タラソワの深い愛情を見た-浅田真央 奇跡の軌跡
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浅田真央選手にとって初の写真集となる「浅田真央 奇跡の軌跡」が発売となりました。私はAmazonでしっかり予約購入。アイドルを含めて「写真集」なるものを買ったのは三十路半ばにして生まれて初めてです(笑)。

素晴らしい写真ばかりでしたし、改めて大きく刷られた写真を見ていると衣装のディテールが分かったのも楽しかった。普段衣装は遠目にしか見えないけれど、近くで見るとかなり凝ったデザインや刺繍などが施されているのがわかりました。

そして何より読み応えがあったのが、彼女の現在のコーチであるタチアナ・タラソワからの真央選手へのメッセージ。
それもこの写真集出版のお祝いメッセージに加え、試合前の彼女に実際に送ったメッセージをいくつか掲載しているのです。




タラソワはロシア在住、真央選手は基本的には愛知県で練習をしています。フィギュアスケート選手、特に世界のトップスケーターがコーチと違う国で練習するというのは稀です。安藤美姫選手もアメリカでモロゾフと練習していますし、キムヨナ選手もカナダで練習している。大抵コーチのいるところに選手が行く、というのが普通でしょう。

彼女にもそのような時期がありました。2006年から2年弱、アメリカのラファエル・アルトゥニアンコーチについた時です。
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アメリカでは練習環境はとてもよかったようですが、家族や愛犬、なじみの土地を離れての生活で精神的に疲弊してしまったようで、中京大学に素晴らしい練習環境が整ったこともあり、彼女は帰国を決断します。
ラファエルとの師弟関係がシーズン中に突然打ち切られたのはこれも原因のひとつなのだろうと推測されますが(それにしても世界選手権前に放り出すコーチもどうかと思いました)、彼女は口を閉じて黙々と一人で練習し、世界選手権で優勝を勝ち取ります。
コーチなしで国際試合、ましてや世界選手権に臨む選手は皆無といっていいほどいません。2001-2002シーズンのミシェル・クワン選手だけだと記憶しています(ちなみにクワン選手も優勝)。真央選手は「コーチがいないからダメになったとは思われたくなかった」と後に述べていますが、クワン選手もきっと同じ気持ちだったでしょう。

かようにコーチと選手というのは実の親子同様、もしかしたらそれ以上の関係で、堅い信頼関係がなければ成り立ちません。毎日顔を合わせ、選手の成長や調子を見ながら綿密に演技やその選手自身を作り上げていくというのが普通です。高橋大輔選手と長光歌子コーチ、鈴木明子選手と長久保コーチなども堅い結びつきが伺われますね。

しかし、真央選手は1年に数回ロシアに渡って練習や振付を行ったりしますが、基本はタラソワなしで練習している。ジャンナ・フォレアシスタントコーチと過ごす時間の方が多い感じです。
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報道等や一部のファンの中には、この体制を疑問視、または不安視する声もよく聞かれます。その気持ちも理解できますが、彼女はコーチがいないからといって怠けるような選手でもないし、多分彼女にとって精神的になるべくストレスのない環境で練習するのが一番プライオリティが高く、やりやすいのでしょう。自分にとって何が一番重要なのかということをアメリカでの経験で痛感したのだと思います。


タラソワ自身はどう思っているのかは分かりませんが、真央選手のやり方を尊重してくれていますね。そして試合前にあのようにずしんと響くメッセージを送ってきていること(そしてそれを一部でも公開したこと)に驚きました。
勿論何らかの声はかけているのであろうとは思っていましたが、さすがというべきか、言葉がいちいち重いんですよね。もうなんか「啓示」に近いというか。

ここで一部を紹介します。


愛する真央

(略)
スポーツは強い人だけを愛します。
優れた選手はみな、今回のあなたに起こった気持ちの変化と
全く同じ事を考えたことがあります。
でも、この気持ちを乗り越えた選手だけが偉大な存在になるのです。

自分の空虚な部分を乗り越える人が偉大な人物になれる。
沢山の努力が必要になりますが、それは非常にすばらしいことです。

練習を拒否する権利は誰にもありません。強い人なら、全部乗り越えられると思います。
真央のSPの演技も、フリーの演技も、私は大好きです。


これは、2008年グランプリファイナルに優勝し、2月の4大陸選手権出場前の真央選手へのメッセージです。
「今回のあなたに起こった気持ちの変化」というのは、先日の中日新聞にあった「ファイナル優勝で力を出し尽くした感じがして、年が明けると気持ちがなかなかスケートに向かっていかなかった」という彼女の言葉、そのときの心情を指しているのだと思います。

一方、これを読んだ時、彼女が当時ここまでひどい状態だったのかと少しショックを受けました。
ちょうどこの時期は、彼女のグランプリファイナルの優勝を「とくダネ!」が「キムがミスしたためのタナボタ優勝。実力は断然キムの方が上」とこき下ろした(そして抗議が殺到し形だけの謝罪をした)放映後、彼女が精神的にどん底にいた時期と重なります。
四大陸までその精神状態は浮上せず、「もうどうだっていいやという気持ちだった」と後に読売新聞に明かしています。
個人的には世界選手権で表彰台を逃したのも、この件と無関係ではないと思っているのですが。
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確かに読売新聞のこの記事には、この頃「彼女は練習への意欲を失った」と書かれていました。しかし私は練習の虫とされる彼女なので「練習に身が入らない」程度だと思っていたのです。
しかしタラソワからのメッセージには、当時の彼女が「練習を拒否」していたのではないかと推測される記述があります。これは余程のことです。
そして更にこの後ダメ押しとして、世界選手権前のキム選手による「妨害」発言があったわけですから、この時期の彼女は本当に精神的に辛い日々だったのだと思います。

彼女は自分についても他人についても、ネガティブなことは一切公の場で話すことはありません。この時期の辛さを述べたのも、この読売の記事だけです。まだ18-19歳というのに、この振る舞いは本当に立派だと思います。こういう精神が今の彼女の凛とした品のある佇まいを作っているのだと思います。


話がそれましたが、この写真集を見て、タラソワと真央選手は離れていても信頼関係をしっかり作れているのだと改めて思いました。



今季「鐘」が叩かれたときも、タラソワを信じてついていくと語っていた彼女。そして2人は(そしてジャンナ先生も)この戦いに勝利しつつありますね。
昨日無事に韓国入りもしたようですし、セキュリティもかなり厳しくしてもらっているようなので、彼女には怪我なく、素晴らしい演技をして五輪に弾みをつけてもらいたいと思います。

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***おまけ***
写真集の最後には、伊藤みどりさんと、「真央のフランスの父(Godfather)」と自ら公言してはばからないフィリップ・キャンデロロからの「日本中があなたを応援しています。でも一人のフランス人もあなたに声援を送っていることを忘れないで!会場で全力で応援するよ!」というメッセージも寄せられていました。
彼は真央選手が10歳くらいの頃に日本のショーで出会ってその才能にほれ込み、以降ずっと彼女を温かく見守ってくれていますね。また、フランスでは真央選手はとてもとても人気があるようです。


Mao Asdada Interview 2009 World Figure Skating Championships

2009世界選手権フリーの演技終了後、フランスの放送局のインタビューを受けている真央選手。
途中で「こんにちわーMao!」と声をかけているのがキャンデロロです。
インタビュアーのネルソンさんも、いつもは厳しいアニック姐さんも、彼女にはいつも惜しみない賛辞を送ってくれます。
最後ネルソンさんは英語を忘れてフランス語で喋りまくっていますが(笑)
「私たちフランス人はあなたが大好きです。我々にとって、あなたは歴史に残る偉大なスケーターの一人です」と話してくれています。


浅田真央 奇跡(ミラクル)の軌跡~ファースト・フォトブック (写真集)


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by toramomo0926 | 2010-01-26 09:04 | フィギュアスケート


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