フィギュアスケートを殺すな
フィギュアスケートを殺すな_b0038294_16172286.jpg「芸術性は消え、スケーターは消え、観客もいなくなる。3回転や4回転の回転不足が回りきっての転倒より低くなるなどナンセンス。
選手はわざとレベルを落とし、点数を稼ごうとするだけの演技をする。
そこに芸術はない。
GOEや演技・構成点のジャッジングが匿名で、かつランダム抽出されるため誰も責任を取らず、一般人は匿名なのは陰謀や取引の為だと見なし、スポーツそのものの信頼性を損なっている。
演技・構成点を絶対評価などできない。」


これは40年間フィギュア・スケート界で貢献し続けレフリー資格をもつパイオニア的存在のソニア・ビアンケッティ氏がISUに出した意見書の一部である。



これは全てのフィギュアスケートの選手、関係者、そしてファンが感じていたフラストレーションを十二分に表現してくれたものであり、また現在のフィギュアスケートの採点において腑に落ちない、透明性のない点が多くジャッジとその判定基準への信頼性が揺らいでいることを真正面から訴える素晴らしいものだと思う。

先日フィギュアスケートにおいてジャンプの回転不足についての採点方法(二重減点方式)が緩和されたことを書いたが、このルール改正においては、各国のコーチや連盟よりこのルールの不合理さが叫ばれての変更だったようだ。
やはり見た目と点数の乖離が激しいこと、回りきって転倒したほうが、一見成功に見えるクリーンに着地して回転不足認定される場合よりも点数が極端に低くなるというものが不評だったのだろう。

私自身、ビアンケッティ氏の意見に一字一句同意です。
昔、見ていて「なんて素晴らしいんだろう」と感動した演技も、今振り返って見てみると以前ほどの感動が得られない、あれ、こんなんだったっけ、と思うことがある。しかしそれでいいのだ。それだけ現在の選手の技術が上がり、表現にしても成熟して、競技として発展してきているということなのだから。
しかし昨季導入された二重減点ルールの前に選手は立ちすくみ、わざと難易度を落として順位を取りに行く選手が増えた。このまま守りに入った演技を強いられていたら(何度も書きますが)フィギュアスケートは競技としての発展はなくなります。そして10年前も今年もあまり演技の質の変わらない、技術的に向上のないものになってしまう恐れがある。
「質の高い演技」というのは守りに入った演技ではない。自分の限界に挑戦し、なおかつ成功したものに与えられる言葉のはずである。

ジャッジも匿名にせず、国名くらいは出せばいいのではないか。隠す理由、必要性がわからない。隠せば自国の選手の勝利に邪魔な選手がいた場合、わざとGOEを低めに設定しても発覚することはない。これは採点不正を機に改正された採点方法としては大きな問題があるやり方である。旧採点方式でさえジャッジの国名は公表されていたのに。
各試合の審判はISUのサイトで国名と名前を確認できますが、「The Judges Panel」の部分に「in random order」とある通り、記載の順番はシャッフルされています。従ってJudge No.1の採点が一番左側のものだとは限らず、事実上誰が採点したものかはわからない形になっています。ビアンケッティ氏の述べていた「GOEや演技・構成点のジャッジングが匿名で、かつランダム抽出されるため誰も責任を取らず」とはこのシステムを指していると思われます。


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浅田真央選手の2008年グランプリファイナル、フリーの得点詳細(クリックで拡大表示)。
3番目の要素である3-2-2のコンビネーションジャンプにおいて多くのジャッジがプラスの評価をつける中、1人だけ-2という、まるでお手付きや大きくバランスを崩す等明らかなミスがあったように極端に低い不自然な評価をしているジャッジがいます(減点評価の上限は-3点)。ですが匿名化されているため、そのジャッジが誰なのか、どこの国かということは分かりません。

今年はオリンピックという選手自身のその後の人生も左右するような大事な大会が控えている。
結局二重減点方式は緩和されたとはいえ、回転不足=ジャンプのダウングレード自体は存続する。但しジャッジにはテクニカルスペシャリストが回転不足と認定したかどうかは知らされないので、回転不足か否かという先入観抜きで、見た目に出来栄えの良いジャンプならば加点することが可能になる。選手にとっては多少の明るい材料にはなった。
あとは運用をどうするかにかかっている。選手の努力や当日の出来栄えを裏切るような判定ではなく、誰が見ても納得できるような、スポーツとしてあるべき判定、採点がなされることを祈るのみである。
政治的、あるいは金銭的なことで順位や得点が決められるようなことはあってはならないし、それをやったら金の卵を産むガチョウを殺すがごとく、スポーツとしてのフィギュアスケートは死ぬだろう。世界中のファンおよびメディアはISU及びジャッジの体質がどのようなものであるかを、来季の選手の採点のしかたから読み取ろうと固唾を呑んで見守っている。ISUとジャッジは肝に銘じて、誇りを持って仕事をして欲しいと思う。


<関連ブログ>
来シーズン、回転不足認定を緩和ーISUルール改定 2009年4月18日
スポーツとは「向上」を目指すもの 2009年1月1日

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世界国別対抗戦のバンケットにて。
左から浅田真央選手、ジョアニー・ロシェット選手(カナダ)、キャロライン・ジャン選手(アメリカ)。

by toramomo0926 | 2009-04-26 16:04 | フィギュアスケート


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