「真の表現とは何か」を問う演技-浅田真央選手
b0038294_21365439.jpg未だに全日本選手権での浅田真央選手の演技の衝撃が薄れず、ついつい動画サイトを見てしまう日々が続いています。
先日、1月21日付中日新聞に掲載された浅田真央選手インタビューの記事を読みました。
全日本を終えて晴れ晴れとした真央選手の気持ちが窺え、読んでいてとても嬉しくなりました。下にご紹介します。

また、この全日本での優勝は真央選手に五輪出場権をもたらしたというだけでなく、フィギュア界や演技を見ていた私たち一般人に対しても大きな意味、影響を与えたように思いました。
真央選手の演技は今「表現力」とされているものに対しての強烈なアンチテーゼのようにも思えます。
私たちに本質的な大きな問いを、またそれに対する答えを、強力なメッセージとして送ってきたように感じました。



*****************
浅田真央インタビュー 今は対等に戦える
中日新聞 2010年1月21日 紙面から

今季は悩んだ時期もありましたが、今はスケートがとても楽しいです。大きな目標に向かって、いい練習ができていますから。今月末の4大陸選手権(韓国・全州)に出て、来月はいよいよバンクーバー五輪。18日は選手団の結団式にも出席しました。ワクワクしてきますね。早く日本の代表として滑りたいという気持ちです。

 昨年末の全日本選手権までの2カ月間が自分にとって本当に大きかった。自分を見つめ直すことができましたから。10月のグランプリ(GP)シリーズの時は気付かなかったんですが、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)と3回転フリップがまるっきり変わってしまっていました。

 過去の映像を見返したり、パソコンでジャンプを分析したりして「ここ」という部分をつかみました。アクセルは助走のコース、フリップは踏み切りのタイミングが違っていたんです。

 直すまでには1カ月ちょっとかかりましたね。焦りもしたし、気持ちが切れそうにもなりました。たくさんの人が期待してくれています。もし、五輪に出られなかったらどうしようという不安もありました。

 四大陸選手権は出るか迷いましたが、やっぱり今は試合に出たい気持ちが強いので出場を決めました。試合は緊張しますが、やっぱりいい演技をして喜びたい。昨季はGPファイナル優勝で力を出し尽くした感じがして、年が明けると気持ちがなかなかスケートに向かっていきませんでした。今季は前半が下降線で、そこから上向いてきています。GPファイナルも出なかったのでパワーがまだまだ残っています。

 キム・ヨナ選手のことはやっぱり気になりますよ。GPのフランス杯で負けた時はほど遠いなと思いましたが今は、自分もトリプルアクセルを跳んでパーフェクトに滑れば対等に戦える自信があります。追い掛ける立場なので怖いものは何もありません。

 五輪まで1カ月。やることは全日本選手権の前と同じです。自信を持てるまで練習を積んで、試合では練習通りにやるだけです。
*****************


全日本選手権への出場、そして優勝について「試合に出たくてウズウズしていた。声援や視線がパワーになった」といっていた真央選手。
グランプリファイナルへの出場を逃したものの、それを自分にとってプラスに変えたのはすごいと思います。

スケートを本格的に始めた幼少時よりずっと試合に出続け、特にシニアに上がってからは試合に追い立てられるように走ってきた真央選手。
高橋大輔選手が昨シーズンの自分の欠場について「あのまま(怪我なく)いっていたら五輪までに息切れしたかもしれない。今は怪我をしてよかったという気持ち」と述べていたのが印象に残っていますが、真央選手にも形は違うものの同じことがいえる状況なのかもしれないと考えています。

ファイナルに出られないことが決まり、シーズン中にもかかわらず全日本まで約2ヶ月のインターバルが出来た。
そこで真央選手は改めてスケートに対する自分の気持ちや、何のために試合に出ているのか、また自分は本当にスケートがやりたいのか、試合に出たいのか、というのを自分にしっかり問いかける時間ができたんじゃないかと思います。
b0038294_21383354.jpg
また全く狂ってしまっていたというフリップとトリプルアクセルのタイミングや軌道などをしっかりチェックし、落ち着いて立て直す時間が出来たのはむしろ貴重な体験だったかもしれません。
他の選手がまずはファイナル、ついで全日本そしてオリンピック(例年は世界選手権)と3つピークをもってくる必要があるところ、彼女は終盤に固めて調子を上げていくことが出来ています。

スロースターターでシーズン序盤は大抵本調子でなく、終盤に向けて調子を上げていくタイプの真央選手ですが、今年は特にそのスタートが遅れました。ということで、五輪にぴったりピークが合って来るのではないかという予感(そして希望)があります。


*****

あの全日本の歓声は本当に祈るような気持ちで真央選手の演技の成功を願っていた観客の感情の爆発でした。
そして最高の技術と芸術性が融合した「作品」の誕生に立ち会えた喜びでもあったと思います。

b0038294_2232147.jpg


最近フィギュアスケートにおける「表現力」の評価は非常に偏った、また画一的な方向に流れつつあるように思っていました。
表現の方向性はひとつではないはずなのに、妖艶な表情を作り、体を波打たせてセクシーさを出すことのみが「豊かな表現力」とされ、それ以外のアプローチはあまり評価されないというような。
しかし真央選手の、見る側に襟を正させるような優雅ながらも荘厳で力強い演技は、この偏った風潮に流されそうになっていた私たちに冷水を浴びせ、ハッと目覚めさせるもでした。
彼女はそしてタチアナ・タラソワはこのプログラムを通じて「フィギュアスケートにおける真の表現力とは何か」、という問いを投げかけ、また同時にこれに対する答えを無言のうちに、本能的に私たちに理解させたのです。


Mao Asada 浅田真央2009 Japanese Nationals FS


今の真央選手にはグランプリシリーズの時のような迷いみたいなものは見られません。また彼女の取り組みに疑問を投げかける声も、こちらの予想を超えた素晴らしい演技を見せることで封じました。
「自分もトリプルアクセルを跳んでパーフェクトに滑れば対等に戦える自信があります。追い掛ける立場なので怖いものは何もありません」と頼もしく話していた彼女。心身ともに充実しているのが伺えます。
今、あの演技を見た人で真央選手の金メダルを疑問視する人は誰もいないでしょう。全日本でのフリー「鐘」はYoutubeで40万アクセスを超え、統計を見ても世界中の国々で視聴されているのがわかります。
彼女の渾身の問い、そしてそれに対する答え、彼女の目指すものの高みの素晴らしさを世界中の人々が理解し、共有した証だと思います。

あんなにとっつきにくかった「鐘」も、五輪で滑るプログラムはこれしかないという確信に変わりました。そしてあんなに重厚に思えた「仮面舞踏会」も、「夫に毒殺される悲劇の若妻」の強烈なイメージから、「華やかな舞踏会デビュー」にすっかりその色を変えています。
バンクーバーでこのプログラムを滑りきることが出来たら、ジャッジを動かすことが出来るでしょう。

いよいよ来週は四大陸選手権です。ここを確実なステップとして、五輪で最高の演技が出来ますように。無事に大会が終わって帰国できることを祈っています。
b0038294_2140443.jpg



<参考リンク>
真央選手、勝利へ向かって  2010年1月22日-浅田真央ファン夢日記(アンコウ様)
*中日新聞の記事はこちらで紹介されていたのを拝見したのが最初でした。アンコウ様ありがとうございます。
中日新聞 浅田真央インタビュー 今は対等に戦える  2010年1月21日

<関連コラム>
本質を見出す力、評価をひっくり返す力-浅田真央選手  2009年12月29日  
五輪代表決定-フィギュアスケート全日本選手権  2009年12月27日
今季のプログラムを冷静に評価してみる-浅田真央選手  2009年12月18日
浅田真央に何が起きているのか-グランプリシリーズ ロシア杯  2009年10月25日
by toramomo0926 | 2010-01-23 20:36 | フィギュアスケート


<< 2010欧州選手権終了 「私は、ひとりじゃない」-日本... >>