浅田真央選手のプログラム使用曲について
b0038294_15165157.jpgこれは私が浅田真央選手の来季使用曲への理解がまだ全然足りないことと、演技の全容がわからないが故の一過性の危惧だという事を最初に書いておきます。

恐らくシーズンが始まればよい形でこの不安は裏切られることになると思いますが、今現在の私の考えていることを書きます。
今の私には選曲について3つの心配があります。それは、

・楽曲の選択にタラソワの好みや意思(ロシアの重厚な音楽を使う)がかなり色濃く反映されている(気がする)
・ショートプログラム(SP)が昨年のフリーと同じ楽曲(仮面舞踏会)である
・フリーの楽曲「鐘」がかなり重厚で、同じフレーズを多用する曲である

ということです。




タラソワが真央選手を導いている方向は間違いないと思っているし、実際彼女はタラソワについてから飛躍的にスケーターとして成長しました。それは間違いないところで、真央選手のファンとしてタラソワの手腕を私は信じています。ですが、タラソワが最初に手がけた「ラベンダー」は真央選手のイメージにかなり合うものだったと思うけれど、だんだん選曲が「真央選手のカラーを生かす」と言うよりは「タラソワ色」を前面に出すようになりつつある感じがしているのがちょっと気になっています。
タラソワと真央選手のこれまでの選曲はどれも素晴らしいものだったので、彼女達のセンスや判断を信じていない訳ではないのですが。

Mao Asada 2008 Worlds SP "Fantasy For Violin Orchestra"
*貼り付けられる動画が消されてしまったので、タイトルのリンクからYoutubeのリンクへ飛んでください。
これが通称「ラベンダー」と言われているプログラム。映画「ラベンダーの咲く庭で」のサントラからの曲を使用しています。この振付をタラソワが担当したことが、のちに真央選手と師弟関係となるきっかけになりました。真央選手の歴代プログラムの中でもトップを争う人気の作品です。
2007年全日本選手権・ショートプログラムでの演技。


カナダCBCのトレイシー・ウィルソンなどは昨シーズンの彼女のフリー(仮面舞踏会)についてはあまり気に入らなかったみたいでしたね。彼女は真央選手を常に「Lovely, lyrical Skater」(可愛らしく詩的なスケーター)と評しており、真央選手が表現するショパンの世界がとても好きだったようなので、あまりロシアンスタイルの力強い曲は合わないと思っているようでした。私は仮面舞踏会も大好きなプログラムだし、彼女の意見に完全には同意できませんが、言いたいことは理解できました。彼女にしてみれば聖歌隊にハードロックを歌わせているような違和感を覚えたのではないでしょうか。
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それに真央選手はずっと振付で組んでいたローリー・ニコルから離れてしまいましたね。
ローリーの振付は、初めの頃は年齢に合わせた真央選手の自然な可愛らしさを、年齢を重ねるにつれて彼女の繊細な優美さを引き出すことに成功していました。
ショパンや月の光のイメージは国内外問わず真央選手を象徴するものになっており、あの繊細な世界の表現は彼女の人気を支えている要素のひとつです。これを(たとえ一時的にであっても)五輪イヤーに手放す、というのは戦略的に結構リスキーではないか、という危惧も自分の中に少しあります。昨年は仮面舞踏会が重厚な曲でしたが、ローリー振付のSP「月の光」で真央選手の繊細な曲の表現ができてちょうどバランスいいなと思っていたのですが。

Mao Asada 2006 SA SP "Nocturne"

彼女の本格シニア参戦の年、初戦のスケートアメリカでのSP、ショパンのノクターン。ローリー・ニコル振付。
この前年「くるみ割り人形」で15歳と言う最年少でグランプリファイナル(GPF)を制しての優勝、という実績を引っさげてのシニアデビューでかなり注目されていましたが、この演技はESPNの解説者も「氷に優しい滑り、自分が今まで見てきたた中でも最高の選手の1人」と絶賛。今と比べると粗さは目立つものの、未だに彼女のベストパフォーマンスのひとつとしてファンからの人気が高い。
彼女とショパンの出会いの曲でもある(と思う)。この後、ローリーでショパン、という彼女のスタイルが数曲の間ながらも定着、ファンや解説者に強烈な印象を残しました。


Mao Asada 2008 GPF SP "Clair de Lune"

ローリー・ニコル振付のSP「月の光」。昨季グランプリファイナルでの演技です。
昨季のベストパフォーマンスのひとつだと思います。コメンタリーなしだと本当に曲と同化しているのがよくわかる。


また、来季のSPは、振付は変えてくるでしょうが、昨年フリーと同じ「仮面舞踏会」にしたとのこと。
昨季の「仮面」が今までの真央選手のイメージを変えるかなり革新的でインパクトが強いものだっただけに、同じ曲をSPとはいえ使用するという事はジャッジに対してのインパクト、新鮮味の意味でどうかな、ともちょっと思うんですよね。採点基準に「新鮮味」とかいう項目は勿論ないし(笑)、同じ曲(演技)を連続して使う選手は珍しいことではないのですが、ジャッジも人間なので、そういう心理的要素が働かないかといえばわからないなと。
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勿論SPとフリーでは演技時間も違うので全く違う編集になると思いますし、来季は昨季のような「力強さ」ではなくニーナが初めて舞踏会に来た時のワクワク感を演じる、というような話をしていたと記憶していますが、よほどうまく違いを出さないと「焼き直し」に見られてしまう可能性もある。そこを分かった上であえて同じ曲で差を出そうとしているのなら本当にものすごい作戦だと思うし、それを達成できたら彼女自身更に別次元のスケーターになれると思います。そうなってくれるといいなあ。

Mao Asada 2009 World Team Trophy-Waltz Masquerade

タチアナ・タラソワ振付のフリープログラム「仮面舞踏会」。ものすごくタフなプログラムですが、優雅さと力強さを両立させた素晴らしいプログラムになりました。
トリプルアクセルをダブルアクセルか他のトリプルジャンプに変えたとしても、恐らく今女子でこのプログラムを滑りきれるのは技術的・体力的にも彼女だけだと思いますね。今年の国別対抗戦での演技です。


そうやって心配してはいるものの、彼女の選択が間違っているというつもりはないんです。
確かにショパンに代表される優雅・繊細路線は真央選手の得意分野ではありますが、この方向ばかり追い求めていると演技のイメージが毎回同じというかパターン化してしまい、それこそ「新鮮味」や「おもしろみ」がなくなるというのも理解できます。
恐らくタラソワに師事することがなかったら、ずっと彼女はあの路線のプログラムを(少なくともSPとフリーのどちらかでは)滑っていたでしょう。それはそれで完成度の高いものになったと思うし間違いとはいえないと思いますが、彼女はひとつのイメージのまま、そこで止まっていたかもしれません。今の彼女のようなたおやかでありながら力強く、身のこなしが洗練されたmatureな(ニュアンスが難しいのですが、女性として成熟した、という感じでしょうか)スケーターとしての彼女は生まれなかったと思います。
昨年からの重厚路線への転換というのは、たとえそれがタラソワの好みが色濃く出たものであったとしても、彼女の演技やスケーターとしての個性に幅を生み出すものだったとも思うんです。タラソワの狙いもそこにあったと思います。彼女は本当に真央選手に自分の全てを注ぎ込み、自分の集大成として完璧なスケーターに育てようとしており、それが現実的に可能だと思っているように感じます。そして彼女への愛情と信頼もすごく感じられますよね。また、真央選手自身からもタラソワへの信頼を感じます。

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フリーで使われる「鐘」については、去年の仮面舞踏会に続き、というかそれより更に「重厚・・・」と思うものでした。ロシア的な重厚さが更に増している感じですね。
ですが、これも仮面舞踏会と同様、聞けば聞くほど耳の中に残ると言うか、頭の中でエンドレスに流れてしまう中毒性もあるように思います。
ただ、あまりにも同じフレーズが繰り返されるので、これは相当頑張らないと単調になってしまうんじゃないかなあ、と正直思いました。文字通り「表現力」が求められる曲だと思うんです。
「ボレロ」も同じフレーズがずっと繰り返され、スケートでもバレエでも踊りこなすのはとても難しいというか、演技者に高い水準を求める曲ですよね。それと同じものを感じます。
なので彼女はどこまでハードルを上げれば気が済むのか、というか(笑)真央選手本人はこの曲を「下からジワジワ沸きあがる感じ」ととても気に入っているようですが、初めて報道で曲の一部を聞いたとき、「そりゃそうかもしれないけど、大変だよ~これ・・・」と思ったのをよく覚えています。
どのように曲が編集されるのかまだわかりませんが、「鐘」には重厚な部分と繊細な部分があり、真央選手が今までのイメージを残しつつ新しい迫力のあるスケーターであることを表現できる、彼女の今までが全て出せる曲だとも思います。

Mao Asada Montage-Prelude in C-Sharp Minor Op.3 No.2 "Bells of Moscow"

これが今季の使用曲「鐘」。ファンの方が映像や写真をつなげたモンタージュを作っています。
この曲がどんな風に編集され、どんなプログラムとなってくるのか、早く見たいですね。


あの最後の盛り上がりのところを聞いていると、演技終盤のステップで体をのびのびと使って滑る真央選手を想像できる気がして、うまくいけばものすごくドラマチックな、音楽よりも真央選手の演技、体の動きが前面に出たものすごい迫力のあるプロになるかもしれないなあと思っています。
去年も心配していた仮面舞踏会は大好きなプロになった(私は今でもあれを「女王のプログラム」だと思っています)ので、杞憂に終わるだろうと期待はしているのですが、まだ見えない部分が多いので安心しきれない状況です。ですが私はタラソワの編集のセンスはすごいと思っているので(『仮面舞踏会』や『ラベンダー』はオリジナルよりもタラソワ編集バージョンの方が好きなくらい)、不安もありつつも、それ以上に2人がどんな素晴らしいプログラムを作ってくるか、見るのが待ち遠しい気持ちでいます。そして今の不安が最高の形で裏切られるのを楽しみにしています。

高橋選手も昨日からショーに復帰して、いよいよという感じですね。そして真央選手の初戦はフランス杯、ヨナ選手とコーエン選手も!あとコストナー選手も出ますよね。しょっぱなからもうすごいメンツで、今からドキドキです。試合当日は何も手につかないかも(笑)
私個人的には真央選手が優勝してくれれば嬉しいけれど、とにかく全ての選手がベストを尽くした上で、誰もが納得できる結果になりますように。


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by toramomo0926 | 2009-08-23 15:15 | フィギュアスケート


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