浅田真央選手、来季の振付は「タラソワ&ローリー・ニコル」
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浅田真央選手の来季のプログラム振付は、ショートプログラムがタチアナ・タラソワ氏、フリーをローリー・ニコル氏に決定したという発表がありました。これは初めて世界女王の座を獲得した2007年-2008年シーズンと同じ布陣ということになります。




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真央、フリーの振り付けはニコルさんに
 フィギュアスケート女子の浅田真央(中京大)は10日、世界選手権(来年3月・東京)で2連覇を目指す来季はフリーの振り付けをローリー・ニコルさんに依頼したことを明らかにした。今季限りで師弟関係を解消したタチアナ・タラソワさんがショートプログラムを手掛ける。

 浅田は2季ぶりのニコルさんとのプログラムづくりに「懐かしい気持ちで、楽しみ。ここ2シーズンは力強い曲なのでスローをメーンとした曲を滑りたい」と話した。6月にロシアとカナダで振り付けをする。

 来季から3回転半など高難度のジャンプ挑戦を評価する採点規則になるが「自分ができることをしっかりやるだけ。気持ちは変わらない」と話した。

 [日刊スポーツ 2010年5月10日21時26分]
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私にはこれはとても嬉しいニュースでした。
ローリーの真央選手のプログラムは大好きだったので復活は嬉しかったし、タラソワとの関係継続も嬉しかった。タラソワとメインコーチの契約は終了しましたが、彼女の力は絶対に真央選手に必要だと思っていたからです。
彼女が真央選手のプログラムや練習に関わるようになって以来、真央選手のスケーターとして表現の世界は格段に広がり、彼女の指導は他の選手にはないたおやかでありながらも力強い演技や、表現に芸術性あふれる深みをもたらしたと確信しています。
最後までタラソワは浅田には合わない、という声もありましたが、私はむしろ真央選手に無形の財産を沢山与えてくれたと思っています。
真央選手に「かわいい真央ちゃん」だけを求めている人、またはそういう面しか見ようとしない人にはこの変化は不満だったかもしれませんが、20代になってもそれだけでは世界ではやっていけないし、真央選手自身も満足しなかったでしょう。

タラソワが初めて真央選手のプログラムを手がけた2007年のSP「ラベンダー」について、当時真央選手は下記のように述べています。

「今まで『可愛い』イメージだけできてて、いつも同じにしか演じられていないのは、何となく感じていたんですよ。
それは、真央が幼くて、まだそういうのしか出来ないということもあったんだけど、もうそろそろ、大人っぽいのもやってみたいなっていうか、やる勇気を持たなくちゃいけないと思った」
「あれ
(ラベンダー)が、自分が変わるきっかけになった」
(浅田真央、17歳 : 宇都宮直子著  文藝春秋社)


Mao Asada 2008 World Championship SP -Fantasy for the Violin and Orchestra

ニコニコ動画ですが実況・解説なし、字幕コメントも消しました。会場音声のみの素晴らしい演技をご覧下さい。画質もとても良いです。
私個人的に、真央選手のSPでトップ3に入る大好きなプログラムです。女性らしい強さと上品さが素晴らしい。衣装もステキです。
ESPNで解説をしていた往年の名選手ディック・バトンは「彼女は大きな変化を遂げた(女性らしくなった)。彼女は2年前には年齢制限で五輪出場が叶わなかった選手なのですよ。全てが上品で素晴らしい」と絶賛していました(ディック&ペギーの名解説が懐かしい・・・戻ってきてくれないかなあ)。
でも、まさかこれが仮面舞踏会や鐘などの「重厚路線」への入り口とはこのとき思ってませんでしたが(笑)タラソワはすごいですね。

名作「ラベンダー」も、今見ると指先などがまだ気を配りきれておらず、まだ少し幼さが残りますね。でも当時は真央選手の女性らしいアスリートへの変化、それもお色気に走ることなく「女性」を見せた芸術性に大変驚いたものでした。
でもこれ、たった2シーズン前のものなんですよね。彼女は2年で劇的に女性スケーターとして脱皮したと思います。
そしてまだまだ彼女は伸びしろがあるし、更に高みに上れる余地があると私は考えているので、2年だけでタラソワの手を離れてしまうのはもったいなさすぎると思っていました。
次の五輪はロシア(ソチ)なので、そういう意味でロシアへのコネクションも保っておくべきだという打算(笑)は勿論あるけど、たとえ次の五輪が他の国であったとしても、タラソワとは離れるべきではないと思ったでしょう。
「鐘」はある意味タラソワの集大成であったかもしれないけど、まだまだ真央選手も吸収したいだろうし、タラソワも授けたいものが沢山あると思うので、今後も良い関係を保ちつつ、素晴らしいスケーターになっていって欲しい、育てて行って欲しいと思います。
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そして、フリーではローリー・ニコルとの黄金タッグが復活。
ローリーはカナダ人なので、バンクーバー五輪の時には選手と一緒にキス&クライに座っているのを何度か目にしました。ファンの間では素晴らしいプログラム制作能力と、彼女自身の美しさも広く知られています。
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バンクーバー五輪、パトリック・チャン選手と。

彼女が真央選手と作り上げたプログラムは名作ぞろいです。
彼女を世界トップスケーターに押し上げた2005年の「くるみ割り人形」も、
未だに「マスターピース」「神プロ」と言われ、今も真央選手のプログラムの中でもダントツの人気を誇る06-07年のSP「ノクターン」も、
トリプルアクセル大転倒から奇跡のリカバリーで世界女王を勝ち取った伝説のプログラム(笑)「幻想即興曲」も、
グランプリファイナルでの神演技と、団体戦で初めてシニアSPで3A認定を得た「月の光」も、
全てローリーのプログラムです。


Mao Asada 2006 Skate America SP -Nocturne

これが真央選手のノクターンの中でも一番人気の、06年スケートアメリカでの演技。これがシニア参戦の演技初披露だったわけですが、世界中をあっと言わせました。バックヤードでも出場選手が何人か集まり、モニターをじっと見つめていた映像が印象に残っています。


当時の映像

バックヤードの様子が移っています。
キミー・マイスナー選手や安藤美姫選手、あとキーラ・コルピ選手と思われる(たぶん)選手がモニターをじっと見つめています。


この頃から真央選手は日本で「表現力はいまひとつ」と言われていましたが、アメリカやカナダではそんなことを言う解説者は一人もいませんでした。彼女の表現力は当時から高く評価されています。
私自身も「16歳」という魔法はあったにせよ、ピアノ1本の演奏でここまで魅せることができているのに「表現力がない」と言われることが理解できませんでした。
日本のマスコミのいう「表現力」とは、「お色気」(『妖艶さ』ですらない)という方向性一本槍の評価なのだというのを痛感したものです。

解説は前述のゴールデンコンビ、ディック・バトン&ペギー・フレミング。08-09シーズンからESPNがフィギュア放映から撤退してしまったので、もうこの名調子が見られないのが残念。
字幕が付いていますが、ディックがおじいさん口調ですね(笑)。ファンから「ディック爺」の愛称で愛されています。ディックもペギーも、フェアで厳しくも愛情のある解説が人気でした。


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Mao Asada 2008 World FP -Fantaisie Impromptu

何度見てもこのリカバリーはすごい。なんというかすごい根性というか精神力というか集中力ですね。
終盤のステップは見事にピアノの音を拾ってステップに合わせています。
この頃は3-3を2回プログラムに入れていたんですね!3Aを2回にしてしまうともうこういうプログラムは組めなくなりますが、来季は3-3を入れてくるんじゃないでしょうか。
解説はまたもやディック&ペギー。字幕が被ってしまっているところがありますが、どうしても削除できませんでした。見づらいと思いますがご容赦ください。
やっぱり解説は外国の方が分かりやすくて的確だし、いいですね。
しかし、さきに挙げた「ラベンダー」もそうだけど、このとき彼女にはコーチがいなかったんですよね・・・キス&クライにはスケート連盟の小川れい子さんが彼女に寄り添っています。
これは今考えても異常な状況だったと思いますが、優勝した彼女は本当に凄いです。

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Mao Asada 2008 Grand Prix Final SP -Clair de Lune

以前にも書きましたが、この時の真央選手は「月の光」そのものになっているような印象を受けます。
伸びやかなスケーティング、静かで滑らかな動き。またビールマンスピンの柔軟性!このプログラムにおいてはこの時の演技がベストパフォーマンスだと思っています。ルッツも認定されていますし。


しかし、こうやって年を追って真央選手の演技を見ていると、どんどん動きがしなやかになり、難易度の高い技もスムーズに、洗練された演技になってきているのがよくわかりますね。


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彼女はその他にも真央選手のエキシビジョンのプログラムも手がけており、シニアに上がってから完全にローリーの手を離れたのは昨年だけでした。
真央選手の繊細な演技のイメージや、また浅田真央を「ショパンの名手」として名を広めたのもローリーの功績が大きいと思います。
なのでローリーならば「間違いはない」とは思うけど、ただ、真央選手には新しい振付師とのタッグで新しい真央選手を見せてほしい、という気持ちも、正直なところ少しありました。ローリーと組んで、「今年はスローな曲を」というのであれば、どんな感じになるかは何となく予想できるような気もするので。
でも、この2年がものすごくチャレンジングだったし、五輪直後のシーズンなので、ここでなじみのあるローリーのプロで一旦リセットして、その後新しい振付に挑戦するのもいいのかもしれませんね。楽しみです。


真央選手&ローリーの振付の様子(2006年と2008年の映像)

「ノクターン」についてのコメントと、「月の光」の振付作業の様子。


ただ、来シーズンに入って絶対国内や海外でも言われるだろうと予想されるのが「これを五輪でやればよかったのに」ですね。
絶対ローリーは真央選手にぴったりのプロを作ってくるだろうし、ローリーはカナダ人なので、バンクーバーではカナダ人の振付で「ザ・真央ちゃん」的プログラムを滑ったほうがよかったんじゃないか、みたいなことは絶対言われるだろうなと思います。
特にカナダの解説者カート・ブロウニング&トレイシー・ウィルソンは必ずそれに言及するでしょう。
それまでは真央選手の演技を大絶賛だったのに、ローリーの手を離れロシア色の強い振付になったとたんにかなり批判的になりましたからね。
カナダやアメリカなどは割といろんな意味で「わかりやすい」ものが受け入れられやすい(なにしろ映画『ロッキー』とかを生み出した国ですから)みたいなので、ロシアンスタイルの重厚&難解なものは先入観的に拒否反応を示すような傾向があるように感じましたし。
特にトレイシー・ウィルソンはキムヨナ選手のスタッフの一人になったこともあり、真央選手の「鐘」も「リンクの端から端まで滑っているだけ」みたいなことを話していました。彼女は解説者としてもっと中立かと思っていたので、かなりがっかりしました。
また一方で、ロシアとカナダってフィギュア的にそんな関係なのかと遅まきながら初めて肌で感じて、驚きました。
まあ、来シーズンローリーのプロを滑る真央選手を見て2人がどれだけ手のひらを返してくるかが見ものとも言える訳ですが(笑)。

でも真央選手はタラソワがフリーの使用曲として「鐘」とは別にもうひとつ用意した「軽やかな曲」を選ばず、挑戦の道を選びました。それは確実に彼女の財産になり、彼女のスケーターとしての力量と日本国内を含めた彼女への評価を高めたと思います。
ずーっと「真央ちゃん」的プログラムを滑っていたら、スケーターとしては全然成長もしないし、演技の幅も生まれない。そしていつか「ワンパターン」と言われる日が必ず来る。ここ2年で「仮面」「鐘」と新境地を開拓したことによって、来季ふわふわ路線を滑ったとしても今まで以上により新鮮に感じられることでしょう。彼女の選択は間違っていないと思います。


さて、タラソワとローリーがどんなプロを用意してくるか、どんな衣装を見せてくれるのか。楽しみになってきましたね。
あとはメインコーチが決まれば、真央選手も落ち着いて動けると思います。既に交渉などは始まっているでしょうが、彼女にとってベストの環境が作られますように。
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最後に、タラソワとローリーが手がけた、競技以外のショーやエキシビジョンのプログラムを。

Mao Asada 2008 The ICE -Sing Sing Sing

これもローリーのプログラム。2008年のアイスショー「The ICE」での演技です。
こういう元気なプログラムもいいかもしれないですね。いつかこういう楽しいプログラムも試合で滑って欲しいな。


Mao Asada 2009 Stars On Ice -Por Una Cabeza

これはタラソワ振付。すごく優雅なタンゴで大好きです。衣装も結構きつい色あわせですが、それを感じさせないゴージャスかつ上品なデザインで、大好きでした。



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by toramomo0926 | 2010-05-11 08:19 | フィギュアスケート


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