自分に勝てなければ勝利はない
b0038294_150797.jpgフィギュアスケート世界選手権の女子シングルはキム・ヨナ選手がSP、フリーともに1位になり優勝、2位がカナダのジョアニー・ロシェット選手、3位に安藤美姫選手が入った。
昨年優勝の浅田真央選手はフリーのトリプルアクセルでの転倒があり点が伸びず4位。15歳でシニアデビューしてから初めて表彰台を逃す事となった。

ISU World Figure Skating Championships 2009
2009年世界選手権の順位、得点の詳細。
「Laidies」の行の「Results」をクリックすると順位が、右端の「Judges Scores(PDF)」をクリックするとショートプログラム(SP)、フリー(LP)それぞれの得点詳細がわかります。

私は浅田真央選手の演技と人柄、また真摯に競技に取り組む姿勢にすごく魅力を感じ、ずっと応援してきた。
その気持ちは今も揺らぐ事はないけれども、今私は彼女に少し腹を立てている。腹を立てているというか、歯がゆさに苛立っているという感じだろうか。
浅田選手が世界一に十分なれる実力を持ちながら、勝負以前に自分に負けてしまったように見受けられるからである。




彼女は間違いなく現在のスケーターの中で、もしかすると男子も含めて考えてもトップクラスの能力を持っている。また、女子ではほとんど不可能と思われるプログラムをこなす体力も、そのような難易度の高いプログラムに(例え現在のルールでは得点効率が悪い点があっても)挑戦しようとするアスリートとしてのモチベーションの高さというものもある。人の意見を聞ける素直さと謙虚さがあり、ストイックな食事制限に耐えて自分を律する精神力もある。
彼女は、勝利に必要なもの全てを既に持っているのだ。

それなのに、ここ1~2年の彼女は自分の中での不安が拭い去れず、試合になると「迷いが出て」「強気でいけなくて」ミスをし優勝を逃したり、やっていることが凄い割には点が伸びなかったりしている。
練習が足りない訳ではない。彼女は誰よりも努力を惜しまない選手である。自己管理が足りないわけでもない。
要は彼女の気持ちの問題で、自分に自信がなさすぎるのではないか。彼女の真面目さや自分に厳しいというトップアスリートとして申し分のない資質が、却って彼女を苦しめがんじがらめにし、心身ともに試合での動きをこわばらせてしまっているように見える。
しかし、ここでも何度も書いているし勿論彼女自身も骨身に染みて知っているとは思うが、どんなに能力があっても、どんなに練習でうまく出来ても試合でダメなら意味がない、それがスポーツなのだ。

彼女がどういう気持ちで試合に臨んでいるのかは知らないが、彼女にとって敵は他選手ではない。そういう次元は既に超えてしまっている。本当に戦うべきは自分自身だ。しかし現在の彼女においては、戦うというより自分の今までの努力を認め、許し、解き放つ気持ちが必要なのではないか。
真のトップアスリートはたとえ世界1位になってもそれに胡坐をかかず「まだまだ」と思う姿勢は必要だと思うが、彼女は「まだまだ」と思う余り、完璧な演技をストイックに追い求めるがゆえに自分の心と身体を縛り付けているように見えて仕方がない。
彼女は自分に厳しい。厳しいからこそ不安になってしまう。しかしそれで本番に実力を出せなければ意味がない。もう少し自分を認めて褒めてやり、あとは楽しむくらいの気持ちで、お客さんや他選手に自分の努力の成果を見せ付けるくらいの気持ちでリンクに立てるようになればと、痛々しいくらいに見える最近の浅田選手を見ていると考えてしまう。

以前にも書いたが、ニコニコで天真爛漫だった15歳の頃に戻れというわけではない。勝負事、それも世界一を争う戦いではそれだけでは世界一にはなれない。そんなに甘い世界ではない。一度まぐれ当たりでトップを取ったとしても、数年にわたりトップ選手でい続ける事は不可能だ。15歳の頃のままではここまでは来れなかった。
勝負に勝つ難しさ、負ける悔しさを知り、本当の勝利の喜びを知った。彼女は間違いなく正しい道を歩んできていると思う。あとは自分と、これまでやってきた努力を信じぬく強さを持つ事、やるべきことをすべてやってきたのだから、あとは今までの自分を信じ、自己を開放することである。
言うとたやすいこの言葉を実践することがいかに難しいかというのは私もわかっているつもりだが、浅田選手が勝つために何が必要か、今の彼女に唯一足りないもの、必要なものといえばこれしかないと感じる。

彼女は自分についてあまり多くを語らないので、たとえ今回の結果について怪我等の明確な理由があっても、それについて彼女から話す事は、少なくともほとぼりが冷めるまではないだろう。
全ての情報、状況を知りえない立場にいる素人の私が、必死で頑張っている彼女に対してお説教じみた事を書いていることに多少思うところはあるが、それでもなおこれまで彼女が練習では何度も成功させている3-3のコンビネーションや3A、3ルッツなどを試合になるとミスってしまうのを歯がゆい思いで見ていて、今大会の元気のない彼女を見て非常に残念で、そして悔しく、同時に努力と実力を無駄遣いしてしまった彼女に「もったいない」と腹立たしい思いだった。

彼女は昨季ずっとエッジエラーで減点されていたルッツジャンプについて今季はエラー認定されることはなかった(今大会のみ!がついた)が、今大会も軸がぶれて2回転になってしまうなど、最後まで自信を持てない様子だった。
昨オフ必死に1回転から覚えなおし完璧にしてきたルッツを、その矯正にかけた時間を、今季においては無駄にしてしまったのだ。矯正が間に合わなかったわけではなく、本当は跳べるのに自分に負けたことでゼロにしてしまった。また、世界選手権という限られた選手しか出られない試合でトップを取れる実力がありながら、それも無駄にしてしまった。
能力や努力が足りないというのなら、仕方ない面もある。だが、彼女は試合以前に自分に負けて、つかめるはずのものを自ら手放してしまったのだ。
今大会織田信成選手が何回目かのザヤック・ルール違反をしてしまったことについて「またか」と思ったが、同じ失敗を繰り返すという意味では浅田選手も同じくらい、もしくはそれ以上に勿体無いことをしているのだ。

彼女は勿論そのことに気付いてはいるだろう。気付いているし、自ら克服しようとしている事は間違いない。だからこそ最近はインタビューを受けると必ず「攻める気持ちで」「自分の力を出し切る」といい続けているのだと思う。
男子シングルを制したエヴァン・ライサチェク選手のように、最後まで自分を信じきれた人だけが勝利をつかめるものだ。彼女に足りないのは、自分を信じきれる強さ。

今回表彰台乗りすら逃すという敗北は本当に本当に残念ではあるが、たとえ今大会で今のようにぐらぐらした気持ちのまま薄氷の勝利をつかんでも、「2連覇」ということで賞賛はされるだろうが、来期の五輪や彼女自身の今後の成長のためにはならないだろう。この痛い失敗と敗北を辛くてもしっかり受け止めて、確実に来期は自分の努力に対するゆるぎない自信を持って、どんな試合であっても迷いなくリンクに立てるような強さを身につけて欲しい。

まだ五輪まで1年ある。荒川静香さんも五輪前年は低迷したが、苦難を乗り越えて栄光を得た。浅田選手の努力が来年のバンクーバーで報われるように心から祈っている。


Mao Asada 2009 World Championship EX



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by toramomo0926 | 2009-03-29 15:00 | フィギュアスケート


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