ソチを見据えた挑戦を -村上佳菜子選手
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グランプリシリーズに出場する選手の強化合宿が中京大で始まりました。村上佳菜子選手も参加し、新しいプログラムを披露したそうです。
昨季この上ない形でのデビューを飾り、今季は更に真価が問われる年でもありますが、ソチ五輪まであと3年ということを考えると、まだ若いしガンガン挑戦していってほしいという思いもあります。




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フィギュア:GP強化合宿公開 村上ら新プログラム披露
シニアグランプリ強化合宿で練習する村上佳菜子=愛知県豊田市の中京大アイスアリーナで2011年8月3日、黒尾透撮影 フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズに出場する選手の強化合宿が3日、愛知県豊田市の中京大アイスアリーナで公開され、村上佳菜子(愛知・中京大中京高)らが今季の新プログラムを披露した。

 シニア2年目の村上は、振り付けを海外で行った。ショートプログラム(SP)は名伯楽タチアナ・タラソワ氏、フリーはマリーナ・ズエワ氏に依頼したが、SPは「難しくてこなしきれない」と今季は「温存」(村上)する可能性も示唆した。

 男子陣はいずれも4回転ジャンプを入れる。織田信成(関大大学院)は左ひざ痛でスピンを中心に練習したが、SPに1回、フリーに2回の4回転を入れる予定という。

 合宿は1日から4日間。高橋大輔(関大大学院)と浅田真央(中京大)は体調不良などで参加を見送った。【黒尾透】


2011年8月3日 毎日新聞

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佳菜子、今季のプログラム披露/フィギュア
 今季フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズに出場する選手の強化合宿が3日、愛知・豊田市の中京大アイスアリーナで公開され、女子の村上佳菜子(16)=愛知・中京大中京高=らが今季のプログラムを披露した。

 シニア転向2季目を迎える佳菜子にとって、本格スタートとなる合宿。初めて海外の振り付け師に依頼してプログラムづくりをしたことを明かし、「英語がわからずアワアワしたけど、(海外に)行ってよかった」とニッコリ。

 とくに、ショートプログラムは、かつて浅田真央(20)=中京大=も師事したタチアナ・タラソワ氏(63)=ロシア=に依頼。正式採用は、時間をかけて決める。昨季GPファイナルで3位に入った超新生は、今季は第3戦中国杯(11月4~6日、上海)と第5戦フランス杯(11月18~20日、パリ)に出場予定。なお、真央は体調不良で今合宿には参加していない。

2011年8月4日 サンケイスポーツ

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The ICEでも気持ちよさそうに滑っていましたし、合宿でも順調そうで何よりです。
ですが私がちょっと気になったのは、上記報道の赤字部分、「(タチアナ・タラソワ振り付けの)SPは「難しくてこなしきれない」と今季は「温存」(村上)する可能性も示唆した」というくだりでした。

タラソワの振付けたプログラムがどういう内容なのかが全くわかりませんし、分かったところで今の佳菜子ちゃんに対してそのプログラムはどうなのかという技術的な判断は私には全くできないので、あくまでもこの報道を聞いた印象のみでの考えですが、以下に書きます。


是非、佳菜子ちゃんにはタラソワのプログラムに挑戦してほしいのです。


タラソワのプログラムといえば芸術性と難易度を高いレベルで両立させた「鬼プロ」となることが多い。浅田真央選手の戦いぶりをずっと見て来ていた佳菜子ちゃん(や山田コーチ)には、タラソワにプログラムをお願いすれば、かなり難しいことを要求されるということは分かっていた筈だと思うんです。
分かっていたとしても、予想を超えるすごいものが来てしまったのかもしれないけど(笑)でも、タラソワは機械的にプログラムを作ることはしない人だと思うんです。

その選手がどういうタイプか、今後どうなってほしいか、この選手には何が足りず、どういうところを伸ばしていけばもっと素晴らしい選手になるかということを考え抜いてプログラムを作る職人だと私は感じています。
その思いが強すぎて現行の採点基準からはみ出すこともままありますが、それでもプログラムを「芸術作品」と捉えて作り上げる芸術家だと思います。

そのタラソワが今の佳菜子ちゃんを見てそのプログラムを作ってくれたんだと思うと、そこはやっぱり是非「温存」しないで今年挑戦してほしいと思ってしまうんですよね。
確かに1年や2年置いて能力を上げてからそのプログラムを滑った方が「上手に」滑れるかもしれません。でも、今彼女はまだ16歳(今年17歳)です。シニアでは若いといえる年齢。この時に「ちょっと難しいかな」と思うくらいのプログラムに果敢に挑戦して伸びしろを広げることは、彼女にとって長い目で見ればプラスになるんじゃないかと考えるからです。

真央選手もタラソワについた当初、今の佳菜子ちゃんと同じ17~18歳の時期に、「仮面舞踏会」という今までの彼女とは全く別の世界の演技をタラソワから提示されました。
初めは結果について批判も浴びましたが彼女は怯むことなくこの「鬼プロ」に食らいつき、ついには自分のものにして、彼女の滑れる世界の幅をグンと広げました。
そして今、その「仮面舞踏会」と、翌年更に挑戦を広げた「鐘」は彼女の代表作にまでなっています。

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佳菜子ちゃんはまだ若く、可能性がたくさんあります。まだ何でも吸収できる、どのようにも変われる余地が充分にある。
だからこそ、ソチまで3年ある今だからこそ取り組む価値はあると思うんです。
せっかくタラソワがくれた芸術性を大きく伸ばすチャンスに対して尻込みしてしまうのは、非常にもったいないと思います。彼女はシニア女子においてまだポジション的にも、年齢的にも怖いものなしで行ける「挑戦者」という立場にいると思いますし。

これは私の推測ですが、彼女が迷っている理由に、ひょっとしたら今季シニアに乗り込んでくるロシアンガールズ、世界ジュニア女王のソトニコワ選手、銀メダルのタクタミシェワ選手の存在があるのかもしれません。
彼女たちはジュニアながら非常に高い能力を持ち、既にシニアでも充分に戦っていける実力を持つ選手たちです。高い技術だけでなく演技することで会場の雰囲気を支配する力もある。
そういう素晴らしい選手が二人も参入してくる中で、自分はシーズン序盤から完璧な演技をしないと表彰台の順位を争うトップチームに残れないという危機感があるのかもしれません。

もちろんこれは私の推測であり、佳菜子ちゃんとコーチ、スタッフがそのように考えているかは私にはわかりません。しかし、難プロを作ることで有名なタラソワに依頼しておきながら使用を迷うという理由は、私の頭ではこれくらいしか思いつきません。いくらなんでもどうしようもないほどにその選手のレベルに合わないような難しいプログラムを、プロであるタラソワが授けるはずはないと思いますし。
仮にそういう思いがあるのであれば、それは「守り」の姿勢ということになると思います。昨季の成績から落としたくないという気持ちが働いていることになる(当然の心理でしょうが)。でも、今の年齢でそれを持つことは危険もはらみます。気を付けないと伸びしろを捨て、限界を決めてしまう事にもなりかねない。


私は基本ジュニアは追いかけないので、ジュニア時代の佳菜子ちゃんは優勝した2010年ジュニアの世界選手権の演技しか知りませんが、昨季シニア1年目の彼女は開幕戦からSPのジャンピング・ジャックも、フリーのマスク・オブ・ゾロもほぼ完ぺきに仕上げてきていました。今までの彼女の「プログラムをこなす」という意識、シーズンの戦い方というのは「シーズンインまでにきっちりプログラムをモノにする」ということを意味していたのかもしれません。
しかしタラソワのプログラムは、誰が滑ってもそういう訳にはいきません。高橋大輔選手も苦労したと聞きますし、真央選手はシーズン終盤にやってくる一番大きな試合(世界選手権やオリンピック)までに試合を重ねながら「練り上げる、作り上げる」というスタンスです。
プログラムを作品として作り上げるようにシーズンをかけて努力することで、最終的に出来上がった時には自分自身の能力も一段上のステージに(結果的に)上ることが出来ている、そういう達成感と実感が「耐え抜いた後」にやってくるスタイルです。というか、フルシーズン耐え抜けた人にしかその恩恵を得ることはできない、養成ギプスのようなプログラムだと思います。
そのあたりの意識、視点をこれまでとは変えて考えないと、今年温存しても、タラソワのプログラムを滑る決心は来年もつかないような気がするのです。

多分タラソワのプログラムは、本人にとっては今までとは比べ物にならない、びっくりするくらい難しいものだったんでしょうが、それはタラソワが「佳菜子ならできる」という期待の裏返しでもあると思います。その気持ちをちゃんと受け止めて、佳菜子ちゃんらしいガッツで食らいついて行ってほしいという思いもあります。

佳菜子ちゃんもいわゆるスケートエリートで、幼いころから名前を知られるほどに活躍し、良い成績を挙げ続けてきた選手です。この挑戦を受けることで辛い思いや、プライドが傷ついたりすることもあるかもしれない。でもその挑戦をやりきったら絶対に彼女は成長できるし、これから女性アスリートとして戦っていく中で何か武器になるものを得られると思うんですよね。ソチ五輪に近づけば近づくほど大きく変化できる時間はなくなるし、自国開催となるロシアの女帝であるタラソワは忙しくなり、手をかけてもらえなくなる可能性が高い。今は最後のチャンスと言っていいと思うんですけれど・・・。

でもその道は茨の道でもありますね。昨季の成績が良かっただけに。
マスコミや一般は成績のみでしか評価しませんから、どのような難しいことに挑戦しているかという事は一切とりあげず成績が出なければ叩きます。この状況においてもまっすぐ目標にブレずに取り組むには強い意思が必要になるので、迷う気持ちもわからなくもないですね・・・
自分がどういう風にキャリアを積んで、最終的にどういうスケーターになりたいか、佳菜子ちゃん自身がどう考えているかによって選択は変わってくるかもしれません。それは必ずしも真央選手が選んだ道とは違うことも充分考えられますし、そうなると生き方の問題にもなるのでどっちがいいとか悪いとかは言えなくなってきますね。難しいです。
でも見る側としては「こうあってほしい」「こういう風になってほしい」という思いはどうしても抱いてしまうんですけどね。


昨季シニアデビューの年に華々しい活躍をして、今年は「ジュニア上がりたてなのにすごいね」ではなくシニアの表彰台経験者として戦うわけですから、周囲からの彼女に求める成績、期待はより高いものになるはずです。今季活躍し、成績を残す重要性については彼女自身も強く認識しているでしょう。
それでもなお、彼女には守りに入らず、この件に限らず挑戦する姿勢を崩さないでシニアを戦っていってほしいと思います。

私は問題のプログラムの全容も知りませんし、コーチやスタッフが描いている「村上佳菜子をこれからシニアでどう戦わせていくか」という戦略もわかりません。なので事情のわからない素人の机上の空論であることは重々承知していますが、私はタラソワのプログラムは今の佳菜子ちゃんにはきっと(彼女が諦めずにやりきれば、最終的には)素晴らしい何かを残す財産になると思うので、是非彼女には頑張ってやり抜いてもらいたいけど、どうなりますか・・・。

最終的には佳菜子ちゃん本人と山田コーチ、そして周りのスタッフの方々が決めることが正しいのだろうとは思いますし、それを尊重したいと思います。
今年どのようなプログラム、どのような演技、そしてどのようなジャンプを見せてくれるのかを楽しみにしています。
頑張ってください!

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by toramomo0926 | 2011-08-04 17:29 | フィギュアスケート


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