キム・ヨナ選手、どう出るか
キム・ヨナ選手、どう出るか_b0038294_20193971.jpg先日、キム・ヨナ選手の来シーズンのジャンプ構成の話を耳にし、また昨日友人のブログで詳しく理解しました。
彼女はショートプログラム(SP)で3ルッツ-3トウループ(3Lz-3T)に挑戦するそうですね。



SPは演技時間が2分50秒と短いため、入れられるジャンプ要素が3つしかない。また入れられるジャンプの種類もある程度決まっています。

1.3回転の単独ジャンプ(アクセル以外なら種類は問わない)
2.3回転-3回転、または3回転-2回転の連続ジャンプ
3.アクセル(A)ジャンプ
(唯一前向きに踏み切るジャンプ。また、着氷は他のジャンプと同様後ろ向きになるので通常のジャンプより半回転多くなる。この2つの要素のために他ジャンプより難易度が高く、基礎点も多い。)

の3つだけ。あとはジャンプ以外のスピンやステップ、スパイラルなどの要素が必要です。
また女子の場合はトリプルアクセル(3A)を跳べる選手は数えるほどしかいないため(現在は浅田真央選手と中野友加里選手)、殆ど自動的にアクセルジャンプはダブルアクセル(2A)となります。
そのため3回転単独ジャンプと3-3の連続ジャンプにいかに基礎点の高いジャンプ(主にフリップやルッツ)を取り入れ、そして成功できるかが鍵となります。
また演技要素が少ないため、失敗すると取り返しがつきません。ひとつでも要素を失敗すれば通常、順位は落ちます。
唯一昨季のグランプリファイナルでキム・ヨナ選手が3回転ジャンプ(ルッツ)がすっぽ抜けたのに、『何故か』ノーミスの浅田選手を抑えてSP1位、という椿事もありましたが・・・(苦笑)。

彼女はずっとフリップジャンプがロングエッジ(Wrong Edge-不正エッジ)で跳んでいると一部のフィギュアファンから指摘され、また足元アップのスローで完全に逆側に傾いたエッジで跳んでいるのを映されながらも『何故か』ジャッジから毎回見逃され、高い加点を得てきました。
しかし昨年途中からロングエッジ認定や、その一歩手前のアテンションを受けるようになり、それでも他選手よりはずっと甘めの認定ですが、彼女にしてみれば不安要素にはなりつつあったようです。
五輪シーズンとなり、彼女もさすがにここへきてロングエッジ問題に取り組まざるを得なくなったという感じですね。

しかし、私は彼女の本当に取り組むべき課題は「フリーでのノーミス」なのではないかと考えています。
彼女はシニアデビューしてから今までずっとSP、フリーともにジャンプの構成を変えず、技術的な向上よりも今持っている技を磨き上げるのが戦略とされてきました。彼女の演技は「技術的な向上はないが、質は高い」ということになっています。しかしジャンプはイメージほどは安定してはいません。
確かに3-3ジャンプの高さとスピードには定評がありますが、(ロングエッジ問題はあるにせよ)安定しているのはこのコンビネーションだけで、実はループやルッツジャンプで転倒やすっぽ抜けも少なくはない。また演技冒頭の3-3には切れ味があるものの後半になると明らかに動きに疲れが見られ、表情の力強さの割に動きやステップの足さばき等が多少緩慢になります。恐らく体力的にも課題があるように思います。
彼女はシニアデビュー後、フリーでのノーミス演技というのは一度もないと記憶しています。ロングエッジ問題もさることながら、これを彼女が改善してくるかというのも今季を占う大きな材料となるでしょう。

現在の彼女の状況について思い巡らせると、今年3月の世界選手権の演技(ジャンプがひとつすっぽ抜け、2回同じ内容のスピンをしてしまい1つが無得点になった)でも、『何故か』男子も真っ青の207点獲得でぶっちぎり優勝したという『偉業』は、(そのときは良かったでしょうが)世界女王として迎える今シーズンにおいて、彼女にとっては大きなプレッシャーになるかもしれないなあとはちょっと思っています。
韓国のファンはこれからもっと数字的にインパクトの高い点数(207点以上)を毎回期待するでしょう。ヨナ選手自身、どこまで本気なのかわかりませんが『215点を取る』とか話していた記事を見ました(・・・)。

しかしジャッジが今後もあれだけの大盤振る舞いをしてもらえるか、といえばちょっと分からないですよね。
あの点数はフランス等他国の解説者からもかなり叩かれていたようなので。
キャンデロロとか、怒り狂ってましたね。まあ彼はもともと小さい頃から浅田真央に目をかけており、真央びいきだというのはありますが、それを差し引いてもかなりな怒りようでした。
また以前私が「フィギュアスケートを殺すな」という記事で取り上げたOGの方のコメントも世界選手権を受けてのものだったと記憶しています。
世界選手権での彼女の得点の超インフレ振りは結果的に彼女に対して今季のハードルを上げてしまったと言うか、必然的にレベルアップがこれまで以上に国内外から要求されるようになるでしょう。

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彼がフィリップ・キャンデロロ。彼のエンターテインメント性たっぷりの演技は今も伝説で、今もアイスショーで大人気。このナマズひげをご記憶の方も多いのでは。

まあ、私の彼女についてのネガティブな予想は大体外れるので(苦笑)、今年も彼女はジャッジに愛されるだろうなと思いますけどね。でも公平な採点だけはお願いしたい。
確かに私は彼女に対してあまりいい感情は持っていないのは認めますが、客観的に見ても、シットスピンひとつとっても彼女には極端に認定や加点が甘く与えられ、一方で減点要素に対する見逃しが多い状況であるのは否定できないと思います。
規定にある「曲がっている足の曲がりが90度以上(しっかり腰を落としてしゃがんでいる)」の要件を満たしていない、あれだけ腰高なシットスピンや、足元の密度の少ないステップがレベル4(最高難度認定)というのはどうしても納得がいかないので。

Sit Spin集

世界トップクラスのいろいろな選手のシットスピンをつなげたもの。片足で腰を深く落としてしゃがむのは体力的にもきついですが、レベル獲得の為にみなさん頑張っています。

動画を見ると、最初のサーシャ・コーエン選手の映像はトリノ五輪の頃で今のルールの時ではないですが、しっかりしゃがんでいますね。安藤選手もしっかり腰を落としている。その中でもキム選手の映像(レベル4認定+0.5点の加点あり)だけが際立って膝の曲がりが甘く、腰高なのがおわかりいただけると思います。
一度しゃがんだ後、少しだけ腰の位置が上がってきているように見え、全体的にお尻の位置が曲げている膝よりも高い位置にあります。座り方が浅いということですね。
特にキム選手の次に出てくる浅田選手の映像と比べると、浅田選手は曲げている足の太ももとふくらはぎがくっつくほどに足をしっかり曲げています。キム選手と浅田選手は身長や足の長さはほぼ同じくらいなはずなのに、シットスピンの時の腰の高さ、足の曲げ具合の違いははっきり認識できると思います。
まあ浅田選手は他選手と比べてもかなり深い座り方ですが、しかしもし浅田選手がキム選手くらいの浅いシットスピンをすれば、たちまちレベルは下げられてしまうでしょう。

採点競技は公平に行われなければ競技そのものの意味がなくなり、また勝利の価値もなくなってしまいます。
五輪の成績は選手のその後の人生に重大な影響を与えます。金メダルか銀メダルか、または表彰台に乗れるか乗れないかというのは非常に重要な違いを与えるので、公平なジャッジが行われることを願って止みません。
キム選手がどういう戦略で今シーズンに臨んでくるか興味がありますが、とりあえず競技と他のスケーターに敬意を持って、世界女王に相応しい内容の演技を見せて欲しい。
そうすればフィギュアスケートはエキサイティングなスポーツとして更に支持されるでしょう。


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by toramomo0926 | 2009-08-05 19:48 | フィギュアスケート


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