プルシェンコ選手、世直しに乗り出す?-ジャッジについて言及
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今季4年ぶりに競技に復帰した「皇帝」エフゲニー・プルシェンコ選手(ロシア)が、
「ジャッジは誰か1人に高い得点を出そうとすれば、そうすることができる」と発言し、それを受けた米国のベテランジャッジが同僚に正しい採点を呼び掛ける内容のEメールを出したとの報道が出ました。






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米国VS欧州…男子は早くも場外戦ぼっ発

 フィギュアスケート男子で、早くも米国VS欧州の場外戦がぼっ発した。10日付の地元紙「ザ・グローブ・アンド・メール」は、トリノ五輪金メダリストのエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)が「ジャッジは誰か1人に高い得点を出そうとすれば、そうすることができる」と発言したとし、それを受けた米国のベテランジャッジが同僚に正しい採点を呼び掛ける内容のEメールを出したと掲載した。2002年ソルトレークシティー五輪では採点をめぐる裏工作が発覚しているだけに、今後の展開に注目が集まる。
スポーツニッポン(02月12日06時00分)
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前後の文脈がわからないので、プルシェンコ選手のこの発言の意図、本意というのは記事だけではわかりません。眺める角度によっていかようにも解釈できる言葉だとは思います。
ですがこの記事だけを読んだ感想を言えば、記事のタイトルは「米国VS欧州」となっているけれども、私は彼のこの発言にはもっと深い意味が込められているように思います。
かなり希望的な推測(というか憶測もしくは妄想)で、偏った見方だとは思いますが、書いてみたいと思います。


今度の彼の発言は、不公平な採点が平然とまかり通っている現在の(特に女子)フィギュアの採点に対する「五輪においてのクギ刺し」のようにも思えてきます。

昨年(2009)3月の世界選手権で、キムヨナ選手が女子で初めて200点を越える得点を出して優勝しました。そして更に今季のフランス杯でも「世界最高得点」を出して優勝。これはプルシェンコ選手の全盛期(トリノ五輪)の演技構成点を越えたものです。そしてブライアン・ジュベール選手の技術点も越えている。
それならキム選手はどれだけ凄い演技をしたかといえば、彼女はノーミスではなかったのです。

2009年3月の世界選手権ではジャンプが抜けて1回転になり、更に同じ内容のスピンを2度やってしまい1つが0点になっている。フランス杯でもフリーでジャンプのミスがありました。
更に言えば、フリーの演技時間は男子は4分30秒、女子は4分と30秒短く、入れられる要素の数も違います。
それなのに、4回転とトリプルアクセル(3A)を跳んでいる男子選手より、演技内容がパーフェクトでなく3Aを跳ぶことが出来ないキムヨナ選手が男子トップスケーターを越える点数を出した。
いくら「質が高い」といっても(こうやって考えると彼女の『質の高さ』って一体何だ、と思いますが)、出来栄え加点だけで男子越えというのは理屈が通りません。

それに一番気になっているのは、プルシェンコ選手が復帰した後のキムヨナ選手の点数です。
これが偶然なのかそうでないのかははっきりしていませんが、プルシェンコ選手が復帰してから、キムヨナ選手の点は伸びていないのです。

キムヨナ選手が「世界最高得点」をたたき出したのはグランプリシリーズ(GPS)の初戦であるフランス杯、プルシェンコ選手が出場したロシア杯はGPSの2戦目でした。プルシェンコ選手の復帰前と復帰後で、点数の出方が明らかに違っているように思えます。

<キムヨナ選手の今季の得点>
プル復帰前 → フランス杯: 210点(女子世界最高得点)
プル復帰後 → スケートアメリカ及びグランプリファイナル: どちらも180点台

確かにグランプリファイナルでの彼女には精彩がありませんでしたが、それでも、どんなことがあろうとも理不尽に点が高かった彼女。
失敗したジャンプにプラスの出来栄え加点がついていたこともある彼女。
それが、プルシェンコ選手の復帰後、彼女のパーソナルベストに20点近く低い点しかつけられていないのです。また回転不足認定も取られ始めています。

この変化も、プルシェンコ選手の復帰によるものという推測(邪推?(笑)もできると考えています。
今までのようにプルシェンコ選手が「過去の選手」なら、ルール改正もなされているし、「プル越え」をしても言い訳は(相当無理があるが)とりあえず立った。
しかし彼が復帰し、同じ時期に試合をするようになったら、これまでのような爆上げがしにくくなるのは当然です。同じルール、採点基準で戦うことになるのだし、プルシェンコ選手とキム選手の点数が拮抗するなんてことは、たとえキム選手がパーフェクトに滑ったとしても通常は「ありえない」ことが明確になってしまうからです。
4回転も3Aも跳べない選手、しかも演技時間も30秒短い選手が、いくら「質が高い」といったって4-3のコンビネーションと3Aを2回跳ぶ選手の点数に肉薄する、または超えてしまうということはありえません。
そういう意味で、点数が今までのようには出にくく、また出しにくくなっているのではないでしょうか。

キム選手の「ジャッジは発狂したのか」と言われるほどの高得点について、プルシェンコ選手がどう感じているのかというのはわかりません。ですが、これも男子の4回転(後述)同様、彼の復帰で方向性がかなり変わったといえるのかもしれません。というか、そうであって欲しい。
プルシェンコ選手は私はそれほど好きなタイプのスケーターではありませんが、常に高い技術に挑戦していく姿勢は素晴らしいと思っています。彼がキム選手の「究極の守り(向上の放棄)」ともいえる構成で自分の演技構成点を越えられた(しかも女子選手に)というところで、彼のプライドがかなり疼いたのではないかとも考えるのですが(まあ、勘繰りなのですが)、いかがでしょうか。


また、プルシェンコ選手復帰がフィギュア界に与えた影響ということについてですが、彼が何故4年後の今季突然復帰したかという理由についてはいろいろと取りざたされていました。
私は彼がこの件に直接言及した「2連覇しなければだめだ」と奥さん(メロメロのようです・(笑)に言われたからだ、という記事を読んだことはありますが、その他に「男子が4回転に消極的になっている現状に喝を入れるためなのでは」と言う声もありました。

確かにここで以前も書いたとおり、プルシェンコ選手がトリノ五輪で引退した後、4回転を安定して跳べるのは(プルシェンコ選手ほどの精度はないにせよ)ブライアン・ジュベール選手(フランス)くらいという状況になりました。
また「回転不足認定」という誰も幸せにはならないルールが誕生し、難易度の高いジャンプに挑戦するよりも技のレベルを下げて出来栄え加点を狙うケースが増えました。それと同時に技術を持たずに高難度ジャンプに挑戦すらできない選手の方が、挑戦して回転不足認定を受けた選手よりも結果的に高い点を得る、という「競技」という概念を崩壊させるような状況も生まれました。
そして2008年世界選手権で、4回転を回避し全体の質を高めた演技をしたジェフリー・バトル(カナダ)が優勝したことが決定打となって、男子は「4回転を複数入れる」という流れから一気に「大事な試合では4回転回避」が主流となりつつあり、男子スポーツ特有のダイナミズムが失われつつありました。

しかしそこへプルシェンコ選手が復帰した。そしてグランプリシリーズ・ロシア杯で4回転をクリーンに跳んで優勝。

彼がグランプリシリーズに出たのは、ロシア杯一度だけです。
彼が復帰するという報道があってからは各選手ともある程度予想はしていたと思いますが、しかしたった一試合で、もしくは「プルシェンコ復帰」という一行のニュースだけで、男子フィギュアの流れが一気に「五輪で勝つには4回転は必須」という方向にあっけないほどに変わったのです。
今までは4回転は誰もが失敗覚悟で飛ぶ精度しかなかったので、回避したほうが点数を高く取れる可能性が大きかった。しかしこれだけ安定して質の高い4回転を跳べる選手が出てくれば、4回転を回避して五輪で勝つことはほぼ不可能になる。
彼が1試合滑ったことによって、金メダルが欲しければ、もしくは表彰台に上がるためには4回転に挑戦せざるを得ない、という情勢が再び生まれたのです。これはスポーツとしてのフィギュアスケートにとってはとても良いことだったと思います。

彼の本意がそこにあったのかどうかは分かりませんが、結果的に彼は、守りに入り発展を捨てようとしていた男子フィギュアの大きな方向転換にひと役買うことになりました。
少なくとも「自分が変える」とまでは考えていなくても、あれだけ4回転にこだわって跳んできたプルシェンコ選手ですから、最近の男子フィギュアには物足りなさや歯がゆさを感じていたのではないかと推察されます。

Evgeni Plushenko 2009 Rostelecom Cup SP

今季グランプリシリーズ・ロシア杯でのショートプログラム。4-3のキレは、とても4年間のブランクがあった人には見えません。


このような意味で、今季のプルシェンコ選手の復帰は“結果的に”男女フィギュア界において「世直し」的な効果があったのではないかと考えているのです。
彼の発言の意図がどうであれ、結果オーライ的に現在のフィギュアスケートのひずみみたいなものがこの発言で少しでも修正されればいいなと思っています。
そして彼くらいネームバリューも実績もあり、影響力もある人が、はっきりと口に出してくれたことはとてもよかったと思っています。

プルシェンコ選手、いろんな意味で(笑)これからも頑張ってください!




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by toramomo0926 | 2010-02-12 17:05 | フィギュアスケート


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