本質を見出す力、評価をひっくり返す力-浅田真央選手
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全日本選手権を終えて、私は浅田真央選手の「本質を見出す力」と「評価をひっくり返す力」に本当に感服しました。



今や日本を代表するアスリートとなり、国民からの人気も期待も高い彼女の戦いは氷の上だけではなくなってきました。
特に専門家でもない、またフィギュアをずっと追ってきているわけでもなく、未だに「15歳のまおちゃん」の時のイメージだけであれこれ批評や批判をするマスコミやTVのコメンテーター等の人たちとも戦わなければならない状況になっています。


彼女は自分の演技やプログラムに関して否定的なことを言われたり書かれたりしても、決して反論したり、不満そうな態度を示す事はありません。ただ黙って、自分の演技を更に高めることで無言のうちに私たちに彼女が目指しているもの、表現したいことを示してきました。


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ここ2年、彼女は彼女のフリーの選曲「仮面舞踏会」と「鐘」において、最初は批判されながらも自分の演技でその声を黙らせ、賞賛に変えました。
彼女は去年、フリーを「仮面舞踏会」のプログラムで臨んだ初戦のフランス杯で2位となり優勝できなかったことで、序盤かなり騒がれました。「曲が重厚すぎて『まおちゃん』には合わない。曲を変えるべき」と言われたのです。
しかし次のNHK杯できっちり優勝を決めた途端にその声は止まり、最終的には仮面舞踏会はクラシックでは異例の売り上げとなりました。


浅田真央 2008全日本選手権フリー 仮面舞踏会

(NHK杯の動画の音声が消されているので全日本の動画に換えました)



今年もフリーの「鐘」については、最初から賛否両論がありました。
最初から高く評価する声や、真央選手の決断を尊重するという声もありましたが、どちらかといえば否定的な声が多かった。
「重苦しい」「真央ちゃんには合わない」「単調」・・・
ジャパンオープンとグランプリシリーズ2試合の結果が思わしくなかった(といってもフランス杯は2位だったのだけど)せいもあり、まあとにかく気の毒なほどの言われようでした。五輪シーズンということで注目が更に高まっていたところに予想外のタイプの曲がやってきたので拒否反応を示した、という感じだったと思います。
みんな「ノクターン」や「幻想即興曲」のような、真央選手のイメージ(または固定観念)に沿った曲を期待していたからです。
まあ、かくいう私も最初はかなり戸惑い、心配したのですが・・・。

しかし先日の全日本選手権で、彼女はそのような声を再びぴたりと黙らせました。更に、今までの「重い」云々の否定的な評価を「格調高い」「芸術的」「鳥肌」「圧倒的」という最高の評価へひっくり返したのです。

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彼女はそれまでの批判がいかに表面的なものだけを見ての底の浅いものであったか、また彼女がいかに先を見て、本質を分かった上でプログラムや選曲について決断してきたかということを私たちに鮮やかに見せつけました。
想像を超えた高い技術と芸術性が融合した演技から彼女の目指すものの凄さを感じ、圧倒された方は多かったのではないでしょうか。
「鐘」について不安視する声や批判の声が上がった時も真央選手はずっと先を見据えて、本当にこのプロを滑り切ったらどうなるか、ということを(=この全日本での熱狂を)知っていたんだなと思います。

彼女が去年のNHK杯で、また今年の全日本で私たちに与えたものは、素晴らしい演技への感動、感嘆というものと同時に、「心地よい敗北感」とも言えるような感情ではなかったでしょうか。
私はノーミスの「鐘」の映像を見たとき、彼女が目指しているものがこんなに高いレベルのものなのかと愕然としました。それはまさに一種の敗北感と言ってもいいほどの、予想を超えた素晴らしい世界でした。


浅田真央 2009年全日本選手権フリー「鐘」



ここ数年で彼女は劇的に演技者として成長し、素晴らしい芸術性と表現力を身につけました。
ですが未だに「まおちゃん」としてしか話をしない、または記事を書かない人たちにとっては未だに「技術の浅田、ジャンプの浅田」であり、その強固な「前提」ともいえるイメージが彼女につきまとっています。また、フィギュアを熱心に見ない方々にとってはきっと今もそういうイメージ、刷り込みがあったのではないかと思います。
しかし、この「鐘」はついにそのような頑なさも打ち砕くのではないかという予感がします。去年の「仮面」も衝撃でしたが、今年の「鐘」はそれ以上の破壊力で強烈なパンチを私たちに見舞いました。
もう彼女を「表現力は今一つ」などと言う人はメディアにも出てこないと信じたいです。いるとすればそれはいかに自らの仕事が怠慢か、これまでのイメージをなぞるだけの不勉強で、本当の取材を基にしていないかを示すことになり、肝心の記事や報道の信憑性や説得力を揺るがせかねないのですから。
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今回の全日本は、今後の真央選手に非常に大きい役割を果たしたと思います。
本人としては細かいところでの課題は見つかったでしょうがとにかく彼女が納得できる滑りができて、笑顔で終われたということはこれ以上ない結果になりました。
今の真央選手には成功経験や達成感というのが一番大切だと思っていましたし、曲を変えろとか3Aは無駄みたいに言う声を黙らせることができたので、来年の四大陸、そしてその先の五輪(と世界選手権)に向けて更に集中して取り組むことができるようになるでしょう。
今回の滑りを見て、更に国民は彼女に金メダルを望むようになると思います。その分プレッシャーもかかるかもしれませんが、彼女がこれまで乗り越えてきた強さと、間違いなく現在世界一であるスケーターとしての能力を武器に、スケートを始めてからずっと目指してきた五輪という舞台で、結果はどうあれ彼女が今回のような自分自身満足できる、笑顔で終われる演技をしてほしいと祈っています。


浅田真央 2009全日本選手権 EX- カプリース




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by toramomo0926 | 2009-12-29 21:54 | フィギュアスケート


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