それぞれの挑戦 -浅田真央選手・高橋大輔選手
b0038294_8314253.jpg
昨日のサンデースポーツで、22日からはじまるグランプリシリーズ・NHK杯に出場する浅田真央選手と高橋大輔選手の特集がありました。
さすがNHK(いろいろ問題はあるにせよ、スポーツにおける競技そのものと選手への扱い、そしてスポーツドキュメンタリー制作においては私はNHKは素晴らしいと思っています)、しっかりと内容の濃いものを作ってくれていました。
動画も早速アップしてくださった方がいたので貼り付けますが削除の可能性も高いので、写真で出来る限りご紹介したいと思います。

2010 NHK杯国際フィギュアスケート競技大会 大会概要など。




まずは、真央選手がこのオフから長期計画としてジャンプ修正に取り組むことを発表したことを取り上げました。
b0038294_8373750.jpg
6月、ローリー・ニコルとの振り付けを終えてカナダから帰国した時の会見。


五輪でトリプルアクセルを女子で史上初めて3度も決め、ギネス認定までされた真央選手がなぜジャンプを修正?という問いに対し、「15歳の頃のジャンプよりも今の方がスピードや流れ、キレが落ちていると感じるので、五輪後にそれを取り戻したいと考えた。」と話しました。そして、「そう考えたら、逆にエネルギーが沸いてきた」とも。

b0038294_8461140.jpg
b0038294_8475868.jpg
「エネルギー=モチベーション」なのでしょうね。

真央選手は何も言いませんが、彼女のジャンプが狂ったのはスケート連盟の怠慢も一因のような気がしています。
彼女はラファエル・アルトゥニアンコーチ(2006-2008途中まで)の指導を離れて以来、ジャンプについて専門的な指導を受けたことはなかったのではないかと思います。更に彼女や日本選手をある意味狙い撃ちにしたような度重なるジャンプについてのルール改正や採点でのルールの運用に苦しめられました。
彼女はそのような状況の変化にほぼ一人で対応せざるを得なくなり、自己流で修正を加えていった結果、彼女のジャンプはふわりとした高さはあるものの、以前のような流れを奪われたということがあります。
このオフに真央選手のジャンプ矯正を指導した長久保裕コーチが「あれでトリプルアクセルを跳べているということが凄い」と話していましたが、その通りなのでしょう。
そして現在は、ジャンプは高さより幅や着氷時に流れのあるものの方が得点が高くつく傾向にあると思います。
ジャンプは高さよりも幅の方が重要とか価値が高い、とは言えないと思うんですけどね。変な話ですが、でも採点傾向としてはそうなのは否定できません。


特に昨季は全日本選手権まで、真央選手はこれまでにないジャンプの不調に苦しんでいました。しかし日本スケート連盟は、橋本聖子会長が少し真央選手と精神論的な話をしただけで、ジャンプの指導者を臨時にでもつけるとか、具体的に彼女を助ける方策を何一つとらず、事実上放置していました。
通常のシーズンならまだしも、昨季は五輪イヤーという特別なシーズンでした。そして彼女は全競技を合わせても、金メダルを確実に狙える選手の一人だったのです。五輪の金メダルを国中が期待し求めているという状況で最有力候補がこれまでにない不調に見舞われているのに、サポートしなければならないはずの連盟が具体的に何も対策を取らなかったというのは私には理解できません。

橋本聖子団長が真央と会談「全然大丈夫」 2009年11月5日 日刊スポーツ


その状況を見かねた長久保裕コーチが、自分の教え子以外の選手には口を出さないという「お作法」を破っても、真央選手に助言せずにはいられない状況だった。そしてその助言があったから、真央選手は全日本までに立ち直れたと私は思っています。長久保コーチのような本当にフィギュアスケートと選手のことを思う指導者がいなかったら、真央選手の銀メダル、世界女王はなかったでしょう。

この教訓が、真央選手に「1~2年間多少成績を犠牲にしても、どのようなルール改正にも対応できるようにソチ五輪までに基本に忠実で正確なジャンプを跳べるようになる」という目標を掲げさせたのだと思います。

b0038294_923435.jpg
修正には長い時間と、試合での積み重ねが必要になるでしょう。いろいろ言われたりもするでしょうが、怪我にだけは気を付けて目標にまっすぐ進んでいってほしいと思います。


一方、高橋大輔選手もシーズンに向けて始動。
技術的には4回転ジャンプの安定、特に今年3月の世界選手権において彼がフィギュア史上初めて挑戦した4回転フリップの成功という目標を掲げ、五輪と世界選手権でも最高点を出した表現力についても、更なる高みを目指してきました。

b0038294_10204020.jpg

今季のプログラムはショートプログラム(SP)とフリー、どちらもラテン音楽を選択し、その中で違いをしっかりと出すのが課題と話していました。
振り付けは、SPが元トップアイスダンサーのシェイリーン・ボーンさん(ニコライ・モロゾフコーチの元奥様としても有名ですね)のマンボやサンバ、フリーは昨季「道」を振付けたパスクァーレ・カメレンゴさんのタンゴ。

b0038294_1021763.jpg
シェイリーンは美人さんとしても有名。これはまだモロゾフと結婚していた頃かな(モロゾフがなんか若いし)。

b0038294_93664.jpg
カメレンゴさんは、いろんな意味で「濃い」ですね(笑)
昨季の「道」は後世に語り継がれる名作となりましたね。今シーズン彼に振り付けのオファーが殺到したんじゃないですかね。でも彼のプログラムを自分のものにするには、高いレベルでの表現力も求められそうです。

昨季、フリーは映画の世界を表現するという挑戦をしましたが、今季はタンゴの音楽そのものを身体で表現するという更に高い挑戦をしています。
b0038294_10213977.jpg



ちょっと気になったのは、高橋選手のこの言葉です。
b0038294_1022816.jpg

「違ったスケート人生」ってどんなものなんでしょうか?
以前話していた「勝つためのプログラム」ではなく「作品としてのプログラム」を滑る、ということなんですかね。
でも、彼はタイトルを手にしたから「もう勝敗はいいや。挑戦もいいや」とは思っていないのはよくわかります。彼は自分自身に高いハードルを課してはいる。でも、今までよりも「勝たなければ、順位を得なければ」という思いから少しだけ自由になれているということなのかと思いました。
また、年齢的にもベテランの域に入るので技術的な向上には限界が見えている。なので更にスケーターとして「高み」もあるけど「深み」も今後もっと追求していきたい、ということなのかと理解しています。
彼がどういう答えを見せてくれるのかというのを、今シーズンの彼を通じて追っていくのも興味深いですね。


9月、真央選手は20歳に。更に、佐藤信夫コーチに師事することを発表します。
b0038294_1011911.jpg
見た目癒し系、しかし鬼コーチらしいですね。でも愛情はこんなに遠くにいる私にもはっきり伝わってきます。


佐藤コーチの教えはスケーティング重視。正しく滑れていればおのずとスピードも出るし、ジャンプの軸も安定する、という考え方です。
真央選手のジャンプ修正については、「昔のジャンプを取り戻す」のではなく、「ジャンプの基礎から作り直す」という方針を決めました。
いろいろ意見はあるでしょうが、私はそれは正しいと思います。真央選手はまだ若いですが、フィギュア選手としては中堅の域に入っています。それを15歳に戻すのは難しいですし、当時とはルールも変わっている。
真央選手の目指す「基本に忠実で正確なジャンプ」を獲得するには、やはり自己流になっていた土台をしっかり立て直す必要があります。土台ができていれば、多少狂っても修正しやすくなりますし、ジャンプ以外の要素においても基礎が確立していれば効率よく高いレベルを目指せます。ルールに振り回されることも(以前のチェンジエッジのような劇的な変化がない限り)少なくなるでしょう。


信夫コーチの教えは、「ジャンプ」や「スピン」など要素ごとに切り離したものではなく、すべての要素の技術につながりを持たせ、全体的な底上げをはかる独特の方法でした。
例えば選手にアップライトスピン(立って回る基本のスピン)をやらせる。回転軸がぶれたり流れたりせず、なるべく同じ場所で小さい円をずっと描き続けることができるように指導する。
一見スピンの練習のようですが(それもあると思いますが)、実はジャンプの軸をつくるのにも有効なのだそうです。
b0038294_1022498.jpg
この時のスピンは素晴らしく綺麗でしたね。回転速度も軸の細さもすごく良いと思います。


また、スケーティングにおいては重心を上下させず安定させながら滑ることで、ジャンプ前にもスピードを落とさず跳べるし、ひと蹴りで距離の出る力強い、質の高いスケーティングが身に付くという指導もしていました。
b0038294_10302514.jpg
前後のストロークと左右両方向にリンクを回り続けることで重心を安定させる練習。
これはスクワットをし続けるのと同じような状態なのだそうで、太腿が筋肉痛になったとのこと。

真央選手は、こういう細かいところまできちんと指導してもらえることがうれしくて仕方ないんじゃないかと思いますね。タラソワコーチには表現や芸術性をきっちり叩き込んでもらえましたが、こういう技術的、基礎的な指導にも飢えていたんじゃないかと思います。信夫コーチの経験談なども聞けてとても楽しい、と話していましたし、言葉のストレスなく指導を受けられる喜びというのは、私にもわかる気がします。

また、信夫コーチの指導法を見ていて、ああ、小塚崇彦選手の素晴らしく美しい滑りはこういう指導を受け、練習をみっちりやってきたからなんだなあと強く思いました。今回の真央選手の練習を見れば見るほど小塚選手を連想するみたいな感じで。
結果が出ずに焦ったり気持ちが切れそうになることもあるかもしれませんが、これまでのように一人ではないですし、佐藤コーチならきっとしっかりした土台を築いてくれると思うので、頑張ってほしいと思います。
b0038294_1138513.jpg


今回NHKが、真央選手のジャンプ修正についてしっかりと取り上げてくれてよかったと思っています。
きっとシーズンが始まれば、真央選手がジャンプを失敗した時に、修正についてはあまり触れないまま面白おかしく「不調」「CMやTVなどの副業のしすぎ」などと批判するメディアその他が出てくるのは間違いないと思われるからです。
まあ、「サンデースポーツ」はスポーツファンしか見ない可能性が高いので一般にどれだけ浸透するかは未知数ですが、逆にスポーツファンでこの番組を全く見ないという方も少ない気がするので、よかったと思います。
まあ、叩く人は内容に関係なく叩くことが目的ですから、たとえ周知徹底したとしても知らないふりでやり玉に挙げるんでしょうけどね(笑)


サンデースペシャル「浅田真央・高橋大輔 更なる高みへ」



NHKの廣瀬智美アナウンサーも「五輪後は休みを取ったり、出場試合を減らす選手が多い中、浅田選手と高橋選手は更にトップを狙いに行く姿勢が素晴らしい」というようなことを話していましたが、その通りですね。
真央選手も高橋選手も、目標を見つけるのがすごくうまいと思います。それは、彼らの目標が「勝利」だけに留まっていないことを意味しますね。勿論試合をする以上、競技者としては勝利を目指すわけですが、本当に自分が満足できる演技、目標を達成した演技を実現させたい、そのうえで勝利を手にしたいという考えなのだと思います。
二人とも演技は勿論ですが、その精神性も含めて大好きな選手です。


また、NHK杯がシニアデビューとなる今年のジュニア世界チャンピオン、村上佳菜子・羽生結弦両選手を取り上げてくれたのも嬉しかったです。

サンデースポーツ

この佳菜子ちゃんを見ていると、2005年にシニアデビューした真央選手を見ているようですね。佳菜子ちゃんも真央選手と同じくらい大爆発のシーズンになるといいと思います。
羽生選手はしっかりしてますね~。その冷静さと美しい演技があれば、きっといきなり上位も狙えます!!頑張ってほしいです。


いよいよ、NHK杯は今秋金曜日から。
選手の皆さん、頑張ってください!!!

b0038294_10494977.jpg


***おまけ***

高橋大輔選手は、インタビュー終了後、今季のラテン音楽にちなんで記者からマラカスを贈られていました(笑)
b0038294_10542132.jpg
「エキシビジョンのアンコールとかで、持ってできるかな?」と話していたので、NHK杯のエキシビジョンに注目です(笑)


<参考リンク>
2010 NHK杯国際フィギュアスケート競技大会
橋本聖子団長が真央と会談「全然大丈夫」 2009年11月5日 日刊スポーツ


<関連コラム>
浅田真央選手と歴代コーチ・珠玉の名言集  2010年9月28日
浅田真央選手、佐藤信夫コーチとの練習を公開&お祝い  2010年9月26日
浅田真央選手の新コーチに佐藤信夫氏が決定!  2010年9月7日
足元を見つめる力 -浅田真央選手インタビュー  2010年8月21日
浅田真央選手、全てのジャンプを矯正&今季EX初披露  2010年6月26日
浅田真央選手のジャンプコーチに長久保裕氏が就任  2010年6月18日
キムヨナ選手、現役続行の意向  2010年5月31日
印象深い記事-「浅田真央は挑戦した 「金より立派」これだけの理由」  2010年3月13日
会場の事前調査について(四大陸選手権)   2009年2月7日
by toramomo0926 | 2010-10-18 08:37 | フィギュアスケート


<< 浅田舞選手、新たな可能性を開拓... 「鼻ラボ」2010新CM >>