フィギュアスケートのルール改定とジャッジの質について考える
b0038294_14371779.jpgシーズンも終わり、来季のルール改定の骨子が発表された模様です。
その中で高難度ジャンプへの配点を高くする、また回転不足認定された場合の減点幅を小さくするというのに加え、
「女子ショートプログラム(SP)でのスパイラルシークエンスの廃止」があるという報道を見て、大変驚いています。
ISU(国際スケート連盟)は一体何を考えているのでしょう?スパイラルは女子にしかない演技要素で、柔軟性やバランス感覚、そして何より芸術性をアピールできる、競技としては不可欠なものだと思っていますが、それを廃止する意味がわかりません。



ジャンプについての改定は下記の通り。

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【フィギュア】高難度技へジャンプの基礎点引き上げ 「攻め」の滑り促す  国際スケート連盟(ISU)は6日、フィギュアのルール変更を行い、ジャンプの基礎点を引き上げ、回転不足での減点を緩和する方針を打ち出した。高難度の技への挑戦を高く評価することが狙い。日本では女子の浅田真央(中京大)がトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)、男子の高橋大輔(関大大学院)らが4回転ジャンプに挑んでおり追い風に。失敗での大幅な減点もなくなることで、バンクーバー五輪まで世界的に続いた「守り」の滑りは「攻め」へ転じそうだ。(榊輝朗)

 ISUは今回の改正で多くのジャンプの基礎点を引き上げた。浅田が得意な3回転半は8.2から8.5、男子の多くが跳ぶ4回転トーループは9.8から10・3、高橋が初制覇した3月の世界選手権で挑んだ4回転フリップは11.3から12.3に上がった。

 回転不足の減点も緩和される。新しい規定では回転不足を2段階で判定する方針で、4分の1~2分の1回転足りないものは基礎点の70%を与えられ、3回転半の場合、この範囲内の回転不足なら6.0を得られる。

 従来は4分の1回転足りなければ2回転半の基礎点3.5(新規定では3.3)に激減しただけに影響は大きい。ただし、2分の1回転以上足りないものは、従来の4分の1回転足りないケースと同じ扱いで、1回転少ない基礎点となる。

 日本スケート連盟の伊東秀仁フィギュア部長は「大技に挑める環境は日本として歓迎したい。世界的にも3回転半、4回転に挑む選手が飛躍的に増える。その際に日本が有利かは分からない」と語った。

 バンクーバー五輪では、4回転を成功させた男子のエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)が、回避したエバン・ライサチェク(米国)に金メダルを譲った。女子でも果敢に3回転半を跳んだ浅田も銀メダル。失敗した際の大きな失点を避け、「守り」の滑りをした選手が世界大会を制す傾向が続いたが、今回の改正で微妙な回転不足で失う基礎点の幅は小さくなった。高難度ジャンプへの挑戦を促し、選手が「攻め」の姿勢へ転じるきっかけになりそうだ。
(2010.5.7. MSN産経ニュース)
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ジャンプのルール改定というニュースには今まで散々ぬか喜びさせられてきているので、もう何の期待もしないことにしています。これまでも話だけを聞けば一見良い改定のように見えても、実際フタをあけてみれば運用がひどかったですから。

今回もトリプルアクセル(3A)や4回転の基礎点アップ、といっても3Aは基礎点が0.3プラスされただけですからね。それで「世論に合わせて基礎点アップしましたよ」と得意げに言われても・・・という感じですよね。
回転不足認定やGOEという、ジャッジの気持ち一つでどうとでも点数を操作できる曖昧な採点方法がある中では、0.3のプラスなんてあってもなくても同じです
GOEはジャッジの裁量で+3~-3まで6点の幅で評価を付けられるというのに、プラス0.3もらったところでどうなるというのでしょうか。4回転トウループにしても0.5しか上がってないし。
それよりもコンビネーションとして「3Aのコンビネーション」は「3回転のコンビネーション」より難易度が高いのですから、そこも基礎点を上げるべきですよね。3A-2Loよりも3Lz-3Tの方が点が高いというのは、海外の元選手(複数)も話していましたが、技の難易度に比べ点数が低すぎます。
更に来季から導入される「中間点」というこれまた訳のわからない制度が入ってきたら、2Aに毛が生えたくらいの「自称3A」が選手によっては3Aとして認定されそうな気がするのも心配です。

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SPのスパイラルにおいては、何でわざわざ廃止とするのか理由をはっきり説明して欲しいと思います。選手の体力をムダに消耗させるものでもないし(秒数カウントはあるにせよ、むしろお休みどころとしている選手も多いのでは)、スパイラルはプログラムを作品と捉える上でも重要なファクターです。それをわざわざなくすという必要性は全く感じられない。

穿った見方をしてしまえば、今まで真央選手はスパイラルでの取りこぼしが多かったけれど、今季は安定してレベル4+GOE加点を取れるようになっているので、それが原因なのではないかと言う被害妄想(笑)も頭をよぎったほどです。
こう書くと真央ファンの自意識過剰と思われそうですが、実際こういうルールの変更のされ方(彼女が得意な要素を一つずつ潰していく)をずっとされてきたのが真央選手なので、悲しいけれど荒唐無稽な話とはいえない側面があります。


Mao Asada Collection of Her Spiral Sequences



以前ご紹介した「女子SPの必須要素である2Aを3Aとすることを認める」という運動をしているアンコウさんのブログに今回のルール改定についての記事がありました。
私の言いたいことをほぼ全て書いてくださっていたので、よかったら是非ご覧になってください。彼は今回もスパイラル廃止について、日本スケート連盟に手紙を出されたとのことです。文面を紹介されていましたが、内容に深く頷きました。


それにしても、こんなに毎年ルールが変わる競技ってほかにあるんでしょうか?毎年毎年大小さまざまな改定に対応すべく努力する選手は本当に気の毒です。こんなにルールが変わってしまうのでは、もう同じ競技とはいえないのではないでしょうか。
また、選手にばかり質の高さを要求するのではなく、ジャッジの資格も定期的に試験にパスしなければ続けられない、というような更新制みたいなものにすべきではないでしょうか?

ジャッジは選手の演技をスポーツ面、芸術面などあらゆる面で評価を下さなければなりませんが、例えばPCS(演技構成点)の項目にある「音楽の解釈」なんていうものは、ジャッジが本当に判断できるものなのかと私は訝っています。
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もし本当に「音楽の解釈」というものに数字で優劣をつけるのであれば、ジャッジはその年に選手が使用する曲全てにおいてそのバックグラウンドや、ストーリーがあるものについては内容を理解した上で評価・採点するべきでしょう。そうでなければあまりに理不尽ですし、曲の印象だけで採点するなら素人がやっても同じことです。結果として耳に馴染みのある、有名な曲を使った選手の方がPCSは高くつけられることになる可能性も。たとえ有名な曲・イメージしやすい曲にかなり助けられた演技となっているかもしれなくても。だからこそ、毎年「カルメン」とか有名な曲を複数の選手が採用するということが起こり続けているのでしょうね。
確かに知っている曲、親しみのある曲の方が演技を見ていても入りやすい。しかしファンや視聴者、観客はそれでOKでも、専門家として採点をするジャッジが同じような感覚なのはいかがなものでしょうか。
マイナーな知られていない曲、または緩急があまりない静かな、演技によっては単調になりうるような曲での演技をを見応えのあるものにした選手にも、「音楽の解釈」においては高い点がつけられるべきですよね。それこそが曲の解釈なのだし。

要するに、(全ての得点がそうだとは言いませんが、傾向として)曲の知名度と点数が自動的に比例するようでは採点する意味がない、ということです。
シーズン前にいろいろな選手のインタビューを見ると、彼らの選曲には必ず意味があるし、並々ならぬ思い入れを持って臨んでいる。本当にそこに点数を付けるつもりならジャッジも選手が何を表現したくてこの曲を選んだかということをもっと汲むべきだし、彼らも勉強が必要だと思うんです。

視点を広げて考えれば音楽を含めた芸術の評価というのは非常に難しいもので、正当な評価が下されるまで数十年、数百年かかるものもあります。
本当にジャッジは「音楽の解釈」というものを真正面から正当に評価しているのか、評価できているのか。評価できるほどの力量をジャッジは全員持っているのか、ということを強く疑います。例えば「鐘」の楽曲テーマについて「本当に」理解していたジャッジはどれくらいいたでしょうか。
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真央選手の「鐘」は初戦のフランス杯ではジャンプが決まらず決して良い演技ではありませんでした。しかしフランスの観客はスタンディングオベーションをしていたのです。バンクーバー五輪でも、SPの華やかさとは打って変わった迫力ある演技にスパイラルから歓声が上がりました。トリノの世界選手権でもすごい歓声とスタンディングオベーションが起きていた。観客の方が、たとえ知識はなくとも感覚的に、本能的に正当な評価を下せていたように見えました。
例として分かりやすいので難解と言われた「鐘」を引き合いに出しましたが、他の全ての選手においても同じ事が言えます。
これだけ毎年好き勝手にルールや判定基準を変え、選手にばかり負担や質の高さを要求しているけれど、その高いレベルで差し出されたものをきちんと判断できる人間はジャッジ側に揃っているのですか、と聞きたい。この五輪や世界選手権だけでも、疑問を持たれた方は多かったのではないかと思います。

選手や各国のスケート連盟も、試合毎に認定基準に差がありすぎること、またあまりに頻繁にルールが改正されることについて抗議しても良いのではないかと思います。



<参考リンク>
浅田真央ファン夢日記 (アンコウ様のブログ)
Risa's 音楽雑記 (ピアニストの山形リサさんのブログ。「鐘」についての解説があります)


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by toramomo0926 | 2010-05-07 14:29 | フィギュアスケート


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