エキシビジョンから浅田真央選手の成長をたどる
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バンクーバーオリンピック開幕まで2週間を切りました。各種目の選手達が続々と現地入りをはじめています。高橋大輔選手も先日日本から出発していきましたね。織田選手ももう入っているのかな?安藤選手は米国で調整中、小塚選手と鈴木選手、そして浅田選手は日本でギリギリまで調整するようですね。
いつ現地入りするかというのはコンディションを保つ意味でも非常に重要ですが、一概に早いほうがいいとか直前がいいとかは言えないんですね。選手の気持ちや、試合への体調とモチベーションの持っていき方によって異なる。
それぞれ皆さん独自のメソッドをお持ちだと思うので、自分にとって一番気分よく臨める方法で乗り込んで行って欲しいと思います。

↑この写真は先月の4大陸選手権エキシビジョン(EX)の時の真央選手です。
エキシビジョンは試合後のお祭りみたいなものだけど、演技前に集中を高めている様子が窺えますね。
四大陸のショートプログラム(SP)では「それまで全然緊張していなかったのに、氷に乗った瞬間その分の緊張が一気に来てしまった」と話していた真央選手。荒川静香さんも以前TV出演した時に「(プロになって)ショーを年間100回以上こなすようになると、演技前でも緊張しなくなる。でも緊張しないから伸び伸びといい演技が出来るかといえば、そうではない。緊張しなければいい演技はできない。何度同じ内容の演技をしようとも、毎回きちんと緊張をもって臨むことが大事」と話していたのを思い出しました。

・・・ということでいきなり話がそれましたが、今回は真央選手のEXプログラムからその成長を追ってみたいと思います。




2004-2005シーズン、14歳。
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Mao Asada 2005 Junior World Championships EX-Pick Yourself Up

滑り自体はまだ完全にジュニアジュニアしてますね。子供の滑り特有の雑さと無頓着さは確かにあります。
ですがその中でも彼女の身のこなしはとても清楚でかわいらしく、ポジションやポージングも素晴らしく美しい。アンコールのレイバックスピンは花が咲いたようです。
また、この頃から既に彼女は音の拾い方が抜群ですね。しっかりとジャジーなリズム、テンポをつかんで音に動きがぴったりと合っています。

この年から真央選手は演技の安定性が飛躍的に伸び、表彰台の常連となります。ジュニアのグランプリファイナルと世界選手権で優勝、翌年の衝撃のシニアデビューへの大きな足がかりとなった年でした。
このプログラムはナタリー・コールのセクシーな歌声。ジュニアでは異色な選曲にも思いますが、こういう曲を「おしゃま」に演じられるのはこのくらいの年が最後でしょうね。
それでも真央選手は幼い雰囲気なので14歳でもイケましたが、もっと大人びた子なら10~11歳くらいが限界。いわゆる「子供の色気」が出てきてしまうとヘタすると違うジャンルというかマニアックな人たち向けのものになってしまう危険性があるので(笑)


2005-2006年シーズン、15歳。
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Mao Asada 2005 Japanese Nationals EX - Over The Rainbow

2004-2005シーズンと見比べると、顔つきがしっかりしてきましたね。まだまだ子供っぽさは残りますが、それなりに一歩ずつ大人になって行ってるなあ、と思います。
当時最初にこのプログラムを滑る真央選手を見たとき、姿勢のよさがすごく印象に残りました。ピンと伸びた背中が竹のようにしなって、前年よりも指先まで神経の行き届いた動きができるようになってきています、

それにしても、これ全日本のEXなんですよね?なんか暗くないですか?普通の明るさにしては暗いし、EXやショーの照明にしては明るすぎる。
そしてアイスショーのようなリンクのつくりで、かぶりつきに観客がいる!!当時あまり気づいてなかったけれど、こんなでしたっけ?


***番外編***
2006年5月に行われたジャパンオープン。

Mao Asada 2006 Japan Open -Nutcracker



あのグランプリファイナルから数ヶ月で顔や体つきがかなり変わりました。
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ちょうど女子選手の宿命である体の変化が始まったのかもしれないなあとちょっと心配にもなったりしましたが、トリプルアクセルは難なく成功。3月にシーズンが終わってこの頃はちょうどオフの時期なので、グランプリファイナルみたいなシーズン真っ最中のような体ではないわけなんですよね。
ですが背も伸びていたようですし、体の変化は始まっていたのかもしれません。
とはいえ、10月のスケートアメリカにはこの頃より絞った体で現れました(当然ですが)。

***

2006-2007シーズン、16歳。

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このシーズンの世界選手権で初めてSPでのコンビネーションジャンプに失敗してしまい、つかみかけた世界選手権優勝を僅差で逃してしまいます。
それ以来、ノーミスが当たり前という感じで楽々と滑っていたSPは、彼女にとって鬼門となってしまいました。
先月の四大陸選手権でも、「何故SPはフリーのような気持ちで臨めないのかと考え込んでしまうことがある」と話していました。今までいろいろな障害や困難を乗り越えて克服してきた真央選手ですが、その影響が今に至るまで続いているということを考えても、この時の失敗と優勝を逃したショック、悔しさというのは相当のものだったに違いありません。

Mao Asada 2007 World Championship EX- Habanera

この頃が一番顔が丸いかも(笑)
解説は、今はもうフィギュア放映から撤退してしまったESPNのディック・バトンとペギー・フレミング。ディックとペギーはいつも真央選手の才能に心から声援を送ってくれていましたね。日本で彼女が「子供っぽい」「表現力が足りない」などと散々言われていた中、彼らは終始一貫彼女の優雅さと技術・表現の素晴らしさを絶賛してくれていました。
彼らの的確で、厳しくも温かい解説が恋しいです。ディック&ペギー復帰してくれないかなあ。


2007-2008年、17歳。
b0038294_2116379.jpgこの年、彼女はついに昨年逃した世界女王のタイトルを手に入れます。ですが彼女にとっては紆余曲折、山あり谷ありの厳しい1年でした。

2007年3月の世界選手権SPでの失敗を拭いきれず、グランプリシリーズのSPではコンビネーションジャンプの失敗が続きます。
全日本選手権で初めて成功させるも、この年から始まったエッジエラーの厳格化にも悩まされ、今までは得点源としていたルッツジャンプの減点にも苦しめられることに。
更に世界選手権を目前にした頃に突如ラファエル・アルトゥニアンとの師弟関係を解消、帰国し一人で練習を重ねました。
また、これは後々まで公表されませんでしたが、世界選手権直前に足首を負傷。驚異の回復を見せたものの、実は世界選手権は足にテーピングを巻いて演技していたそうです。

この世界選手権フリーで、伝説のトリプルアクセル大転倒がありました。しかし彼女は他のエレメンツをほぼ完璧に決めて、ついに世界女王となりました。
17歳の子がたった1年でこんなジェットコースターのようなタフなシーズンを過ごしながら、マスコミなどには怪我やコーチとの離別の動揺を露ほども見せず、笑顔で「調子はいいです」と言い続けて一切余計なことを口にしないでやりぬいたというのは、今考えても凄いと思いますね。



Mao Asada 2007 Skate Canada EX -So Deep Is The Night

当初は髪型をお団子にしていましたが、このスケートカナダでは髪を下ろして登場。その後はずっとこのヘアスタイルで演技しました。確かにこのほうが衣装にも合うし、女性らしさが出ますね。エキシビジョンだし。
アンコールでSPのステップを披露しましたが拍手が鳴り止まず再度スピンを披露するという異例の「2度のアンコール」がありました。
次に滑る予定のブライアン・ジュベール選手がリンク脇に出て来そうになって、また下がっていくのがちょっとおかしい(笑)
ジュベール選手は、同じ試合に出ている時真央選手の演技を見に来ていることが多いですね。彼も4回転への挑戦を続けていますし、真央選手の3Aやより難度の高いプログラムへのチャレンジにシンパシーを感じているのかもしれません。
通常EXはアイスショーのように場内を暗くして行うのですが、試合のように明るいままで行った数少ないEXでもあります。


2008-2009年、18歳。
b0038294_21421918.jpgコーチを正式にタチアナ・タラソワに据えて新体制スタート。
ちょうど女性としてもお年頃ということもありますが、タラソワについてから(ここでしつこいほど書いている通り)彼女の身のこなしやひとつひとつのポジションは劇的に洗練され、今までの柔らかさに加えてしなやかな強さと気品が備わりました。
指先まで、顔や腕の置き方一つにしてもこれまでのようなどこか無造作なところがなくなり、同時に滑りに貫禄が生まれました。ロシアで練習する時はバレエレッスンを受け、またバレエを観に連れて行ってもらったりしていた。名古屋とロシアを行き来するということはあるにせよ、今の彼女にとってこれがベストの練習環境なのでしょう。

そしてこの年から、プログラム構成の難度がぐっと上がり、世界トップの技術を持つ真央選手でもこなすのが難しい、3A抜きでもこのプログラムを滑りきれるのは彼女しかいないといわれれる程の高難度の「鬼プロ」への挑戦が始まります。
今でも、タラソワの方針や遠距離の師弟関係に疑問符を投げかける人は少なくありません。しかし真央選手の芸術性を花開かせてくれたのは間違いなくタラソワです。07-08年もタラソワが振付した「ラベンダー」でイメージチェンジの足がかりをつかみ、かなり女性らしくなったと言われましたが、08-09年と見比べると身のこなしにまだ幼さが残っているのが分かります。それはそれで魅力なのですが、今までの真央選手のイメージから一歩踏み込んだ、もう少し深い表現を彼女は必要としはじめていました。
また、これ以上幼いイメージが定着するのは彼女のキャリアやジャッジへのアピールにおいて得策ではないと思います。スケートに限らず、海外では日本やアジア的な「幼い=かわいい」よりも女性的な成熟した美の方が評価されるからです。
これからもあの繊細な演技は見たいと思いますが、ここで一つ「引き出し」をアピールすることは彼女にとってよいことだったのではないかと思います。もし来季また「ふわふわ路線」に回帰したとしても、ずっとその路線でいくよりも遥かに新鮮に、魅力的に映ることでしょう。



Mao Asada 2009 SOI -Por Una Cabeza

これは2009年1月に行われたアイスショー、スターズオンアイス(SOI)の演技です。
衣装もタラソワプロデュース。タンゴということで、この衣装の赤と黒は男女を表しているということです。
ですがこの色あわせは結構キツいので、ヘタすると品がなくなる危険性もありますがものすごく品と風格ある衣装になっていますね。キラキラ具合も絶妙。さすがロシア帝国。背中の開きも美しいですね。
この年から、演技中どの瞬間を切り取っても隙のない美しいポーズ、ポジションをキープするようになりました。また手足だけでなく首の使い方など全体的な体の動きがとてもスムーズに、美しくなりました。バレエレッスンの成果と思われます。
そしてタラソワがプログラムを手がけるようになってから、EXナンバーも内容がかなり濃くなりました。
今年のEX「カプリース」をSPにしたら、という声が一時上がりましたが、演技要素や内容の充実度が試合でも戦える濃さだということですからね。現に「カプリース」はSPにしてもいい、という形で作ったそうですが。

また一方で、この年のアイスショーにはこんなプログラムも。
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Mao Asada 2008 The ICE -Sing Sing SIng

こちらは振付はローリー・ニコル。最後まで休みない、約3分動きっぱなしの躍動感あふれるプログラム。EXでここまでしなくても、というくらいの(笑)サービス満点のプログラムです。
衣装のパンツスタイルも珍しいですね。水玉スカートバージョンもありましたが、私は断然パンツ派です。
最近は試合用のプログラムも含めて優雅さや強さを見せるものが増えていましたが、これは元気はつらつ、という感じで新鮮です。本人もすごく楽しそう。
このシーズンの世界選手権はLAだったので、EXではこれをやるつもりなのかと思っていましたが、やりませんでしたね。
これは2009年夏のこの年だけの、しかもオフシーズンのショーだけのプログラムにしてしまうのは非常に惜しいと思います。いつかアメリカやカナダでアイスショーに出る機会があったら、是非これを滑って欲しい。きっと受けると思います。私、このプログラム大好きなんです。


そして今シーズン、2009-2010年。19歳。
b0038294_23115466.jpg今季の「カプリース」は最初に夏のアイスショー「The ICE」で披露されたときから私を含めてファンの熱狂に迎えられました。バイオリンとピアノの一騎打ちのような激しくも軽やかな曲を見事に楽しげに演じた様子は強烈な印象を残しました。
そしてシーズン開始後のSPの不調によって、「カプリースSP待望論」が湧き起こったわけです。
ロシア杯終了後、タラソワさえもプログラムを変更してもいいと真央選手に申し出たそうですが、彼女は「オフから半年近くかけて作ってきたものを一度も出し切らないまま変えてしまうのは嫌だ」と即座にその可能性を打ち消しました。
私も一時SPは「カプリース」の方がいいのでは、と思った時期がありました。グランプリシリーズの試合での元気のなさ、またEXでのびのびと滑る強烈な印象から「真央選手にとってもそのほうがやりやすいのでは」と思った方も少なくないと思います。
今振り返ると、あの頃はフリップもアクセルもジャンプが狂っていたこともあり、プログラムそのものをまだこなしきれてないかったのかもしれません。ジャンプの失敗が続くとどうしてもプログラム全体の見栄えが落ちますし。
あの時逃げずにしっかり向き合い、素晴らしい演技で批判を黙らせた彼女は、その柔らかい風貌の下にものすごい根性を持っていますね。またそういう気持ちの強さがなければ、世界トップを争うアスリートにはなれないでしょう。



Mao Asada 2009 The ICE -Caprice

これは2009年の夏に行われたアイスショー、The ICEでの演技。このプログラムの初披露でした。
このプログラムは、前年の「Por Una Cabeza」の優雅さと「Sing Sing Sing」の躍動感を合わせたような見応えのあるプログラムになっています。
SPを華やかな「仮面舞踏会」、フリーを荘厳な「鐘」、EXで軽やかで溌剌とした「カプリース」というのは黄金のトライアングル。SPとEXを差し替えたほうがいいかも?と当初考えていた私ですが、今は全く文句はありません。やっぱりプロの判断というのはすごいですね。


こうやって見ていると、彼女は着実に毎年進化していますね。不調の時期はあっても、停滞は決してしていない。そこが彼女のすごいところだと思います。
こんなに毎年目に見えて成長をみせてくれる選手は世界でも少ないでしょう。そして彼女は人間的にも五輪チャンピオンになりうる資質も兼ね備えています。
諦めないこと。努力すること。人を不快にさせるような振る舞いをしないこと。何より、フィギュアスケートを愛し、敬意を持って試合に臨んでいること。

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世界中で全てのスケーターが五輪を目指します。そして出場が決まった選手達は、その一番上を目指して日々練習してきています。彼女と同じように。
その中で、真央選手は金メダルを充分獲得できる位置にいます。そしてすごいプログラムを引っさげてバンクーバーに乗り込む。
真央選手に是非是非金メダルを取ってほしいという気持ちは勿論ありますが、彼女のこれまでの日々を思うとき、彼女自身が満足し、やりきった、全て出し切ったと思える演技ができればそれでいいという気持ちも同時にあります。ここまで差し迫ってくると、そちらの方の気持ちが強くなっている。
なんだか自分の子供は男、女どっちがいいとか考えていても、いざ出産となったら「無事に生まれてくれればそれでいい」と思うような気持ちに似ているかもしれません(笑)。

結果がどうであれ、マスコミや国民は大騒ぎになるでしょうが、とにかく今は試合を楽しみ、演技を楽しみ、スケートを楽しむ気持ちを忘れず、悔いのない演技をして欲しいです。
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頑張れ、真央選手!


Mao Asada + Meteor Shower[流星群]+ ・*:..。o○☆*゚

*バンクーバー五輪に向け、真央選手の今までをつづった応援モンタージュ。


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by toramomo0926 | 2010-02-05 19:22 | フィギュアスケート


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