高橋大輔選手、日本男子初の世界王者に!!-2010世界選手権
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フィギュアスケート2010年世界選手権(トリノ)、男子シングルにおいて、日本男子初の世界王者が誕生しました!
SPで1位になり、フリーで4回転を入れるのか入れないのか、入れるならトウループか史上初となるフリップに挑戦するかというのも注目されていました。彼が初めて4回転回避の可能性を示唆したことは驚きましたが、それだけ選手における「世界選手権優勝」のタイトルの重要性や価値というものを改めて感じたりもしました。
しかし彼は逃げることなく、4回転フリップ(4F)に挑戦しました!その心意気にも感動しました。

高橋大輔選手、本当に、本当におめでとうございます!!!!!

ISU Figure Skating World Championship 2010
順位と得点の詳細。
それぞれの種目の「Result」で総合順位と総合得点が、
ショートプログラム(SP)とフリーの「Entries/Result Details」では得点詳細が、「Judges Score」では各選手の全ての要素の内容と、それにジャッジがどのように得点をつけたかを見ることができます。




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高橋大輔選手の演技が始まってすぐ、彼の滑りというか、「空気感」みたいなものが他の選手とは全く質が違うと感じました。
最初の振り付けで、目覚めて横で寝ているジェルソミーナに躓いて「やれやれ」的な顔をした後、足を踏み出して滑り出した瞬間に「別格」という文字が私の頭に浮かんだのです。
会場全体が、その瞬間に彼の世界に引き込まれたという感じで、電波を通じて遠く離れた日本で見ている私にも「何か」がひしひしと感じられました。
ガシガシと漕がなくても悠々と出るスピード、滑らかな滑り、穏やかで豊かな表情。得点とか順位とか、そういうものが「瑣末なこと」になってしまうほど、今日の彼の滑りは別な次元のところにありました。

Daisuke Takahashi 2010 World Championship FS -La Strada


最初のジャンプをどうするのかと思っていましたが、彼が後ろを向いた瞬間フリップだと気づき、文字通りTVの前で祈りました。
結果は両足着氷&回転不足になってしまったけど、転ばなかったことに安心しました。彼も五輪同様、最初のジャンプを失敗しても全く動揺しているようには見えませんでした。
その後は3回転フリップ-3回転トウループ(3F-3T)の着氷が危うかった他は全てほぼ完璧に決めました。最後のスピンで、レイバックの姿勢から一気に加速したので更に会場が盛り上がりましたね。
後半、やっぱり疲れているのかなというようにも見えましたが、ストレートラインステップの時にいつも以上に手の振りとかに力が入っていたので、「あと少し!」というように自らを鼓舞していたのか、または感極まってきているのかどちらかなあなどと思っていました。

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最後のポーズを決めたとき、さんじゅーウン歳の私はTVの前でぴょんぴょん飛び跳ねていました。そして飛び跳ねているうちに泣き出してしまいました。
フィギュアスケートを見て泣いたのは、浅田真央選手が2008年の世界選手権でトリプルアクセル(3A)大転倒の後奇跡のリカバリーで優勝したとき以来2度目です。
荒川静香さんのトリノ五輪エキシビジョンでも涙はこみ上げてきましたが、声をあげて泣いてしまったのはこの2回だけです。

そして優勝が決まり、インタビューを終えて裏に引き上げる時に、「道」の振り付けを担当したカメレンゴさんの姿が!!
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彼と高橋選手の抱擁を見て更に号泣。怪我があり2年越しで2人で作り上げたプログラムが伝説になったのを見て、きっとカメレンゴさんも感無量だったことでしょう。
来季も彼の振り付けでの高橋選手が見たい、とその姿を見て早くも考えてしまいました。
カメレンゴさん、素晴らしいプログラムを、素晴らしい作品をありがとうございました。

TV向けのインタビューで、高橋選手は今回の演技について「パーフェクトではなかったが、悪くもなかった」と謙遜していましたし、確かに彼のパーフェクトではなかったかもしれないけど、「ノーミス演技」と「感動する演技」「胸を打つ演技」「記憶に残る演技」は別なんですよね。これはバンクーバーでも強く感じたことですが。
そういう意味で、彼の今回の演技と「道」というプログラムは、これからずっとファンに素晴らしい演技として語り継がれ、高橋大輔というスケーターは世界中の若い、または幼いフィギュアスケート選手の目標となる存在になったと確信しました。

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中盤のステップに入る前、お花をあげる振り付け。
いつもは女性のジャッジにあげていたのですが(微笑んでくれるジャッジもいたのでファンの間で『ワイロ』と呼ばれていました(笑)、今回は男性しかその場所におらず「困った(笑)」と話していました。



彼は「4回転を入れた演技で優勝」をどんな試合であっても目指しています。一方で今回は特に「安全策でビッグタイトル」の誘惑は大きかったことでしょう。
ですが彼は信念を曲げず、しかも誰も試合で成功させていない4回転フリップに挑戦してきました。
成功しても失敗しても体力の消耗が激しい高難度のジャンプに挑みながら、あれだけの演技力、流れるような身のこなしや豊かな表情と深いエッジワークと高難度のステップを成立させているのです。
これは日本選手という贔屓目抜きで、本当に奇跡のような選手ではないかと私は思っています。個人的には、フィギュアスケートに求める全てのものを兼ね備えた選手になったと思いました。
あんまり結果論でものを言いたくないし、あの怪我の重大さとリハビリの過酷さを垣間見るとそんなに軽々しく言ってはいけないようにも思いますが、本当に彼は「怪我をして良かった」のではないかと今回のフリーを見て強く感じました。怪我の前の彼のままずっと来ていたら、彼はこういう選手にはならなかったかもしれない、というか多分なれなかっただろうと思います。世界王者のタイトルも、4回転を2度成功させても取れたかどうかは分かりません。
それくらい彼は強く美しく、また貫禄たっぷりに氷の上で舞っていました。


4回転論争について語られるのを見聞きすると、何だか論点がすり換えられているようで、いつもジレンマを感じるのです。
4回転、または高難度挑戦への支持派も「高難度ジャンプさえ決められれば良い」と言っている選手は誰もいないのに、なぜ「4回転か完成度か」という話になるのだろうかと。
全体的な完成度を高めるのは当然のことで、それは4回転派の選手達も否定はしていないはずです。その上で高難度に挑戦して競技を発展させていくべきだし、その挑戦について、リスクを考えた評価をして欲しいといっているだけです。
高難度に挑戦すれば、当然失敗のリスクは高まる。練習の時にも怪我をする危険も大きい。
何より高難度ジャンプを習得し、なおかつ試合で成功できるレベルに到達できる選手は限られているのです。
そういうハイリスクかつ希少価値の高い内容が含まれた演技と、リスクを冒さずに、技術的には何年も前に確立したような内容をやり続ける演技とを同等に、むしろ後者の方をより高く評価する現在のシステムには問題があると言っているわけです。当たり前のことなのにここまでの論争になってしまうことに、どうにも歯がゆい思いを抱えています。

ですが高橋選手の演技は、そのどちらからも高く評価される、技術と出来栄えや表現を両立した演技なのです。
勿論演技はパーフェクトなものではなかったけれど、今回彼が提示したスタイルはフィギュアスケートの演技における理想形ともいえるものです。
現在のフィギュアスケートの状況を踏まえても非常に意味のあるものだったと思います。彼と今回の演技は、そういう面からも国内外問わず評価、賞賛されるべきだと考えます。
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誰か(小塚選手だったように思います)が、「バンクーバー五輪で『難易度(4回転)よりも出来栄え重視』という採点傾向が決定的になったけれど、五輪後はむしろ4回転に挑戦しようとしている選手が増えている」という主旨の話をしていました。
ISUがチャレンジ精神を評価しなくても、自分達はアスリートとしての誇りを捨てないという姿勢は素晴らしいし、応援したいと思います。

高橋選手が今回の世界選手権で4回転フリップに挑んだ上で芸術性の高いプログラムを成功させ、違う試合(ジャッジ)とはいえ五輪金メダリストを上回る得点で優勝したことは、今後のフィギュアスケートの未来に大いに意義のあることだと思いますし、世界中の選手達に希望とモチベーションを与えたものだったと思います。
そして、勿論チャレンジ精神あふれるスポーツとしてフィギュアスケートを見ているファンたちにとっても。

高橋選手、あなたは間違いなく、誰もが認める2010年の世界王者です。
おめでとうございます!そして、本当にありがとうございます。
怪我からの復帰直後、しかも五輪もあって本当にタフなシーズンだったと思いますが、ゆっくり体を休めて、また素晴らしい作品を見せてください。
本当にお疲れ様でした。
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2位はパトリック・チャン選手(カナダ)。今回1位と2位はSPから揺らぎませんでしたね。
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苦手な3Aを頑張って降りたのは素晴らしかったです。でも、それだけに後半のトリプルループ失敗がもったいなかった・・・。
スケーティングのエッジの深さはさすが。彼も滑らかに美しく滑るスケーターですね。
ですが、彼は年々演技が「無表情」になっているように思います。
今回の「オペラ座の怪人」も、曲の構成が緩急をしっかりつけて盛り上がる感じになっているのに、彼の演技のリズムはずっと平坦な感じ。
スローパートでは手の動きや表情はゆったりとはなるのですが、体全体を流れているリズムはずっと同じ印象を受けるのです。なので単調な感じがしてしまう。これはキムヨナ選手にも同じことがいえます。
彼の演技は嫌いではないというか数年前は大好きだったのだけど、特に今季に入ってから私の中でその輝きが隠れてしまっているように思います。

最近のISUの採点傾向を受けて、前述した「4回転論争」ではないけど、選手はそれぞれの方針選択を迫られました。「チャレンジ派」と「まとまり派」。彼は4回転を跳べないので「まとまり派」ですが、「まとまり派」の選手は「点取り屋」的な演技に走りがちになる傾向もあるように思います。彼がそういうスパイラルにはまりつつあるようで少し心配。素晴らしい能力はあるので、もっとハジけて欲しいなあ。
「チャレンジ派」だけでなく、今の採点システムの恩恵を受けていると思われる彼のようなタイプでさえも、現採点傾向は選手の個性を曲げたり、将来性を潰そうとしているかもしれないことに、ISUは気づいて欲しいと思う。
最初から気付いているのかもしれないけど。

Patrick Chan 2010 Worls Championship FS -Phantom of the Opera



3位にブライアン・ジュベール選手(フランス)!復活です!
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バンクーバー五輪SPでのまさかの大崩れは、今大会の織田信成選手の崩壊と同じくらい私にはショックでした。
五輪の盛り上がりで4回転論争がファンだけでなく一般の方にも周知されてきたときだったし、彼には4回転ジャンパーとしてのプライドや迫力を見せ付けて欲しかった。復帰したプルシェンコ選手とのガチンコの戦いを楽しみにしていました。
昨年グランプリファイナル直前に足に大怪我をしていたので、そこから体を作り直すのは困難だったのかもしれませんね。
ですが今回彼はフリーで4回転を2度入れてきました。そして気迫溢れる演技。ルッツでの転倒や細かいミスはありましたが、今季のどの演技よりも気合を感じました。あまりスピードはなかったですが(今大会は「絶好調」という選手は殆どいないはずなので仕方ないですね)「このままではシーズンを終われない」というオーラが出まくっていました。
なんというか、戦う姿勢に溢れていました。これこそがジュベールです。
体のケアをしっかりして、来季はプルシェンコ選手ももっと試合に出るでしょうし、今度こそ熱い戦いを見せて欲しいと思います。

試合後、引き上げてきた高橋選手に握手を求めていた姿に、4回転を引っ張ってきた男の誇りというかスポーツマンシップを感じました。ステキな場面でした。

Brian Joubert 2010 World Championship FS -Ancient Land/Discovery



小塚崇彦選手は3Aを2度とも失敗してしまい、総合10位に沈みました。
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SPであんなに美しく3Aを降りていたのに、わからないものですね・・・。
荒川静香さんが試合後に「メダルを初めて取ろうとしている選手が、メダルが見えた瞬間にミスしてしまう場面を良く見てきたので、今回狙ったものを狙った通りに取る力を発揮した高橋選手を見て嬉しかった」という話をしていました。
小塚選手は昨年の世界選手権は6位。今年はメダルを取りたいと思っていたはずです。SPで4位になり、メダルが取れる位置につけたときに、特に今季うまくいっていなかった3Aを跳ぶ瞬間気負いすぎてしまったのかな・・・と思いました。残念でした・・・。
それにしても、彼の点数の低さに驚きました。3Aからのコンビネーションと、3Aのみのジャンプという高い得点を狙える要素が両方抜けてしまったので仕方ないといえばそうかもしれませんが、フリー12位ですよ。
得点が出た瞬間「ひっくううううう」とブーイングでした。
確かに動きはよくなかったですけどね。ちょっとキレがなかった。でも、それにしてもねえ・・・と言う感じ。ジャンプは仕方ないけど、スケーティングでもうちょっと点をあげてもよかったんじゃないかなあと思いました。
でも、彼は今全てを経験しているところです。
最終的に素晴らしい選手になるという事は私は確信しているので、今は成功も失敗も経験して、もっともっと飛躍して欲しいと思います。高橋選手にしても、4年前のトリノ五輪の時に今の彼を想像できたかといえば、ちょっとわかりませんしね。
来季からジュニアの有力選手がシニアデビューしますし、「末っ子」的な存在から一段上には上がるでしょうが、まだまだ彼の本格的なキャリアは始まったばかり。
絶対今季の経験全てが彼の今後に生きるはずです。
頑張ってください!

Takahiko Kozuka 2010 World Championship FS -Guitar Concerto



今季は本当に男子はいろいろな出来事があってエキサイティングなシーズンになりましたね。
選手のみなさま、本当にお疲れ様でした。
来季を楽しみにしています。

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2010 World Figure Skating Championships Podium

表彰式の様子。スカパーの解説では樋口豊さんが感慨深そうでした。
今回は100回目の選手権だそうですね。ダブルでおめでとう!


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by toramomo0926 | 2010-03-26 07:46 | フィギュアスケート


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