全日本選手権が終了しました。 今年の全日本は五輪選考会も兼ねており、男女ともに優勝者は自動的に五輪出場が内定します。試合終了後そのまま内定者決定の発表が行われ、男女ともに2010年バンクーバーオリンピック出場者が決定しました。 男子: 高橋大輔選手 織田信成選手 小塚崇彦選手 女子: 浅田真央選手 鈴木明子選手 安藤美姫選手 内定のみなさん、本当におめでとうございます!! 男子については3枠と決まった時から「この3人であるのはほぼ間違いないだろう」と思っていました。また一般的な評価もそうだったと思います。実際彼らの力は抜きんでているものがあるので。 怪我から復帰し、試合を重ねるにつれてどんどんプログラムの質を上げていく様子は、私たちに今までの彼の華麗な演技だけではなく、その演技を作り上げるまでにどれだけの積み重ねが必要なのかというのを目に見える形で教えてくれたように思います。 彼の演技の魅力はステップの技術などはもちろんですが、「表現力」という言葉が必ず使われます。ですが、今季の彼の演技はもはや「表現力」などという小さいものでは測れないくらいのものを私たちに見せてくれているように感じさせます。 なんというか言葉にするのが難しいですが、「魂の発露」というか、もっと彼の奥深くの根源的なところから何かを放出してきているような気がするんです。もう「演技」とか「表現」ですらなく、もう彼はそのプログラムに隙間なくぴったりと重なり、見分けがつかなくなるほど溶け込んでいる。彼そのものを演技を通して見ているみたいな気にさせられることが、今季何度かありました。 そういう気持ちを感じさせてくれる選手、または演技は本当に少ない。今季彼によって、そういうものを見せてもらっているような気がしています。 Daisuke Takahashi 2009 Japanese Nationals FS- La Strada オリンピックの舞台で最後のストレートラインを見る瞬間が今から待ちきれません。間違いなく観客を巻き込んだ感動的な演技になると確信しています。がんばってほしい!そして引退しないでほしい!! 織田信成選手はさきのグランプリファイナルですでに出場を決めていましたが、全日本連覇を目指して今大会に臨みました。 彼は今回ジャンプの転倒や技の出来栄えとは別に、演技全体に全く精彩がない気がしました。特にショートプログラムがその印象が強かった。完全に曲負けしているというか、集中できてないというか、こなしているだけというか、上の空のように思えました。 彼の滑りや表情などから、グランプリシリーズで私をゾクゾクさせた気迫や今季に賭ける凄み、みたいなものを読み取ることはできませんでした。 フリーでは滑っている彼は凄く楽しそうだったけど、個人的にはやはりきれいな演技とは思いましたが、心は動きませんでした。 彼のチャップリンは大好きなのに、すごく曲に助けられてるな、という気さえしてしまった自分に驚きました。 彼に対してあまりネガティブな感情を持ったことはなかったのですが、高橋選手や小塚選手の迫力に当てられたのかもしれません。 しかし織田選手の立場になってみると、むしろ高橋選手や小塚選手みたいにしっかりした目標がないと、却って試合に向けて気持ちを高めるというのは難しいのかもしれませんね。 いつも「絶対に勝つ!」と思って試合に臨んでいるのに、「今回はどうしてもってわけじゃないんだよな」という要素が少しでもあれば、却って集中しにくいのではないでしょうか。勿論そういう気持ちで試合に臨んだわけではないでしょうが、やはり精神的な追い詰められ方は他選手の方が相当強かったと思います。 立場的に一番楽なはずな彼が、実は一番(別の意味で)プレッシャーを感じていたのかもしれません。 また、彼にとって「高橋大輔」という存在はやはり特別なのかな、とも思ったりしました。 Nobunari Oda 2009 Japanese Nationals SP- Totentanz そうはいっても滑りの美しさ、ジャンプの柔らかさは男子では群を抜いていますよね。今季はとても安定しているので、五輪でもきっと素晴らしい演技を見せてくれるでしょう! 小塚選手は3位に食い込み、見事代表内定も得ました。 ですがそれも彼の実績があってこそ選ばれたということで、堂々と胸を張って五輪に挑んで行ってほしいと思います。 一昨年は織田選手が不在で、昨年は高橋選手がいなかった中で、あなたは間違いなく五輪3枠取得に多大な貢献をしたのですから。 小塚選手とその活躍がなかったら、間違いなく男子の枠は2枠か、ヘタしたら1枠に減っていたはずです。 Takahiko Kozuka 2009 Japanese Nationals FP -Guitar Concerto 今季の曲もSP、フリーともに大好きです。彼もファイナルを逃してからじっくり調整してきたようでしたね。顔つきもきりっとしていましたし、体もすごくしなやかでした。 そしてSP、フリーともに構成を少し変えています。「より曲を深く表現するために」少し手直ししたのだそうです。 トリノ五輪もファイナルに出場しなかった荒川静香さんとサーシャ・コーエン選手がメダルを取っているので、試合勘をなくさないためにファイナル出場は大事ともいえますが、試合をいくつかこなして課題を見つけてからファイナルをスキップしてじっくり調整する、というのも必ずしも悪い展開ではないのかもしれません。 あと男子では無良崇人選手と町田樹選手が印象に残りました。 無良選手は腰を痛めてグランプリシリーズを欠場していたということです。やはりまだ痛みはあるようで、彼自身も納得の演技とはいかなかったようですね。 ですが、私は昨季の彼より今季の彼の演技の方が好きです。昨季はダイナミックだったけれどちょっと荒削りすぎる印象があったのですが、今季の彼はとても丁寧に演技をしていて、洗練されたように見えました。髪を短くしたのもポイント高いかも(笑) 町田樹選手は19歳とは思えない(といっては失礼ですが)繊細な見た目、体格ながら、高いジャンプをするのにびっくり。そして身のこなしや感情表現もとても神経を使って、良い意味での集中も感じられました。 彼自身全日本で会心の演技ができたという経験はこれから彼を力強く伸ばしていくと思います。ちょうど一昨年前の世界選手権での小塚選手のように、躍進の良いきっかけになるといいですね。 つづいて女子。 男子は3人と3枠、というとてもわかりやすい構造だったのですが、女子は実質代表争いをしていたのは浅田真央選手、安藤美姫選手、中野友加里選手、鈴木明子選手でした。五輪最大枠の3枠を持ちながら、まだ足らずに4人で争うというこの状況は現在の日本フィギュアの隆盛ぶりをとてもよく表してはいるのですが、みんな行かせてあげたくて見ている方は本当に胃が痛む思いでした。 SP、フリーともに転倒が極端に少ないという本当にレベルの高い争いだったと思います。今日の新聞広告に「日本代表になるまでの道が、一番険しい」というコピーがありましたが、全くその通りと思いました。国際試合でもないような激戦ぶり。しかも総崩れの中ミスの少ない選手が・・・という展開ではなかったのですから。 まずは浅田真央選手、今大会優勝で見事五輪出場を勝ち取りました。 まあ今季は点数が低めだったのでSP、フリーともに大きなミスなく終えてのシーズンベストは当然でしょうが、200点越えは嬉しかった。 また、なにより嬉しかったのは、真央選手がSP終了後に見せた笑顔でした。 今大会、彼女が納得できる演技をしてほしいとずっと思っていました。彼女自身が「やった!」と思える演技なら、絶対に結果はついてくると確信していたし、技術も芸術性も充分、あとは彼女自身が自分を信じ切れるかどうかだと思っていたので、この結果は本当にうれしかったんです。 Mao Asada 2009 Japanese Nationals SP- Waltz Masquerade 「構成に余裕を持たせる」という話でしたが、本当に大幅に変えてきましたね。ステップの時間を短くし、つなぎを多少余裕を持たせ、スパイラルもポジションの順序を逆にしてやりやすくした。ステップ自体もかなり変わっていました。 ですが去年のステップは「夫から毒を盛られて苦しむニーナ」の描写だった筈なので、SPのテーマの「初めての舞踏会での高揚感」にはそぐわないようにも感じていたため、今回の本当に踊っているような優雅なステップの方が合っているのかもしれません。 ところでTVで、真央選手が申請した演技構成は「3A-3T」だったと聞いたのですが、これは本当なんでしょうか?だとしたら、本当に男子並みのプログラムを準備していることになりますね。本当にどこまでいくつもりなんでしょうかね・・・。 今大会練習の映像からも明らかにジャンプの調子が戻ってきたという手ごたえが素人目にも感じられました。 祈るような思いで見ていましたが、決めてくれて嬉しかった! でも、トリプルアクセル(3A)はダウングレード(DG)・・・厳しいですね。国内試合なのに。 日本スケート連盟は昨季から全日本で選手に甘く点をつけることをやめ、DGを厳しくとるように方向転換したようです。理由は、ざっくりと言えば「国際試合はそんなに甘くないから(国際試合を見据えての対策)」ということのようです。 しかし、考えてみてください。 どこの国でも国内選手権は採点が甘く、点数が高くなる傾向にあります(国内選手権はISUが主催する大会ではないため、ISUの公式得点記録とは認定されません)。 どこの国でも点を高く(甘く)つける理由は、「この選手はこの技を完璧にできる」という他国やISU(=ジャッジ)へのアピールに他ならないと考えています。ISUも国内選手権では点が高くつきがちなことはわかっています。 それなのに、国内試合でもダウングレードばかりとっていたら、他の国々やISUのジャッジはどう思うでしょう? 「国内試合なのにDG → この選手、ホントにこの技できるの?」と思われ、認定を特に厳しくチェックしがちになることもあるのではないでしょうか。 日本のスケ連はどうもやることが的外れなことが多いような気がします。 話は戻りますが、フリーの「鐘」もずっと完成版を待ちわびていました。 今回3Aは1回にとどめ、3A-2T(ダブルトウループ)のコンビネーションジャンプは3Aを2Aに変えて負担を減らしました。 今回は順位を取りに行かなければならないので、仕方ないですね。でも3Aはジャッジの目の前で1度飛んで成功させているので、逃げたという負い目も残らないでしょう。 Mao Asada 2009 Japanese Nationals FP- Prelude No. 3 op. 2 "Bells of Moscow" 真央選手は「私は人の心に残るプログラムを演じたい。この曲で最高の演技をしてひとつの作品を作り上げたい」と話していましたが、確かにこれは通しで見る「作品」といえると思います。 3A2回を決めて、ぜひ五輪で完璧な演技を見せてほしい。そうしたら五輪というスポーツの祭典は本当の意味での芸術の誕生を見ることになるような気がします。 2位に乗りにノッている鈴木明子選手が入り、五輪出場を決めました! SPもとてもよかったのだけど、やはり印象に残ったのはフリー。一度思わぬところで転倒してしまいましたが崩れることなく、最後のステップからはいつもの躍動感あふれる演技。本当にスケートを楽しんでいるのが伝わり、一瞬で観客を虜にしますね。 Akiko Suzuki 2009 Japanese Nationals FP- West Side Story 演技終了後、涙が止まりませんでしたね。重圧から解放されたという気持ちがあったのかと思っていたのですが、インタビューでは今の自分のベストを出せた、やりきったという喜びの涙だったみたいです。 本当におめでとうございます。 技術的にはどのくらいのところにいる選手なのかというのは詳しくは知らないのですが、間違いなくプレゼンテーション能力、お客さんとのコネクションを作るのが上手い(というか自然にできる)選手だと思います。そしてそういう選手は五輪において非常に強いと思う。がんばってください! 中野友加里選手は3位に入りましたが、トリノに続いてまたしてもあと一歩のところで五輪出場を逃してしまいました。とてもとても残念です。 彼女は努力の人です。ずっとずっとまじめに、誠実に競技と向き合い、こつこつとキャリアを築いていました。それが、昨季の怪我と今年のジャパンオープンでの肩の脱臼で、歯車が狂ってしまいました。 彼女の今の心情を考えると本当にやりきれませんが、彼女は来年の四大陸選手権、世界選手権への出場が決まっています。まだまだ彼女はこれからも更に発展していく選手だと思うので、ぜひ競技を続けてほしいと思います。来年フジテレビに入社が内定しているという話ですが、引退して社員となるのか、またはモーグルの里谷多英選手のように「所属」として入社し選手を続けるのかというのがまだ私は理解していませんが、ぜひ来季も彼女を試合で見たいと思います。 Yukari Nakano 2009 Japanese Nationals SP- Phantom of the Opera 五輪内定をすでに決めている安藤選手は、フリーの後半に疲れが出てしまい、総合4位。 まさかクレオパ「トラ」とかもじってないよね、とかお寒いことを考えていたら、母が「クレオパトラの映画に出てくる王の使ってる杖がこんな模様だった気がする」と話していました。母情報なので全くウラはとれていませんが、そういうこともあるのかもしれません。 でも、王の杖の模様を衣装にするとも思えないんですが・・・これまでの2つの衣装はクレオパトラを充分にイメージさせるものだったのですが、今回の衣装はちょっと謎です。 Miki Ando 2009 Japanese Nationals FP- Rome 肌襦袢を着ているとはいえ、露出も多いです。男性は嬉しかったのかな?でもちょっと私の中ではしばらく「???」が飛び交っていました(笑) 今回彼女は織田選手同様優勝というプレッシャーは他選手よりは感じずに済んだと思います。そのためか、4回転や3-3の連続ジャンプに挑戦すると話していたのですが、結局回避しましたね。それが個人的にはとても残念でした。 もし五輪で跳ぶつもりなら、絶対今回跳んでおかなければならなかったと思います。以前も書きましたが、ジャンプは回避すると次跳ぶのに更に強いプレッシャーがかかるし、練習で跳べても試合で跳べるわけではないので、試合で回数多く跳んでいくことが、ここぞというときに成功できる大事な要素です。 今回一番プレッシャーなく挑戦できる機会をあっさりと逃してしまったことで、五輪で4回転(これは現実味は薄いと思いますが)や3-3を成功させることはかなり難しくなったと思います。技術的にはできる状態だったとしても、本番になったら精神的に思い切れないかもしれないなと感じました。 こういう時に思い切ってやらないと、出来ていた技を手放すというか、試合で跳べなくなるようなことになってしまうかもしれないと心配です。 演技自体としては、「前半がんばりすぎて、後半疲れが出た」と話していた通り、後半明らかに体の動きが重くなりましたよね。荒川静香さんも「細くなったのでスタミナが心配」と話していました。安藤選手も話していましたがスタミナ配分や緊張で体力を奪われる中でどうコントロールしていくかというのも五輪までに調整していけるといいですね。 今年のジュニアグランプリファイナルで優勝した村上シニアデビューの村上佳菜子選手も大活躍、総合5位に入る健闘を見せました! ただでさえピリピリムード漂う全日本、しかも五輪選考の年に最終グループ(しかもフリーは最終滑走)に入ってしまった彼女、かなり雰囲気にのまれていたようですが、演技はとても素晴らしかった。伸びやかで、かつしっかりとした滑りは、ちょうど4年前、同じように五輪選考対象外として出場した浅田真央選手の面影をすこし感じました。コーチも山田満知子さんだし。 でも彼女はおそらく来年のシニア本格参戦に向けて、とてもいい経験をしたと思います。自分がこれから入っていく世界を肌で感じ、その中で試合をしたという経験や、ものすごいプレッシャーと戦いながら試合に臨む「お姉さん」たちの姿を見たことはきっと彼女の財産になります。 ちょっと前傾姿勢になりがちなところもあるけど、とても美しい滑りですね。愛嬌もあってかわいらしい。来年が楽しみな選手です! Kanako Murakami 2009 Japanese Nationals SP- Néctar Flamenco これで五輪と、来年の試合の派遣選手がすべて決まりました。 あとは怪我に気をつけて、それぞれベストを尽くすのみ!!! 皆さんメダルが狙える選手たちばかりを抱える日本チームは本当に贅沢ですね。男女ともに大充実。 もうこんな時代がくるかどうかはわからないので、魂を込めて応援したいと思います! <関連コラム> 小塚崇彦選手-少年から精悍な青年へ 2009年12月25日 今季のプログラムを冷静に評価してみる-浅田真央選手 2009年12月18日 浅田真央選手の魅力 -美しいポジション 2009年12月10日 代理戦争反対-ニコライ・モロゾフ氏の発言に思う 2009年12月7日
by toramomo0926
| 2009-12-27 22:25
| フィギュアスケート
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