては不満のあるところだ。
このような誰も幸せになれないシステムを、しかも五輪プレシーズンに導入というのも理解に苦しむ。そもそもこんなに細かいルールの変更を毎年行っているようなスポーツはフィギュアスケートだけなのではないだろうか。毎年いくつもの細かいルール変更があり、それに全て対応しようと必死で努力している選手たちが本当に気の毒でならない。
選手たちは現在のルールに不満はあってもそれを口に出す事は殆どないが、理不尽な思いをしていることだろうと思う。それでも、減点覚悟で高難度の技に挑んでくる選手たちを見ていると、その技が出来るということも勿論だが、減点されても減点されても挑戦するその姿勢の美しさとアスリートとしてのプライドの高さに本当に頭が下がる思いである。

モロゾフ氏のような現在この世界で活躍している人物がこのような提言をしてくれたことはファンにとっては溜飲を下げるものだったと思う。彼らのような人たちがもっと声をあげて、是非ISUを動かしてもらいたい。ファンもISUにメールを送るなど、出来る事をやった方がいいのかもしれない。


スポーツとは常に技術やタイム、種目によっては併せて芸術性など、とにかく全てにおいて「向上」を目指すもののはずである。このように選手に守りに入らせたり、出来る技をせずにレベルを下げたほうが高得点になったり勝利を得たりするようなものはスポーツとは呼べないはずだ。このルールを決めるにあたりどのような方針や狙いがあったのかはわからないが、運用面で大きな欠陥があったのは否めない。
来年は五輪シーズンとなる。このようなルールは撤廃し、五輪の舞台が選手が思い切り自分の能力を限界まで試せる場になってほしい、選手の能力や彼らの努力に見合った結果が得られるシステムになってもらえることを願ってやまない。


ニコライ・モロゾフコーチ インタビュー(Yahooニュース:2008年12月30日 読売新聞)

ISU(International Skating Union-国際スケート連盟) (英語)
by toramomo0926 | 2009-01-01 20:05 | フィギュアスケート


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