日経新聞インタビューでの発言に思う -小塚崇彦選手
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いつも内容の濃いインタビューやコラム記事をアップしてくださる日本経済新聞サイトの「フィギュアの世界」。今回は小塚崇彦選手のインタビューです。
今回彼は選手として、少なくとも日本のフィギュアスケート現役選手としてはかなり踏み込んだ発言をしています。
彼自身いろいろ感じたり考えたりすることがあるのでしょうが、こうやって選手が声を上げていくこともこれからの日本フィギュアの」ためには必要ではないかと私も思います。

フィギュアの世界 -日本経済新聞




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小塚崇彦「4回転を計3度…未知なる世界へ」
 1月に地元・名古屋で初開催された冬季国体で、小塚崇彦選手(トヨタ自動車)はショートプログラム(SP)、フリーで計3度の4回転ジャンプを初めて跳びました。「試合をする上での“持ち球”が増えた」と小塚選手。世界選手権(3月、フランス・ニース)への手応えをつかんだようです。

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■まだ体力不足
 (冬季国体で跳んだ4回転は)SPで転倒、フリーでは2つとも「回転が足りない」と判定されましたが、着氷はできました。

 大技が決まると、特に初めての場合はうれしいですね。ガッツポーズも自然と出ます。

 ですが、選手にとって成功したことが少ない大技が決まった後、疲れがどっと出ることがあります。後半になってやや足が動かなくなりました。

 今まで経験したことがない領域です。やっぱり少し気が抜けて、疲れが出るのでしょう。いくら練習でできていても、実際に試合でできるかどうかは別問題。その大技が体力をどの程度奪い、その後のプログラムにどう影響するのか? 未知の世界でしたが、今回、(4回転を)2回着氷して最後まで滑り切るにはまだ体力不足だな、と感じました。

 ジャンプにはトーループ、サルコー、ループ、フリップ、ルッツ、アクセルと6種類あります。いずれもタイミングが大切ですが、3回転ルッツまでは、少々タイミングが狂っても、“力技”で着氷まで持っていくことができます。


■最初は曲をかけては跳べず
 そのために練習で筋力を強化しているといえます。しかし、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)と4回転ジャンプは、タイミングと力が合って初めて跳べるものです。

 4回転を跳べるようになったばかりのころは、曲をかけた中では跳ぶことができませんでした。自分のタイミングではなく、音楽のテンポに合わせてしまっていたからでしょう。

 練習するうちに、だんだん曲をかけても跳べるようになり、徐々に自分のモノになっていきます。2010年のバンクーバー五輪(8位)、そして銀メダルだった昨季の世界選手権では、4回転を成功させても、まだ完全にモノになったという感覚はありませんでした。昨年末の全日本選手権(2位)で、ようやくそうした感覚がついてきたと思います。
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■考えるタイプ
 僕はものすごく考えるタイプです。失敗すると、理由を自然と考えます。「こうしたからダメだったのか」「あれもダメだったか」などと、自分でミスした原因をつきつめていきます。

 最終的には感覚的なものだと思うけれど、「手の位置はここ」「ターンの入りはこう」「踏みきりのタイミングはここで、このときに手をキュっと引く」というのが、見えてきます。こういったことができれば、緊張したときも、そのポイントだけ確認すればいい。4回転もそんなジャンプになってきたと思います。

 数をこなせば身につくものでもありません。4回転は跳びすぎると、ケガをします。僕も国体の後、ちょっと腰が回りにくかった。多分、4回転の衝撃です。

 力をギュッと入れて体を締めて跳ぶから、肩も凝るし、目も疲れます。試合後、トレーナーにストレッチをしてもらったら、よく見えるようになり、いうならば“視界が開けた”ような感じでした。それだけ負荷がかかるジャンプなんだって、改めて実感しました。


■“引き出し”が多いと安心
 とりあえず国体のおかげで、世界選手権に向けて気持ちに余裕が生まれました。4回転はフリーに1つ、2つ……、いろんなパターンがあるぞ、という。“引き出し”が多いと安心できます。

 今季はここまでが大変でした。(昨年11月に掲載した)前回でも触れましたが、スケート靴が合いませんでした。靴は外国製ですが、同じ型番を取り寄せても、品質が一定ではありません。かかとが割れたり、本来なら足首の辺りにシワが寄るように癖をつけたいのに、靴の先っぽについてしまって足を曲げにくかったり……。

 靴は何でもOKという人もいますが、僕はすごく気になります。「スケートが滑る」というのが僕の基本ですから、そこができないとなんとなく不安になります。「崇彦はよく滑っているときはジャンプも失敗しない」と、父(グルノーブル五輪代表・嗣彦さん)からもいわれます。


■靴の不安がなくなってやっと集中
 (靴なんて)気のせい? いえいえ違います。氷上に円を描けば一発で分かりますよ。自分はいつも通りやっているつもりでも、(靴が)滑らないと、カキの種のような形の小さな円しか描けない。

 ジャンプにしても、体はもっと右の方で待っていたいのに、足は左にいっている。それを力で無理やり修正して跳ぶ。そんな状態が昨年12月のNHK杯が終わるまで続いていました。靴の不安がなくなって、今やっとシーズンに集中できています。

 次の試合は世界選手権です。可能なら、12日まで開催されていた四大陸選手権(米国コロラドスプリングズ)に出たかったですね。日程的にも12月末の全日本、3月末の世界選手権の間となる2月の試合はちょうどいい。世界選手権への予行演習にもなります。


■得点、もう少し出てほしかった
 地元の国体も「これは世界選手権だ」と自分に言い聞かせて臨んだので、緊張感のある練習はできたと思います。ただ、得点が残念でした。SP、フリーの合計249.82点。4回転を1度跳んで、きっちりと成功した全日本は計250.97点。どちらも正直、もう少し出てほしかったです。
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 国内大会は一般的に得点が高く出ますが、日本はそれほどでもありません。そのことを強く感じたのは昨年の全日本、優勝した高橋大輔選手のSPでした。4回転―3回転の連続ジャンプを成功させたので、100点は超えると思ったら、96.05点でした。

 世界王者のパトリック・チャンは1月、計302.14点でカナダ選手権で優勝しました。「パーフェクト」といわれた、彼の昨年の世界選手権で優勝したときの得点は計280.98点でしたので、それを大きく上回っています。
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■高得点で自国選手をアピール
 ロシアでも大盤振る舞いだったことがあります。バンクーバー五輪シーズンだった10年12月、3シーズンぶりに復帰したエフゲニー・プルシェンコに、ロシア選手権のSPで100.09点を出しました。
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 「いくら何でも高得点すぎるでしょう。本当にそんなにすごいの?」

 そんなふうに首をかしげられてもいいんです。国内大会の得点は、国際スケート連盟の公式記録にはならないのだから。

 これはカナダ、ロシアのスケート連盟のアピールです。国内選手権は、各国の連盟が堂々と、自国の選手を世界にアピールできる場です。

■高得点の選手はジャッジの印象に残る
 スコアシートはインターネットを通じて世界中に流れます。「出すぎでは?」と思っても、国内大会で高得点が出ている選手は、ジャッジの印象に残ります。

 「厳しく採点された方が鍛えられる」という意見がありますが、選手やコーチは、自分の演技がどうだったかは自覚しているものです。

 こういう発言やこういう意見を好意的に思われない方もいるかもしれません。しかし、世界では、自分の意見をきちんと述べないと伝わらないこともあるんです。

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■どれだけチャンに迫れるか?
 それだけ(世界王者の)チャンが気になる? それもあるかもしれませんね。彼はいうならば“怪物”。カナダ連盟がグイグイ押す気持ちも分かります。

 (残念ながら出られませんでしたが)チャンも出る四大陸選手権で同じ土俵で戦えば、また違うアピールができたかもしれません。

 幸い、(世界選手権が開かれる)3月下旬まで、まだ1カ月半ほどの時間があります。今月初旬、フリープログラムの手直しも米国で終えました。4回転が跳びやすくなるはずです。どれだけチャンに迫れるか? 後は練習あるのみです。

2012年2月14日 日本経済新聞

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小塚選手、よく言ってくれました!という感じです。
私も、全日本での点数が低いというか、全日本は他国に比べてレベル認定や回転不足認定が非常に厳しく、点があまり高く出ないということに非常にフラストレーションを覚えていたからです。

以前は日本も、全日本では割と高めに点数を出していたと思います。小塚選手が述べているように国内選手権の点数は公式記録とはなりませんが、浅田真央選手が女子選手で史上初の200点超えを成し遂げたのは2006年の全日本選手権、彼女がまだ16歳の頃でした。日本も「全日本は比較的高めに点がつく」という感じだったのです。
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しかしバンクーバー五輪の足音が近づき始めた2008-2009シーズンあたりから、突如として全日本選手権での採点は厳しくなりました。むしろ国際試合の方が認定は緩いのではないかという状況になってきたのです。
他国では選手たちが国内選手権で続々とパーソナルベストを更新し、高得点をたたき出す中、日本のナショナルだけは高得点やジャンプの認定を出し惜しみするようになったのです。
私はこれには当時から絶対反対でしたし、これは却ってISU国際ジャッジの日本選手への印象に悪影響を及ぼすと非常に危惧していました。
当時(バンクーバー五輪代表選考を兼ねた2009年全日本選手権)アップしたコラムの記事を引用します。

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(浅田真央選手は)今大会練習の映像からも明らかにジャンプの調子が戻ってきたという手ごたえが素人目にも感じられました。
祈るような思いで見ていましたが、決めてくれて嬉しかった!
でも、トリプルアクセル(3A)はダウングレード(DG)・・・厳しいですね。国内試合なのに。

日本スケート連盟は昨季から全日本で選手に甘く点をつけることをやめ、DGを厳しくとるように方向転換したようです。理由は、ざっくりと言えば「国際試合はそんなに甘くないから(国際試合を見据えての対策)」ということのようです。
しかし、考えてみてください。
どこの国でも国内選手権は採点が甘く、点数が高くなる傾向にあります(国内選手権はISUが主催する大会ではないため、ISUの公式得点記録とは認定されません)。
どこの国でも点を高く(甘く)つける理由は、「この選手はこの技を完璧にできる」という他国やISU(=ジャッジ)へのアピールに他ならないと考えています。ISUも国内選手権では点が高くつきがちなことはわかっています。
それなのに、国内試合でもダウングレードばかりとっていたら、他の国々やISUのジャッジはどう思うでしょう?
「国内試合なのにDG → この選手、ホントにこの技できるの?」と思われ、認定を特に厳しくチェックしがちになることもあるのではないでしょうか。

日本のスケ連はどうもやることが的外れなことが多いような気がします。

五輪代表決定-フィギュアスケート全日本選手権  2009年12月27日より抜粋

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小塚選手も同じことを考えていたのかと思いました。
やはり得点、数字のインパクトというのはジャッジに(ジャッジも人間ですから)影響を与えるのです。
ナショナルの得点=高め&甘め、という共通認識が既に選手にもジャッジ(ISU)にも確立しているのですから、大盤振る舞いしたってそれを完全に真に受けるジャッジなどいるはずがありません。ですがインパクトのある数字を出したということになれば、「高めにつくとはいえ、それほど良い演技をしたのか、今この選手は調子がいいのだな」という良いイメージを植え付けることは充分可能です。
逆に日本スケート連盟のやってることはどうでしょう?
国際的な感覚とは全くズレた見当違いの方針のもとに認定は厳しめに、点数は低めに。選手に「甘くはないんだぞ」とプレッシャーをかける。
その結果、ISUの国際ジャッジは日本勢の得点を見てどう思うでしょう?
他国のナショナルに比べて全体的に振るわない点数を、認定されないレベルを、回転不足を取られたジャンプのスコアシートを見て、「ナショナルなのにこんなものなのか」という印象しか与えないことになります。
本当に何を考えているのでしょうか。先日報道番組で日本人がISUの理事に加わっていることを得意げにアピールしていましたけれど、理事として加わっていても、こんな素人のいちファンでもわかるような矛盾に気づかないようでは日本スケート連盟が国際的な土俵で、日本選手にとって有益な仕事をしていると言えるのかと甚だ疑問です。
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小塚選手は自分の得点もそうでしょうが、高橋選手はもっと高い点を出すべきだった、少なくとも100点を超える点をスケ連に出してほしかったと考えていたようですね。高橋選手は日本を代表する選手ですから、彼の高得点は日本の全体的なレベルの高さへの良いアピールと考えているのでしょう。その通りだと思います。彼のSPの演技はそれに値するものでしたしね。

そして一方で、選手たちももっと声を上げていいのではと考えているのかもしれません。今回彼が日本選手としては異例の発言をしたことは、正直動きの鈍いスケ連に業を煮やしたと考えることも可能だと思います。
ですがそこまででなくても、海外の選手たちはもっとフランクにジャッジや得点について話をしていますし(毒舌レベルにフランクになる人もたまにいるけど(笑)、冷静で客観的な視点を持ち、度を越した感情的な批判みたいにならなければ、もっと自由に話したっていいと思うんです。
彼は少し前にも、採点等について少し言及したことがあります。その発言はファンの間で物議をかもし、「選手がその領域について口にするべきではない」という批判があったのを私も目にしました。彼もインターネットをよくやるそうですから、そういう声を目にしたのかもしれません。今回「こういう発言やこういう意見を好意的に思われない方もいるかもしれません」と話していますね。
でも彼の言う通り、世界では日本のように「察してください」というのは通用しません。自分の考えをはっきり意思表示しなければ伝わらないし、相手は動いてくれない。沈黙は肯定を意味し、受け入れたと思われてしまう世界です。
筋の通ったものであれば、そして選手活動に利するものであれば日本スケート連盟に対してもはっきり口に出して要求したっていいし、それは出すぎたことでも何でもないと思います。選手の立場からでないと気付かないこともあるかもしれないし、連盟は選手が競技に良い形で集中できるようサポートする組織でもあるのですから。
彼を支持します。


国体で4回転の2度着氷も成し遂げ、靴もやっと良いものが見つかって、今彼はきっと充実した練習の日々を送っていることと思います。世界選手権では是非彼の今季一番の演技が出来るように願っているし、これからも彼の素晴らしいスケートを応援していきたいと思っています。

頑張って下さい!
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<参考リンク>
フィギュアの世界 -日本経済新聞


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by toramomo0926 | 2012-02-16 19:23 | フィギュアスケート


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