山田満知子コーチの功罪:タラレバを承知で
浅田真央選手は15歳でシニア鮮烈デビューを飾るまで、山田満知子コーチに師事していた。
幼少時に他のコーチについた時期もあるが期間としては山田コーチの期間が一番長く、真央選手を育てたのは実質上山田コーチといっていいと思う。
山田コーチなくして真央選手はトリプルアクセルを跳ぶことはなかったと思うし、数々のタイトルも得ることはなかったと思う。そして村上佳菜子選手も立派にシニアデビューを果たした。
何より日本女子選手が世界トップで戦う礎を築いたパイオニアである伊藤みどりさんを育てた実績を持つ名コーチである。

しかし、私は真央選手の歩いてきたスケート人生を思うにつけ、山田コーチには少しわだかまるものを持っているのも事実だ。
私は真央選手を取り囲むすべての事情に通じている訳ではなく、これは報道等からうかがい知れる状況を見ていて私が勝手に感じたことで、これが事実だというつもりは全くない。100%私が知りうる情報から導かれた単なる「疑問」である。別の見解をお持ちの方が殆どだとは思うが、書いてみようと思う。


私が残念に思うのは、山田満知子コーチが真央選手を手放したタイミングだ。それと、その後の真央選手のコーチ不在時のケアについて。

彼女は(フィギュア人気でリンク事情が悪くなったこともあったが)、山田コーチから「自分のところからもっと大きな世界へ出ていくべき」と言われて彼女の手を離れ、ラファエル・アルトゥニアンコーチに師事した。しかしラファエルとの師弟関係が突然打ち切られた後、彼女はジャンプの専門的指導を受けることが出来なかった。
それは勿論、第一に日本スケート連盟の怠慢ともいえるケア不足というものがある。自国の選手、しかも試合を控えた選手にコーチがいない状況になったら、まず連盟はその選手と話し合い、臨時にでもコーチをつけて指導するのが普通だと思う。確かにレベルチェックの要員をつけ、キス&クライに一緒に立ち会うスタッフは派遣したが、彼女はたった一人で調整することになった。その後コーチはついたが、技術的な指導は殆ど受けられなかったという。
そのツケがまわり、五輪前という大事な時期にジャンプの狂いが彼女一人の手には負えなくなり深刻なスランプに陥った時も、連盟は具体的には何もしなかったと言っていい。見かねた長久保裕コーチ(鈴木明子選手のコーチ。本来なら代表枠を争う選手のコーチがライバル選手に助言することはありえない)が助言してくれなければ、日本女子の銀メダルはなかっただろう。


かように彼女は(本人は不満を述べることはないが)指導者から満足な技術的指導を受けられないまま、一人で考え、一人で練習を積み重ねた。
毎年のように変わるルールに一人で対応し、ルールに自分を適応させようとしてきた。大きくはエッジエラー認定と、回転不足認定だ。
結果ジャンプの跳び方は次第に変わり、回転不足認定を避けるためジャンプに高さを出そうとして飛ぶ前に思い切りかがむ癖がついた。そしてエッジエラーを厳しく取られることに恐怖心が生まれ、ジャンプの踏み切りに以前はなかった迷いのようなものが染みついた。そのため以前はきれいについていた着氷後の流れが殺されることになった。

今季になってやっと佐藤信夫氏という素晴らしいコーチから指導を受けることができるようになったが、約3年自己流でやってきた癖を抜くことに非常に苦労している。
彼女はジャンプの上達、ブラッシュアップについては他選手に比べて相当「遠回り」をさせられている感は否めない。そのために彼女は努力しているものの、ずっと苦しんでいる。



私は今の彼女の苦しみは、山田満知子コーチにも少しだけ責任…というと重すぎるかもしれないが、原因を作った可能性があると思っている。
浅田真央という世界トップとなる選手、しかもフィギュアスケートの歴史に名を残すことが確実視されていた選手を、ただでさえ16歳という身体が変化し、精神的にも難しくなる時期に突然手放した、そしてその後コーチ探しに途方に暮れる彼女に手を差し伸べようとしなかった(少なくともしたようには見えない)ということを非常に残念に思っている。

山田コーチは今、中京大のリンクでも生徒を教えている。真央選手もよく顔を合わせ、話をすることもあるという。
山田コーチが真央選手と別れた当時は中京大リンクができる前ということで練習環境、リンク事情が悪かったということはある。だが、それなら中京大リンクが出来て真央選手が帰国し、アルトゥニアンコーチと契約解除になった時に、なぜ手を差し伸べなかったのだろう。
「名古屋でサポートできることがあれば何でもする」と真央選手と母親に話していたはずの山田コーチは、名古屋に戻り、コーチ不在になった時の真央選手に何か具体的に動いたのだろうか。オフィシャルな形ではなくても、手を差し伸べようとしたのだろうか。

とはいえシーズンスケジュールは既に決まっているだろうから、イエテボリの世界選手権に同行することは難しかっただろう。しかし同じ中京大リンクで他の生徒を教えているのなら、突然コーチを失い一人ぼっちで練習していた真央選手にアドバイスなどをすることは絶対に不可能だったのだろうか。
勿論これは山田コーチだけでなく、スケート連盟にも責任があることだけど、送り出す時に口にしていたあの言葉はなんだったのだろう、とちょっと思ってしまうのだ。選手にとって、しかもベテランではなくシニア2年目の若い選手にコーチがいなくなる、というのは非常事態であることはよくわかるはずである。

また、私は山田コーチが浅田真央をアメリカに出した理由について、
「リンク事情が悪い」ということと、
「世界で学ばなければいけない時期に来ている」、
あと「もうシニアは教えないつもりでいる」という理由があったという情報を得ていた。
やはりジュニアとシニアでは緊張感も全く違うし、山田コーチ自身が体調を崩したりしていたことから、体力的にも精神的にももう厳しいのかもしれない、とある程度納得していた。
なので、今季村上佳菜子選手がシニアデビューとなった時、当然のように彼女についている山田コーチを見て、私はショックを受けたのだ。


「真央選手は規格外に才能にあふれた選手なので自分のところにいると選手としての成長に限界がある、外に出した方がきっともっと伸びる」という苦渋の決断だったのだろうとは思う。でも真央選手はその後安定して同じコーチにつくことができなかった。
もちろんそれは山田コーチの責任ではないが、真央選手が大事な時期に精神的支柱を失い、スケート連盟のサポートも殆ど受けられず、長久保裕コーチが話していた「ずっと一人で練習していた(ジャンプの)癖がついてしまっている」状態になってしまったことは、真央選手にとってはしなくてもいい苦労を強いられ遠回りさせられている感がどうしても拭えず、すごく残念に思う。同じ状況に置かれたのが他の選手だったら、とっくに第一線から消えていたのではないかという過酷な状況である。

幼いころからずっと指導を受けて、母親のように慕っていた山田コーチに少しでもアドバイスや指導を受けられる状況だったら、彼女は精神的にも、技術的にも随分違ったのではないかという気持ちはどうしても心のどこかにある。高橋大輔選手がニコライ・モロゾフに指導を受けながら長光歌子コーチともずっと繋がっていたようにすることがなぜできなかったのだろう。織田信成選手も基本的に母親がコーチとしてついているし、珍しいことではないはずなのだ。

私はすべての事情を知っている訳ではないので決めつけるつもりはないし、あまりコーチ批判のようなことは言いたくないが、真央選手についての彼女の決断は正しかったとは私は思えないところがある。なんだか中途半端に放り出されてしまったような気持ちになる時があるのは否定できない。


なんだかくどくどと書いてしまったが、多分、私は勝手に山田コーチに裏切られたような気持になっているのだと思う。
今季シニアに上がった村上佳菜子選手に山田コーチがついている、ということが、(あくまで私にとっては)かなりショックが大きかったのだ(勿論村上選手に非はなく、あくまで山田コーチがシニアの選手を持っている、という状況について)。
真央選手がコーチ選びに苦労している様子を見ていて「こんなに苦労するなら山田コーチのところに戻れたらいいのに」と思うことは何度かあったのだが、「シニアは教えない」と言っていたからそれは無理だ、仕方ない、と言い聞かせていた面があるからである。
もしシニアの選手を見ることができるなら真央選手にも(メインコーチとしてでなくとも、完全に切ることはせずに)ずっとついていて欲しかった、それならもし真央選手が同じようにコーチを転々としたとしても、ここまで苦労することはなかったであろうと思えるからである。

真央選手だけでなく村上選手までもがフルッツの癖があるのが分かったことも、指導者としての彼女に疑問を持った点である。
エッジエラーについては、教えるときは基本通りに教えても、選手個人の癖で変化してしまっているのかと思っていたが、同じコーチの複数の教え子が同じ減点要素を身につけてしまっているとなると、これはやはり指導者に問題があると言わざるを得ない。そしてそれは今後、村上選手をも苦しめることになるのではないか。


まあ今更言っても仕方ないことでもあるし、真央ファンの私が勝手に考えた一方的な、偏った考えであることは重々承知しているが、山田満知子コーチについては私はどうしても手放しで素晴らしい指導者だ、とは思えないところがある。その点について書かせて頂きました。
異論は勿論あると思いますが、ブログでの個人的な考えの吐露ということで、ご容赦頂きたいと思います。


とはいえ、真央選手は私のように後ろを振り返ってグチグチとは絶対言わないし、そうやって後ろ向きに考える選手ではありません。今自分に与えられた条件、環境、状況でベストを尽くして頑張っています。
なので私ももうこれ以上は後ろ向きなことを言わず、真央選手の挑戦を応援していきたいと思っています。


by toramomo0926 | 2010-11-27 18:36 | フィギュアスケート


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