Yahoo!ニュースに、青嶋ひろの氏(フィギュアファンなら、名前を見たことのある方は多いでしょう)が、「浅田真央が気づいていない大切なもの」という文章を寄せていた。
それを見て、怒り狂いました。 この人はこんなに長い間フィギュアスケートを見てきて、選手とも近くに接してきて、あんなに沢山の選手の懸命に努力する姿や、彼ら/彼女らの素晴らしい演技の数々を見てきたはずなのに、実際には何も見て(見えて)いなかったんだと愕然としました。 あの「鐘」を見て、何故真央選手が芸術的に開花していないと言えるのだろうか。何故「ノーミス」や「得点」、または「トリプルアクセル」しか目指していないようなことが言えるのだろうか。 単にノーミスや順位、得点だけを追い求めるなら、真央選手だって(引き合いにだすのもナンですが)キムヨナ選手のように大衆受けする曲を選び、難易度を落として毎回絶対に完璧に滑れるプログラムを作っているはずである。それがキムヨナ選手が成功したやり方なのですから。 その方が精神的にも体力的にも余裕が生まれ、トリプルアクセルの成功率はぐんと上がるはずである。
もしくは完璧にこなせる技をさらに磨くことに専念し、トリプルアクセルは捨てるかもしれない。 そもそも真央選手に芸術性が不足しているのなら、たとえタラソワから勧められようとも「鐘」という曲を選ぶはずがないのだ。それが何故わからないのだろうか。私たちよりよほど近い場所で選手を見てきているのに。 リスクを抱えながらも高みを目指した演技をする浅田真央と、完結しているけれど進歩のないキムヨナ。世間的にはキムヨナの「完成度と質の高い演技」が表現力豊か、とされているけれど、私は同じことを何年も繰り返しているだけのキムヨナの演技は、芸術的にも、またスポーツとしても死んでいると思う。 変化を捨てて同じ場所に留まり続けるところには芸術は生まれない。芸術や表現はもっと生々しいもので、常にある種の「揺れ」があるものだと思う。ある瞬間にその「揺れ」が奇跡的に組み合わさった時、芸術や表現というものが生まれるのではないだろうか。 真央選手は高難度ゆえにミスもありうるリスキーな演技だが、それだけに完成されたときは、気高い何かが誕生する瞬間に立ち会ったようなスリルやカタルシスを感じることができる。 この瞬間こそが「芸術」「表現」の真髄ではないか。 キム選手があれだけ理解不能な銀河点を毎回与えられている以上、高難度の技を決め、理論的に難癖をつけられない方法で高得点を狙う、と考えるのは素人でもわかる。何年もフィギュアを追っていてこの現在の状況が見えていないようなら、青嶋ひろの氏はすぐに筆を折った方がいい。見えない振りをしている場合はもっと深刻だが、多分そうなのだろう。 そして、何故この世界選手権優勝というタイミングで、しかもトップニュース扱いでこの記事を出してきているのか、理解に苦しむ。 青嶋氏は少々自己陶酔的、ポエム気味な文体ではあるが基本的には選手に対して温かい目線を持っている人なのかと思っていたが、今回人が変わったような記事を出してきた(しかもフィギュアファン以外の一般の目に多く触れるYahooトップからのリンクで)のも不思議だった。彼女は何かと引き換えにジャーナリストとしての何かを売り渡したのだろうか、とすら一瞬思ってしまった。 ・・・という怒りを抱えていたところ、アンコウさんのところで福山知佐子さんという芸術家のブログを知り、見に行ってみたところ、救われた思いでした。 彼女のような写真や絵画に日々いそしみ、戦っている方から見ても、真央選手の「鐘」は響くものがあったのだと。 是非読んで頂きたいと思います。芸術に通じた方にはあのプログラムはものすごくイマジネーショナルで、「恐ろしい」とさえ言えるもののようです。 福山さんもブログで青嶋氏のコラムについて言及していますが、その中で心に残ったのは、彼女の青嶋氏に対する じゃあ、「表現」とは何か、をきちんと言葉にすべきだと思う。 という言葉です。 (前略)浅田真央は、「フィギュアスケートに対する「意識」を目覚めさせ」ないと開花できないんだそうだ。 ヤフーのトップに来るような記事を書く権限を持っているいる人が、こんなに非常識で、無感覚なのだろうか。単に、あの恐ろしい「鐘」を見て、その素晴らしさが感覚的にわからない鈍感な、感覚異常な人だとしても、こんなに僭越な(でしゃばりな)発言をするものだろうか?このようなリスペクトに欠けた発言を、このタイミング(金メダル)でするのは、ライターとしておかしい。 じゃあ、「表現」とは何か、をきちんと言葉にすべきだと思う。 (後略) -福山佐知子のブログ 浅田真央 「鐘」 身体芸術 アスリート(抜粋) 2010年3月29日 その通り。「表現力が足りない」云々言ってる人って、何をもって「表現力」としてるのかと思っていると、大体「お色気」みたいな次元のことでしかないんだもの。 そういう人が「表現」や「表現力」をしたり顔で語る日本のマスコミやメディアにはもううんざりです。 ラジオカナダ(フランス語)実況解説・字幕付き。 あれだけの演技をしたのに、点の出方が悪かったですね。点が出た時の真央さんの感情が消えた表情、最後の解説の方の舌打ちが印象的。 British Eurosport(イギリス)の実況・解説。(動画は消えてしまいました) 浅田真央の最高レベルの技術と表現力の融合に感嘆し、最大級の賛辞を送っています。 彼らだけではなく、日本で真央選手が「表現力は今一つ」と言われていた時代でも、欧米では彼女の優雅な滑り、リリカルな表現力には定評があり、彼女に対し表現力を課題とする解説は全くと言っていいほど聞いたことはありませんでした。 彼らに青嶋氏のコラムを読んで聞かせたら、いったいどんな反応を示すでしょうね? <参考リンク> 福山知佐子のブログ 2010年3月29日 浅田真央 「鐘」 身体芸術 アスリート 福山知佐子のブログ 2010年3月28日 浅田真央 「鐘」 身体芸術 アスリート 浅田真央 「鐘」 身体芸術 大野一雄 *福山さんは3日にわたり、真央選手の「鐘」について深く掘り下げてくださっています。 <関連コラム> 胸のすくような神解説 ー2010世界選手権 浅田真央フリー 2010年4月2日 胸のすくような神解説 -2010年世界選手権 浅田真央SP 2010年3月29日 印象深い記事-「浅田真央は挑戦した 「金より立派」これだけの理由」 2010年3月13日
by toramomo0926
| 2010-03-29 23:06
| フィギュアスケート
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