今季のプログラムを冷静に評価してみる-小塚崇彦選手
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小塚崇彦選手の今季のショートプログラム(SP)はジミ・ヘンドリックスの「Bold As Love」、フリープログラム(FP)は布袋寅泰&マイケル・ケイメンの「Guitar Concerto(ギターコンチェルト)」。今までの彼のイメージとは違う感じで、SPは重厚なギター、フリーは繊細なギターの音色が印象的な曲です。




最初に今季のプログラムを見たのはSPは09年夏のアイスショー(Dream On Ice : DOI)の動画、フリーは10月のジャパンオープン(これは会場で見ました)でした。
SPは最初に見たときからすごく好きになりました。こういうギターのサウンドが私自身割と好きだという事もありますが、こういう曲に小塚選手の美しいスケーティングがこんなにも合うんだ、というギャップへの嬉しい驚きがあり、(振り付けを担当した)佐藤有香さんナイス!と心が躍ったものでした。





Takahiko Kozuka 2009 DOI -Bold As Love

これがそのDOIでの初お披露目の動画です。今の演技と比べるとプログラムの内容、要素が結構変わっています。
彼に限らず、フィギュアスケートではシーズンの最初と最後で全く同じ内容を滑る選手は殆どいないですね。試合を重ねて、選手のプログラムの消化具合や点の出方を見て何度も調整していきます。
その段階で自分が良いと思っていた振付や要素がカットされてしまって残念に思う時もあるのですが、そういう変化を楽しむのもフィギュアの見方の一つですよね。選手の成長具合もわかって楽しいです。


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フリーは10月のジャパンオープンが初お披露目となったのですが、そのときの演技はジャンプにミスが多かったので曲と一体化した演技ができなかったように思いました。そのため曲の良さがほとんどこちらには伝わらず、浅田真央選手の「鐘」と同様「えっ、これで五輪?」と心配になったものでした。この時は浅田真央選手も3Aを2回ともミスっていましたが、試合用のフリープログラムを初めて披露する選手が多く緊張もあったのか、結構全体的に演技は精彩がなかったですね。シーズン最初は皆さんあまり演技も調子も上がっていないことはまあ普通なので予想はしていましたが、ちょっと心配でした。
そんな中、ジョアニー・ロシェット選手が完璧だったのがすごく印象に残っていますが、彼女はシーズンが盛り上がってきてから調子を落としてしまいましたよね。五輪では気力でよい演技をしましたが、コンディショニングのピークをどこに持ってくるかというのは本当に難しいです。

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シーズンに入り、グランプリシリーズ(GPS)のロシア杯では2位になりましたがNHK杯では7位になり、グランプリファイナル出場を逃してしまいます。
こうやって振り返ると、小塚選手と浅田真央選手の今季の道のりはかなり似ていたのかもしれません。
どちらもGPS初戦は2位、2戦目に表彰台を逃してファイナルへ出場できなかった。そして私個人的な感情としても、プログラムの評価的に「フリーの選曲に疑問が残る」という意味で、殆ど同じ位置づけだったんだなあと今にして思います。そして真央選手の「鐘」同様、私はこの時まで、まだ彼のフリー「ギターコンチェルト」の本当の良さが分かっていませんでした。

ファイナル出場を逃し、全日本までの間、彼もまた真央選手と同様濃密な練習を行い、またプログラムを練り直したといいます。
全日本での彼はその甲斐あって彼の演技も、プログラムそのものもかなり練り上げられたものになっていました。私自身、遅まきながらようやく彼と佐藤有香さんの目指したものが分かった気がしました。


Takahiko Kozuka 2009 Rostelecom Cup FP -Guitar Concerto

小塚選手の2009年の全日本フリーは、何かあったのかというくらい動画サイトからきれいに消えているため、ここではプルシェンコ選手に次いで2位となったグランプリシリーズロシア杯の演技を。


そして全日本で総合3位を勝ち取り、五輪出場権を獲得します。
その後四大陸選手権はスキップしたものの、五輪へ調子を上げて乗り込みました。

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彼は昨季スケートアメリカ優勝、フランス杯2位、グランプリファイナルでも2位となってはいますが、世界的な知名度はそこまではないと思っていましたし、彼は派手にアピールするようなスタイルの選手ではないので、会場の観客をどこまで味方につけられるかということも少し考えていたのですが、全くの杞憂でした。
彼の端正な美しいスケーティングや、つま先が固定されているかのようにブレのないスピン、高さのあるジャンプに観客は大きな拍手を送ってくれました。
彼はいつもエッジが深く、質の良い滑りに定評がありますが、特に五輪での演技はそれに磨きがかかっていたように思います。足だけを見ていると、ずーっとディープエッジで滑っているのが分かります。
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こんな感じで、いつも刃が氷に対して45度くらい傾いたまま滑っています。動画で見ると更によくわかります。



上のDOIの動画と見比べると、結構振り付けや内容が変わったのもわかるし、彼の滑り自体がすごく進化しているのが分かります。


また、何より嬉しかったのは、彼のフリー演技中、現役選手の中でも有数の美しさを誇るイーグルで拍手と歓声が起きたことです。
荒川静香さんのイナバウアーみたいな感じで、「小塚のイーグル」は彼のトレードマークになっていますね。やはりカナダや北米は観客もフィギュアの見方が成熟しています。
スケートアメリカで優勝してから彼のファンが北米ですごく増えている、という話を聞いたことがあります。彼の滑りは既に北米ファンの間でかなりの人気を得ているのかもしれませんね。
EuroSportの解説者も「未来の金メダリストを見ているようだ」「是非競技を続けてほしい。素晴らしい演技でした」と彼の演技と滑りを絶賛していました。



休むことなく、ずっと動き続けるプログラム。静かな曲だし彼の動きもスムーズなのでそう見えませんが、相当体力が必要なプログラムです。
全日本の時と比べても最後まで流れがありましたね。
トリプルアクセルで激しく転倒しながらもすぐに起き上がり、次の演技やジャンプへ全く影響させなかった。また、最後までスピードが落ちることはありませんでした。彼が相当練習やトレーニングを積んできたのが分かります。
休みなく4分半近く滑った最後のスピンであれだけしっかりと深くしゃがみ、かつスピードを落とさず回転軸がしっかり取れるスピンができるというのは驚くべきスタミナといっていいと思います。
「もうこれ以上はできない、というくらい練習してきた」とバンクーバー入りの際に話していましたが、その言葉を演技でしっかりと証明しましたね。

SPだったかフリーだったか忘れましたが、キス&クライで自分の得点を確認した後、次に演技するデニス・テン選手(カザフスタン)に向けて「デニス、頑張れー!」と声をかけていたのも印象的でした。彼はいいコですねえ。
でも、デニスは日本語分かるんだろうか・・・(笑)「頑張れ」とか「ガンバ」くらいはわかるのかな?


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バンクーバー五輪以降、私の頭の中を「ギターコンチェルト」が離れない状態になっています。
「Bold As Love」も勿論ずっと好きなのですが、「ギターコンチェルト」はスルメのように味わい深く、私の中で大好きなプログラムになりました。世界選手権が今から本当に楽しみです。

ただ、全日本(4回転を回避し3ルッツとした)と五輪(4回転成功)は、最初のジャンプが成功しているからこそのこの評価、というのは絶対にあると思うんですよね。
それは真央選手のトリプルアクセルも同じですが、やはり最初のジャンプを決めてこそ、観客も、また恐らくジャッジも、安心してプログラムの世界に入っていける。
だからこそ世界選手権でも、最初の4回転を決めることが絶対に必要になってきます。
五輪のフリーで4回転を跳ぶ前、「いつもより体を大きくひねっているな」と思ったら成功しました。彼自身も「何でこんなことにあんなに苦労してきたのかと思った」と話していました。成功する時はあっけないのでしょうか?
あの時の感覚を大事に、コンスタントに跳べるようになって欲しいなと思います。
今は難度の低いジャンプでキレイにまとめれば勝てるという流れがありますが、そこに甘んじない姿勢はかっこいいですね。ルールはどうあれ、選手達が頑張っていれば技術の底上げが進むし、今のルール上でも質の高い4回転を跳べる選手が出てくるでしょう。諦めないで挑戦を続けて、今のまま誠実な姿勢と滑りを忘れなければ、彼はきっと4年後、表彰台に立っているのではないかと思います。

頑張ってください!

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ところで、イギリスBBCの解説者は徹頭徹尾彼のことを「18歳」と紹介していました。
そりゃー確かに童顔ですけれども、彼、もう21なんですけど・・・(笑)。


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by toramomo0926 | 2010-03-12 09:56 | フィギュアスケート


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