浅田真央とタラソワ、1年かけて築いた信頼関係
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浅田選手が先日行われた国別対抗戦、フリーの演技を終えてキス&クライに座った時に、カメラに向かって何か呼びかけていた。
最初は周囲の歓声が大きくて私には聞き取れなかったのだが、彼女が叫んでいたのはコーチの名前だった。

“Hi, Tatiana!”

タチアナ・タラソワコーチのことだ。

浅田真央 2009 国別FS タラソワ解説のみ(字幕)

演技終了時からのタラソワの解説が聞けます。「ブラボー!」の声がすごい貫禄です(笑)



b0038294_2263984.jpgタチアナ・タラソワは「チャンピオンメーカー」と呼ばれるフィギュア界屈指の重鎮、難易度と高い芸術性を両立したプログラム作りには定評があり、今までアレクセイ・ヤグディンを初めとする数多くの五輪金メダリストを輩出した名コーチである。
荒川静香もトリノ直前まで彼女に指導を受け、最後に師事したニコライ・モロゾフコーチも、もともとは彼女の門下生である。

そんな彼女が、ロシアで行われた2006年のグランプリファイナルの際、浅田に「是非指導したい。ロシアにレッスンに来て欲しい」とオファーを出した。
浅田は当時今までの幼いイメージからシニアらしい女性スケーターに脱皮すべく努力していた時期だったため、彼女からのオファーは願ってもない話だった。ただ、彼女は当時米国でラファエル・アルトゥニアンに師事していたためいろいろな調整に時間が掛かったが、その年のオフシーズンにロシア行きが実現、10日間滞在しレッスンを受けることになり、翌年(2007年)のショートプログラムの振付も担当することになった。



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ラファエル・アルトゥニアン、タラソワ、そして真央の貴重なスリーショット。

タラソワは彼女をロシアのトップアスリートのみ使用が許されるナショナル・トレーニングセンターに迎え入れ、表現力や優雅な身のこなしを身に付けさせるべくバレエレッスンを受けさせた。また練習後にはバレエやオペラを観に彼女を連れ出し、ありとあらゆる人々に紹介した。
外国籍の選手としては、それは異例かつ破格の待遇といえる。

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ナショナルトレーニングセンターの塀には鉄条網が張り巡らされ、守衛や番犬(!)までいるという旧ソ連を思わせるものすごい警備体制。セキュリティは万全です。

浅田は滞在中彼女の教えをぐんぐんと飲み込み、タラソワも振付のため浅田にリンクでいろいろな動きをさせてみて「まあ、素晴らしい。何でもできるじゃない。それも綺麗に!」「真央は素晴らしいスケーターとしての能力を持っている。その上、練習熱心で真面目。今までいろんな選手を見てきたが、あんな選手は見たことがない」と手放しで賞賛した。

ロシアから戻った彼女は、驚くほどに変わっていた。演技や身のこなしが格段に優雅になり、体つきさえ変わっていた。上体を自在に使った表現をしっかりと身につけていた。
今までの幼い可愛らしさからしっとりとした女性らしい演技になり、指先まで神経の行き届いた動きが自然とできるようになっていた。



Mao Asada 2007 Japanese Nationals SP

このプログラムがタチアナ・タラソワが初めて手がけた浅田選手のプログラム。
*動画の再生ボタンを押した後、枠の右下に「HQ」という文字が出る場合は高画質で見ることが可能です。「HQ」をクリックしてください。

このシーズン途中にアルトゥニアンコーチと師弟関係を解消した浅田選手は、シーズン終了後、正式にタラソワとコーチ契約を結ぶ。

2008年シーズン序盤はまだタラソワとのコミュニケーションが完璧とはいかなかった。
衝突等は勿論なかったが、沢山練習量をこなし、それによって自信をつけていく浅田選手のやり方と、疲労による怪我を恐れて短時間集中型の練習を勧めるタラソワの試合へのアプローチは全く違っていた。
浅田は新しいこの偉大な指導者に自分の考えを伝えることができず、自分の中で滑り込んだ実感のないまま初戦のエリック・ボンパール杯を迎え、不本意な結果となる。
その後自分の気持ちを正直にタラソワに伝えることをためらわなくなったが、このようなプロセスを経て2人は信頼関係を築いていったようだ。
世界選手権フリー終了後は、滑りきった浅田選手がリンク脇に待ち受けていたタラソワに身を投げ出していた姿が印象的だった。

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抱きついたというよりは、倒れこんだという感じでした。

今回の国別対抗戦にはタラソワの姿はなかった。
母親(姉という説もあるが)が病気を患っており、看病が必要なため、振付等タラソワの補佐をしているジャンナ先生のみが浅田選手に随行していた。
タラソワはロシアに留まり、今大会のロシアでのTV放映の解説を担当していた。
そこへ演技を終えた浅田選手がタラソワに日本から呼びかけたので、彼女はとても喜んでいた。
以前のような言いたいことが言えないような関係ではなく、心から互いを信頼している姿がそこにあった。


浅田真央 国別対抗フリー「仮面舞踏会」 

動画8:25あたりから、演技終了後のキス&クライで「タチアナー」と呼びかける真央選手が見られます。

勿論ラファエル・アルトゥニアンも熱心に指導していたと思うけれど、彼が男性であるということを抜きにしても
タラソワほど精神面までというか、浅田選手の本質まで踏み込んで、内にあるものを引きずり出してくるような指導はしていなかったように思う。 タラソワはすごくタフな指導をする一方で、浅田選手へのおばあちゃんみたいな愛情もすごく見ていて感じられるし、浅田選手の実力を、また彼女自身をを信じる気持ちというのがすごく強く伝わってくる。

来年はいよいよ五輪。このタッグなら、きっと4年に一度の祭典にふさわしい素晴らしいプログラムを作ってくれることだろう。
シーズン終了直後にも拘らず、もう待ちきれない気持ちである。

by toramomo0926 | 2009-04-20 21:50 | フィギュアスケート


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