浅田真央に何が起きているのか-グランプリシリーズ ロシア杯
b0038294_8581618.jpgロシア杯が終了。女子シングルは安藤美姫選手が優勝、浅田真央選手は5位でした。
ジャンプの調子が上がらないという報道がなされていましたが、それでも正直5位というのは驚きでした。
他の出場者の方には大変申し訳ないが、実質的に優勝を争うのは安藤美姫選手のみで、どんなに調子が悪くても出場者のメンツを考えれば浅田選手が表彰台を逃すことはない、と考えていた方は多いのではないでしょうか。私はそうでした。
しかし、彼女は3月の世界選手権に続き、シニアに上がってから2度目の「台落ち」をした。そして五輪選考の大事な場となるグランプリファイナル出場への望みはかなり薄くなりました。

現在の浅田選手に何が起きているのでしょうか。単に「調子が悪い」だけならいいのですが、事態はもっと深刻なのではないかと心配しています。
今の彼女は、私には体と心がバラバラで、動こうとする体に心がついていっていないように見える。それが一番気になっています。

ISU Grand Prix Rostelecom Cup
ロシア杯の順位と得点詳細。
それぞれの種目の「Result」で総合順位と総合得点が、ショートプログラム(SP)とフリーの「Entries/Result Details」では得点詳細が、「Judges Score」では各選手の全ての要素の内容と、それにジャッジがどのように得点をつけたかを見ることができます。




彼女はずっと国際試合に出続ける人生を送ってきました。調子の波や体の成長に伴う調整に苦しんだ時期はあれど、彼女がスケートが嫌いになったり、競技への情熱を失うことは基本的になかった。
彼女の心が「折れた」のは、私たちが知る限り一度きりです。
それは昨年12月グランプリファイナルで優勝した時、自分の力で勝ち取った勝利であることを否定され、ライバルがミスしたためのタナボタ的な勝利だとする報道が国内の一部のメディアでなされたことを知った時です。

b0038294_10141790.jpg彼女は練習への意欲を失い、翌年2月の四大陸選手権(3位)のときは「もうどうだっていいやという気持ちだった」とインタビューで述べています。
それだけあの凄まじい難易度のプログラムを滑りきる技術、体力、表現力を培うために彼女が努力していたということでしょう。
ライバルの国のメディアがそう書き立てるならまだ理解できますが、自国(のメディア)が自分を全く評価していないという事実は彼女にはショックだったに違いありません。
その事実を知ったのはつい最近(10月14日付読売新聞)ですが、今回の彼女の元気のなさは、あの四大陸の頃の頃の様子を思い出させるものがありました。

それとも、彼女はどこかに深刻な怪我をしているのでしょうか?私は専門家ではありませんが、見たところそうは思えません。
彼女は怪我をしても外部にその事実を知らせることは決してありませんが、怪我の為にモチベーションを失うということは絶対にない選手です。むしろそれで吹っ切れて、良い結果を出したりすることもある。2008年の世界選手権の直前に彼女はかなり深刻な怪我をしましたがそれを気取られることは全くなかった。彼女はトリプルアクセル(3A)で転倒するも後の演技を完璧にまとめ、優勝しています。

今回の彼女の状態は、心理的、精神的に大きな打撃となる何かがあったためではないかと考えています。
今年のグランプリファイナルに出場し、そこで表彰台に上がり日本人最上位になれば五輪内定が得られます。今回の試合がそのための大事なステップであることは彼女は骨身にしみて知っているはです。それをもってしても、彼女は自分を駆り立てることが出来なかった。
フランス杯での演技も堅くはありましたが、それは実質(ジャパンオープンは正式な形式の試合ではないので)シーズン初戦という緊張もあったということで理解できます。彼女はシーズンしょっぱなから絶好調ということは殆どなく試合を重ねて調子を上げていく選手だし、3Aも決まらず決して素晴らしい内容の演技でなかったものの、あのメンバーの中で2位になったというのは、報道は相変わらずではあったけれど、ある意味収穫はあった試合だったと思っています。
しかし、今回はそれとは少し違う印象を持ちました。フランス杯は「緊張してるな」という感じでしたが、今回は「元気がない」ように見えたのです。

ここからは完全に私の推測ですが、フランス杯でのキム選手との点の離され方、採点の傾向に対するショックと言うのは彼女にとってかなり大きかったのではないでしょうか。
以前も書きましたが、あのアホらしいともいえるキム選手一人への大幅な加点、そして減点への免除ぶりは、「努力し向上していけば道は拓ける」という彼女の信念を打ち砕くには充分なものだったからです。

b0038294_1123118.jpg現在の彼女の心身の状態がどのようなものかということは報道や映像での彼女の様子からしかうかがい知ることはできません。
また彼女は自身で弱音を吐くことが殆どありませんが、今回、今年に限ってはせめて周囲のスタッフに気に掛かっていることがあるなら全て吐き出し、具体的に解決していくことによって立て直すという作業が必要な気がします。

トリノ五輪金メダリストの荒川静香さんも、五輪イヤーでは新採点法に戸惑い、グランプリファイナルを逃しました。しかしその間スケジュールが空いたことで一旦冷静に自分を客観的にみつめるきっかけとなり、じっくり自分と向き合う時間ができたと語っています。
彼女にとってはそれがうまく作用した。浅田選手ももしファイナルを逃す事態になったとしても、その時間を有効に使って、美味しいものを食べてゆっくり心身を休め、自分を大事にしてあげて欲しいと思います。

彼女を「メンタルが弱い」と叩くことは簡単です。しかし彼女は毎年のようにルール改正において狙い撃ちされ、「浅田つぶし」と言われるほどのルール改正に立ち向かってきました。
例を挙げればいろいろありますが、例えば彼女は以前、あまり得意ではなく基礎点も低いサルコウジャンプをプログラムに入れていませんでした。
2008年彼女が世界女王になると、「アクセル以外の5種類のジャンプを全て跳んだものにボーナスを与える」という改正案が持ち上がったという話が出ました。そこで、世界選手権翌月に行われたジャパンオープンで、彼女は「試しに」サルコウに挑戦しました。
彼女はサルコウは苦手としていますが、跳べないわけではありません。浅田がサルコウを跳んだということはファンの間で話題となり、Youtube等でも動画が複数あがりました。
その後ISUにおいてルール改正についての会議が開かれ、08-09年シーズンのルールについて発表がなされましたが、「5種類ジャンプへのボーナス」案はいつのまにか立ち消えになっていました。

これが偶然かどうかは証明できませんが、彼女はシーズン最初はサルコウをプログラムに入れ、その後サルコウをループに変えるということをしています(今季もそうでした)が、これはそのことと無関係ではないように思えます。
彼女は試合だけでなく、それ以外のものとも戦ってきています。それでも「努力していい演技をすれば」と思って取り組んできたに違いありません。それは勿論他の選手も同じです。
しかし今回フランス杯でその最後の望みも打ち砕かれた、彼女の人生を支えてきた根幹そのものが否定されたように感じたのではないか、もう何をやっても五輪優勝者は決まっているのではないかと彼女が感じている事態を心配しています。また、キム選手のフランス杯の得点はそう思わせるに充分の破壊力がありました。

日本のマスコミはせめて彼女を執拗に他選手と比較したり、無意味なプレッシャーをかけることなく、もう少し温かく見守る姿勢を持って欲しい。トリノのときの安藤美姫選手を潰したことについて何の反省も持っていない日本のマスコミについても非常な危惧を覚えます。

浅田選手の演技はジャンプが不調な時ほど、スケーティングの滑らかさ、ポジションの美しさがある意味強調されるように感じます。今回も練習の成果をそういう点では見ることが出来たと思っています。
彼女にこれ以上「頑張れ」というのは酷かもしれませんが、復活を待ちたいと思います。五輪の舞台で絶対に彼女を見たいし、彼女のいない五輪でメダリストが決まっても、それは実質的に正当な順位づけではないと思うから。

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by toramomo0926 | 2009-10-25 08:45 | フィギュアスケート


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