ロシア杯・男子SP
b0038294_1064925.jpg
グランプリシリーズ第5戦はロステレコム・カップ(以下ロシア杯)。
日本からは鈴木明子選手、安藤美姫選手、町田樹選手、羽生結弦選手という魅力的な顔ぶれが出場です。
男女のショートプログラム(SP)が終了し、鈴木明子選手がトップです!
安藤美姫選手は首位と約3点差の5位。試合前の練習で他選手とぶつかるアクシデントがあり腰を痛めてしまったとのことで、それが影響しているのでしょうか・・・心配です。
羽生結弦選手は、男子トップスケーターがひしめく顔ぶれの中で見事にシーズンベストの点数を取り6位、町田樹選手はジャンプの失敗が響き12位。でも演技自体はよかったと思います!

ISU Grand Prix 2010 Rostelecom Cup
順位と得点詳細。
「Result」でそれぞれの種目の総合順位と総合得点が、
「Entries/Result Details」ではショートプログラム(SP)とフリーそれぞれの得点詳細が、
「Judges Score」ではSP/フリーで各選手の全ての要素の内容と、それにジャッジがどのように得点をつけたかを見ることができます。





*****
鈴木SPトップ、美姫5位 男子は15歳・羽生が健闘6位発進

 フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第5戦、ロシア杯は初日の19日、モスクワで女子ショートプログラム(SP)があり、中国杯2位の鈴木明子(邦和スポーツランド)が57.43点で首位に立った。中国杯優勝の安藤美姫(トヨタ自動車)は54.00点で5位。鈴木は20日のフリーで総合優勝すればGP上位6人によるファイナル(12月・北京)進出が確定。2位でも可能性を残す。安藤は総合3位以上に入ればファイナル進出が決まる。

 同日行われた男子SPでは、シニアGP2戦目の15歳、羽生結弦(はにゅう・ゆづる)=宮城・東北高=が今季自己ベストの70.24点をマークし6位につけた。町田樹(たつき)=関大=は56.37点と伸びず12人中最下位。SP首位はパトリック・チャン(カナダ)で81.96点。

2010年11月19日 毎日新聞

*****


男子は、パトリック・チャン選手が一人80点台にのせる点数を出して1位です。
b0038294_72474.jpg

やっぱり彼は「うまい」ですね。滑りがすごくなめらかで、バターの上を滑っているような感じすらします。今回はステップで転倒することもなく、彼のセールスポイントであるスケーティングを存分にアピールできていました。
そして4-3のコンビネーションジャンプが素晴らしくきれいに決まりましたね!今年から演技に取り入れたとは思えないほどきれいな出来栄えでした。
ですが、彼が2位のアボット選手に比べて4点近くも点をもらっていることについては、やっぱり少し疑問があります。
彼はが彼自身苦手としているトリプルアクセル(3A)で転倒しているからです。

今大会のSPで、3位までの選手で転倒したのは彼だけです。そして以前も書きましたが、SPではジャンプの失敗はかなりダメージが大きいはずなのです。
いくら滑りが素晴らしくても、大きなミスなく滑った選手より4点も高いというのはどうにも首を捻ってしまいます。
少なくとも一人80点台、という状況になる演技ではなかったと思います。上位選手で一人だけ転倒しているのですから。


Patrick Chan 2010 Rostelecom Cup SP -Take Five



PCSについても、ISUの方針には矛盾が出てきているように思います。
PCSは今まで、ジャンプ等に失敗があれば、それに影響される形でそこまで高い点が出ないようになっていたと思います。逆にすべての要素がスムーズに決まればPCSは上がる。
なぜならそれは「演技全体の完成度を重要視する」というISUの方針があったからです。

例えば、昨季までのキムヨナ選手とブライアン・オーサー(元)コーチはその方針に目をつけ、高い技術を追求するよりも同じ内容の演技を何年も繰り返した方が得だ、と判断しました。
内容的には他のトップスケーターより薄いものであっても、パッと見の見た目のよさ、難度は低くても完成度を追求した演技をしたほうが得点的に旨味があると判断したことで、五輪での金メダルをはじめとするタイトルを得ました。彼女の得点が上がったのは(それだけでは説明しきれないほどの急激な右肩上がりではありましたが)、そのような方針のもとにプログラム作りを徹底したからというのは大きいと思います。
それがスポーツと言えるのかとか、アスリートの姿勢としてどうかという面はあるにせよ、彼女はそうやって栄光を得た。言うなれば彼女はPCSとGOE(技の出来栄え)によってかなり救済されていた選手だといえます。

ですが今季、ISUは「ジャンプの失敗はPCSにあまり影響されない」という方針のようです。なので今季チャン選手はミスがあっても高得点を得られている、というのが一応の説明のようです。
ですがそれでは、昨年あれほど物議を醸しながらも強固に存在していた「演技全体の完成度が重要」という価値観のプライオリティはどうなってまうのでしょう?選手は点を取ろうとするにあたって、どのような演技を目指せばいいのでしょう?
私はPCS偏重には反対ですが(技術と表現どちらかを捨てるのではなく、どちらも高い選手がいるのだからそういう選手を評価するべきです)、どういう方針にせよはっきりさせてくれないと困るし、毎年こんなに「理想とする演技」がコロコロ変わるスポーツって他にあるでしょうか。
ISUはこの矛盾に対して明確に何か方針を打ち出しているのでしょうか。少なくとも今季の試合を見ていても、ジャッジ自身がぶれているようにも見えてきます。試合ごとに得点の出方にここまで差のあるシーズンはあまり記憶にありません。
これでは選手もファンも混乱してしまいます。

b0038294_9593172.jpg

今大会SPの得点表。
PCS評価は「Skating Skills(滑りそのものの技術)」「Transitions(技と技のつなぎ)」「Performance/Execution(演技力)」「Choreography(振り付け)」「Interpretation(音楽の解釈)」の5項目で評価されるため、「ファイブコンポーネンツ」とも呼ばれています。
TESは技術点の合計、TSSはTES(技術点)とPCS(演技構成点)を合計した総合得点です。



もしジャンプや技の失敗が得点に大きな影響を及ぼさず、その選手の実績や信頼感をベースにPCSの採点を行うということであれば、選手が3月の世界選手権に向けて今から試合を重ね、ジャンプやプログラムを体になじませていく作業にどのくらい意味があるのでしょうか。

私は今季キムヨナ選手が現役続行を宣言しながらグランプリシリーズ出場を取りやめ、「今季は世界選手権にしか出場しない」と発表した時、非常に驚きました。
通常それは「無謀」といえるものです。
初戦では選手はまだプログラムを手探りで模索し、点の出方や自分の体の動きと相談するための材料を集めるという全くバラバラの状態のはずなのです。特にジャンプはシーズンオフで一旦ゆるんだところをまた一から積み直し、試合を重ねて跳び続けてこそ安定して跳べるようになる。
それなのに、選手が一番心身ともにピークを迎えるシーズン最終戦の世界選手権のみに出場する、というのは他選手とは1年遅れで競技に参加するのと同じことだからです。
彼女は五輪金メダリストです。今年の世界選手権でも気力のない演技をしたこと、またそれにも拘わらずフリー1位、総合2位になるなどの不可解な採点に批判が集まりました。彼女は金メダリストとして、これ以上無様な試合は見せられないはずなのです。それなのに彼女は、今季1試合のみ、しかも世界選手権に出場すると言う。
しかし、もし「ジャンプの失敗はPCSにあまり影響されない」という方針で採点が行われるのであれば、既に実績もジャッジの寵愛も受けている彼女なら、今季初戦にして最終戦でいきなり優勝、という筋書きもあり得るかもしれません。私は今季のISUのPCSについての姿勢を見るにつけ、そのような事態になることを一番恐れています。

まあ、彼女はプロスケーターになるより現役を続けた方がいろいろな意味で旨味が多いと判断したフシもあるので、結局世界選手権はドタキャンするかもしれないとも考えていますが・・・。
ミシェル・クワンのように、引退宣言はせずとも開店休業、という状態を続ける可能性も高いですね。彼女が主催したアイスショーは興業的に失敗でしたし、現役選手としての企業とのスポンサー契約を手放したくないという面はあると思いますので。
恐らく彼女は世界選手権には出ないだろうと今のところは考えていますが、ジャッジがこのような「先入観」に基づいた採点を続けるようなら、彼女は気が変わるかもしれません。



・・・男子SPを書いていたのに、話がそれてしまいました(ですがPCSを語るうえで彼女は外せない存在なもので・・・)。
話を男子SPに戻しましょう。


2位はジェレミー・アボット選手!
b0038294_8142882.jpg

彼は去年までのちょっと繊細な、悪く言えばちょっと頼りないような感じから見事に変身を遂げていますね。今季のSPは本当にカッコよくて、「青年」から「男」になったような逞しいキレのある演技は素晴らしい。
彼は五輪では全くいいところを見せることはできませんでしたが(ホントに残念でした…)、レイチェル・フラット選手の「どんな経験も私にとっては重要」という言葉のごとく、辛い経験でもこうやってしっかり自分に取り込み、強さとして生かしていくことが出来るというのは素晴らしいですね。
これは自分の失敗を正当化したり、逃げたりすることなく正面から向き合わなければできないことです。
今季の彼には頼もしさを感じますね。このまま怪我なく、安定した演技を見せていってほしいと思います。


Jeremy Abbott 2010 Rostelecom Cup SP -Viejos Aires



3位はトマシュ・ヴェルネル選手!
b0038294_8501970.jpg

ここ2年くらいか、彼は演技に精彩を欠く試合が多かった。4回転を本当に美しく跳ぶ選手で、ジャンプも滑りも、そして演技力もとてもある選手なのに、その輝きが全くと言っていいほど消え失せてしまい、とても心配していました。
ですが今季、彼は浮上してきていますよね!4回転は今のところ跳んでいませんが、ジャンプに去年までのような迷いがないように見えます。
ずっとチェコのフィギュアを一人で引っ張ってきた彼に、昨季鮮烈デビューを飾ったミハル・ブレジナ選手という強敵が現れたことも彼にとっては良い発奮材料だったのかもしれません。
4回転はシーズンが深まるにつれて入れてくると思いますし、心配していません。今大会のフリーに入れて来るか、まず注目ですね。
彼にはこういう軽快なナンバーもすごくよく合いますね。気持ちよさそうに滑っていて見ていて楽しい。頑張ってください!


Tomas Verner 2010 Rostelecom Cup SP -Singing in the rain

青いベストにピンクのネクタイという、フツーでは「これは・・・」という色遣いも、彼が着るとすごく上品ですね。よく似合っています。


4位に今季よりシニアデビューのロシアの星、アルトゥール・ガチンスキー選手が入りました!
b0038294_8583282.jpg
彼はプルシェンコ選手を教えているアレクセイ・ミーシンコーチの門下生です。

ジュニアをよくご存知のファンの方々には「ガッちゃん」の愛称で既に人気の高い彼ですが、私は彼の演技を見たのはこれが初めてでした。
ジャンプ高いですね!そして軽やか。17歳ということで、これから羽生選手とシニアでも切磋琢磨していく感じになりそうですね。
羽生選手は軽いけど切れ味もあるという感じですが、ガチンスキー選手はもっと羽のような軽さがありますね。ステップが結構凝っていて面白かったです。
ミーシンコーチに9歳から師事しているということで、ちょっと腕の動かし方とかがプルシェンコ選手を彷彿とさせます。柔軟性もありますし、身のこなしもしなやかで、これから楽しみな選手ですね~。ピンクのグローブが印象に残るし、難しい曲を踊りこなしていますね。
ジュニアから上がってくる選手は、演技時間がシニアの方が長いので、スタミナは非常に重要になりますね。特にフリーは大変だと思いますが、頑張って!
今大会は男子は強敵揃いですが、表彰台を狙う気持ちはしっかり持って、思い切りフリーははじけてほしいと思います。


Artur Gachinski 2010 Rostelecom Cup SP -Selection of music by Pink Floyd

曲も面白いと思ったら、ピンク・フロイドですか(笑)これまたコアなところを持ってきましたね~。シャキーン!って終わるのが面白い(笑)
ギターとサックス?と女性コーラスを使った、単調なようでそうでない、なんかクセになる曲ですね。
私はこの女性コーラスを聞いて、「なんかこういうの知ってる。何だろう?」と考えていたら、カルチャー・クラブの「The War Song」だと思い当たりました。


Culture-Club -The War Song

女性のコーラスは2:04あたりから。懐かしい・・・・・。
なんかちょっと違う?(笑)でもなんかこの部分が連想されてしまったんですよね(笑)


羽生結弦選手がSPの自己ベストを更新、6位につけました!!
b0038294_9201723.jpg

彼はロシアのファンに愛されるんじゃないかと思いますね。ジャンプも身のこなしも素晴らしく、表現力もある。なんか色気みたいなものも感じます。彼は間違いなく、今後男子トップグループに残っていく選手だと思います。
あとは(本人も言ってますが)シニアのフリーを最後まできっちり滑り切るスタミナですね。でも彼は本当にインテリジェントですし、きっとこれから一つずつ自分のものにしてくるだろうと思います。

3Aがちょっと危なかったけど、しっかりこらえましたね。自己ベストで6位というのは、やはり今大会の男子メンバーの充実ぶりからいったら仕方ないかなあ・・・。
村上佳菜子ちゃんとは順位を比べないであげて欲しいですね。女子と男子では今季、メンバーの充実度合が全く違うので。
佳菜子ちゃんにはちょっと今後の不安を感じてしまった私ですが、私はむしろ羽生君の方が今後安定して成績を残していくのではないかと思っています。フリーは大変だけど、頑張ってほしい!
ジョニーも応援メッセージをツイッターで残していたし!!

b0038294_9272337.jpg
「ユズルガンバッテ!」って書いてくれてます。


Yuzuru Hanyu 2010 Rostelecom Cuo SP -White Legend

なんか持病の腰痛が出ているという情報がありますが、どうか無理しませんように。
長く選手生活を続けるために、体のケアだけはしっかりして、無理はしないでほしいですね。


町田樹選手はジャンプで複数のミスがあり、最下位の12位。
b0038294_9325683.jpg

ジャンプは本当に残念でしたが、でも今季のSPは私は大好きです。
ジャンプのミスがあっても、それ以外は充分に魅せることが出来ていると思います。ロシアの観客の方も手拍子してくれていましたね。
「黒い瞳」の音楽にのせて、ジャンプのミスが続いてもあきらめることなく、集中を切らさず体全体を使って最後までしっかり踊り切りました。
このプログラムのステップは何度見ても相当体力的にきついものだと思うのですが、しっかりしゃがむところはしゃがみ、ポジションも流すことなく膝をきちんと曲げていて、本当に素晴らしいと思います。
フリーでは是非思い切って、出し切った!といえる演技ができますように!


Tatsuki Machida 2010 Rostelecom Cup SP -Dark Eyes



例によって長くなってしまったので(笑)、女子は別記事で書きます。

それから、会場にプルシェンコ選手が来ていたようですね。試合を観戦していたそうです。
b0038294_9514239.jpg
隣に見える金髪はヤナ姐さんかしら?

また、今大会プルシェンコ選手は出場しないとわかっていながら、彼のバナーを飾っているファンがいました。なんかうれしかったです。会場でそれを見たプル様も、きっと喜んだことでしょう。
b0038294_9525586.jpg
演技中に一瞬しか映らないのですが、結構大きいバナーが2枚くらい貼られていました。



<関連コラム>
「先入観」への危惧 -パトリック・チャン選手優勝:スケートカナダ・男子シングル  2010年10月31日
キムヨナ選手、グランプリシリーズ欠場を発表  2010年7月19日
プルシェンコ選手、提訴はしない方針  2010年7月1日
プルシェンコ選手、選手資格剥奪 -選手はISUの奴隷ではない  2010年6月29日
キムヨナ選手、現役続行の意向  2010年5月31日
フィギュアスケートのルール改定とジャッジの質について考える  2010年5月7日
浅田真央選手、2度目の世界女王に -2010世界選手権(追記あり:2010年3月28日)  
女子シングルは波乱の幕開け-2010世界選手権  2010年3月27日
浅田真央選手銀メダル獲得、日本選手全員入賞おめでとう!-バンクーバー五輪  2010年2月26日
キャンデロロ、女子SP結果に吠える「真央の方が難しい技をしているのに、どうしてこうなるのか?」 2010年2月25日
エルヴィス・ストイコ氏、4回転論争に吠える  2010年2月22日
男子シングル終了・4回転論争は続く-バンクーバー五輪  2010年2月19日
キムヨナ選手の「世界最高得点」の意味を考える 2009年10月20日
「競技」としてのフィギュアは死んだのか 2009年10月18日
by toramomo0926 | 2010-11-20 07:32 | フィギュアスケート


<< ロシア杯・女子SP ステキな写真が多いので : ド... >>