来シーズン、回転不足認定を緩和ーISUルール改定
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 国際スケート連盟(ISU)がバンクーバー冬季五輪が開催される2009-10年シーズンのフィギュア規定を改正し、ジャンプの回転不足による減点を緩和したことが17日、分かった。ISUの平松純子技術委員は、4回転ジャンプや浅田真央(中京大)が跳ぶトリプルアクセル(3回転半)、2連続3回転など「難しい技への挑戦を勇気づけ、評価する改正」としている。
 回転不足のジャンプは、ジャッジによる出来栄えの評価で必ず減点対象となっていたが、来季からは加点や減点の裁量をジャッジに委ねる。平松委員は「挑戦しても回転不足となれば基礎点が下がる上に、減点される二重のマイナスがなくなる」と説明した。
[ 共同通信社 2009年4月17日 22:17 ]

これは日本選手だけでなく、フィギュアスケートという競技の発展においてプラスになる改正だと思います。
というか、数年前のルール改正が誰から見てもおかしいものでしかなかったので、やっとあるべき状態になったという感じでしょうか。
ただし細かい内容がまだよくわからず、最近の日本選手イジメ的なルール改正を繰り返している状況から考えると、これだけで済むのだろうかという懸念はありますが・・・(疑心暗鬼)。

昨年までの回転不足厳格化はどういうルールだったかというと、



b0038294_141039.jpgジャンプの回転の認定は、3/4回転(270度)まで回っていれば「1回転」と判定される
(誤差が1/4以下なら認定)というもの。
回転はジャッジ席にいるテクニカルスペシャリスト(毎試合正・副1人ずつ配置される)が映像を巻き戻したりスロー再生したりして厳しく判定します。

それはまあいいとしても、よく分からなかったのは申告よりも回転が不足していると認定された場合です。
選手は全員試合前に必ず演技要素を行う順番やジャンプの種類などの演技構成内容をジャッジに提出しますが、回転不足認定を受けると、「事前申告したジャンプの回転不足」ではなく、「申告より1回転下の回転数のジャンプの回りすぎ」とされ、基礎点が低くされる上に更に不正確なジャンプとして出来栄え(GOE)を減点される(二重減点)、というものだったのです。
選手、関係者、ファンなど全員が「なんで3回転の回転不足なのに、3回転の基礎点からの減点じゃないのか?」と首をひねったといわれる悪法(笑)でした。
ISU側の意図というのは「見た目の美しさ、完成度の高さ」を求めての改正だと思いますが、これは結局選手心理や競技の発展について悪い影響しか及ぼさなかったように私には思えます。

例えば3回転ジャンプを申告し跳んだ場合、回転不足と認定されると「3回転の回転不足」ではなく「2回転の回りすぎ」と認定され、2回転の基礎点から更にGOEが減点されてしまいます。
フィギュアスケートでは全ての技・ジャンプにその難易度に伴った基礎点がついています。3回転と2回転では基礎点は当然違いますから、その時点でかなりの点を失うことになります。
また、減点の規定は転倒の場合は一律-1点と決まっていますが、回転不足認定は減点の幅が不確定です。
GOEの加点・減点の上限はプラスマイナス3点までですが、加点・減点の幅の判断はジャッジに委ねられているため、2点近く点を失う場合も少なくありませんでした。
そうすると得点は殆ど望めなくなります。
例えば3-3と3-2のコンビネーションジャンプで、両方クリーンに着地し見た目には「成功」となる場合も、3-3に挑戦して回転不足認定を受ければ3-2の方が結果的に点が高くなるという状況も生み出し、見た目の印象と実際の得点との乖離が大きくなり、選手もファンも戸惑いました。

要するに、難易度の高いジャンプは「跳ばない方がマシ」(ニコライ・モロゾフコーチ談)という状況を生み出していたのです。

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現在行われている国別対抗戦、ジェレミー・アボット選手のフリーの得点詳細。(クリックで拡大表示)
表左端の番号の右側のExecuted Elementsが演技要素の略号、その右のBace Valueが基礎点、その右のGOEが出来栄え評価です。
< マークがついているのが回転不足認定されたもので、演技要素名と比べてみると基礎点がかなり低くなっているのがわかります。
12番目の要素(下から2番目)の3Aなどは基礎点が8.2点、更に演技中盤以降のジャンプは体力的に難度が増すのを考慮し1.1倍のボーナスがつくので、基礎点は9.02点になるはずでした。
しかし、回転不足をとられたために2Aの基礎点+ボーナスの3.85点が基礎点とされ、そこから更にGOEで2.5点も引かれてしまいました。
このジャンプで彼が得た得点は、わずか1.35点ということになってしまった訳です。

このようなルールは選手の挑戦したいという心理にプレッシャーをかけます。難しい技に挑戦するよりも、技の難易度を下げた方が結局GOE加点がついて得となる場合が多いためです。
申告したジャンプ、3回転なら3回転の基礎点から減点されるならそれは仕方のないことですが、基礎点を1ランク下げられた上に更にGOEでも減点されるのではリスクが大きすぎます。

一方でこのルールは、挑戦できる技術を持たず、挑戦すら出来ない選手の方が結果的に高得点を得る、というスポーツとしては信じがたい状況を生みました。
男子では大きな試合で4回転への挑戦を回避する選手が増え、結局去年と今年、男子では4回転を回避した選手が2年連続で世界王者になりました。
もちろん彼らの演技は本当に素晴らしいものでしたし、彼らの勝利を否定するつもりはありません。ですが、今までは勝つためには迷わず難易度の高い技に挑戦する姿勢、それを成功させる能力が必要だったものが、「勝つために技の難易度を下げる」選択をするかどうかがある意味勝敗を分けたのも事実です。
これでは「競技」とはいえません。

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また女子では3-3の連続ジャンプ、特にセカンドジャンプをループにする選手が軒並み回転不足認定の餌食になりました。

セカンドジャンプはトウループかループをつける場合が殆どですが、セカンドをトウループにした場合は、跳ぶ時にもう片方の足で再度踏み切ることが可能です。
ですがループの場合は1回目のジャンプで着地したその足でそのまま飛び上がる必要があるため難易度が高く、体力と技術が要求される。
トウループよりもループの方が高く飛び上がるのが当然難しいので、これは格好のターゲットとばかりにバンバン回転不足認定をくらったのです。

現在シニアの女子で3-3のセカンドジャンプをループに「出来る」のは安藤美姫選手、浅田真央選手、レイチェル・フラット選手(アメリカ)だけだったと記憶していますが、安藤選手、浅田選手は挑戦を続けたものの、浅田選手に関しては今年認定されたのはたったの1回でした。
フラット選手は今シーズン途中からセカンドジャンプをトウループに変更、基礎点を下げても確実性を狙う方向になりました。
これではルールが(ひいてはISUが)、挑戦できるものを諦めさせるように選手に仕向けているのと同じことです。これでは競技は退化してしまいます。

回転不足認定は必要だと思いますが、二重減点方式はフィギュアスケートの技の発展を阻む結果しか生んでいませんでした。
難易度の高い技は練習が勿論必要ですが、試合で跳んでいきながらでなければ本当に身に付けることはできないと思います。その機会を奪われ、安全策ばかり取っていては競技全体の発展は望めなくなります。
その点、今回のルール改正は久しぶりに「改善」と呼べるものだと思います。
これで見た目と得点のギャップが埋まり、本当の意味で競技に取り組み完成度を上げてきた選手が報われるようになれば嬉しいです。
でもジャッジの権限が増えることになり、彼らのさじ加減で意味の分からない(技術的・映像的根拠のない)ダウングレードが増えなければ良いと思いますが・・・

来季のルール改正はオリンピックに直接影響を及ぼす大事なものなので、ISUには慎重に、選手にとって、また競技の発展にとって良い作用を及ぼすルールの施行、そしてクリーンな運用を望みます。
厳しくするなら全ての選手に公平に、特定の選手に甘かったり、逆に厳しくしたりということがこれ以上ないようにしてもらいたい。


毎年細かいルール改正に振り回される選手は本当に大変だと思いますが、皆さん頑張ってください!


<関連コラム>
スポーツとは「向上」を目指すもの  2009年1月1日
*昨年末の読売新聞で、ニコライ・モロゾフコーチが回転不足認定・二重減点のルールについて批判している記事が載ったときのものです。
by toramomo0926 | 2009-04-18 08:30 | フィギュアスケート


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