ソチ五輪派遣選手選考の最終かつ最重要試合となった2013年全日本選手権・男子シングルは、ただでさえ世界一激しいと言われていた中で更に過酷な争いとなり、選手やコーチは勿論だろうが、見る側も命を削るような辛さだった。 その凄まじさは、このような状況で良くメディアで使われる「ドラマチック」「激戦」などという文言すらも意味をなさない程軽く、場違いなものとなった。 選手は「絶対五輪に行きたい」という気持ちの中、極限の緊張感と闘っていたし、観客や視聴者は全員五輪に行ってほしい、誰にも落ちてほしくない、一体どうしたらいいのかという混乱を抱えたまま試合を見守るしかなく、特に最終グループからは会場も異様な雰囲気となっていた。 その中で、羽生結弦選手がSP・フリーをほぼ完璧にまとめた演技で一人飛び抜けた点数を出しての優勝、全日本2連覇を決めた。 2位には五輪への強い思い、出たいという気持ちを誰よりも出して自らを鼓舞し続けた町田樹選手がやはり4回転を含めた全ての演技をしっかりやりきって入り、3位には先天的な股関節の故障に見舞われ、この試合で表彰台に乗るしか活路が残されていなかった小塚崇彦選手が、「これこそが彼のスケート」という素晴らしい滑りを復活させて入り、表彰台を掴みとった。 織田信成選手はフリーは素晴らしかったもののSPのミスを取り返しきれず4位。高橋大輔選手は直前の右足の怪我で満足な練習が出来ないまま臨み、観客の心は一番掴んだけれどジャンプのミスが重なり5位となった。 無良崇人選手も高難度ジャンプでのミスが重なり6位。 五輪派遣選手は今晩発表となるが、現時点で派遣が内定しているのは羽生選手のみ。選考基準に照らすと、町田選手も恐らく選ばれるであろうと言われている。 残る1枠を、小塚選手の今大会の演技と成績で選ぶか、高橋選手の今季ここまでの成績とグランプリシリーズでの実績を取るのかになるが、判断が非常に難しい問題で、まだ誰にも予想すらついていない。きっと選考する日本スケート連盟もかなり頭を悩ませている状況と思われる。 第82回全日本フィギュアスケート選手権大会 順位と得点詳細。 「競技結果」でそれぞれの種目の総合順位と総合得点が、 「滑走順/得点詳細」ではショートプログラム(SP)とフリーそれぞれの得点詳細を見ることができます。 ***** 羽生、ソチ五輪切符!フリーも圧倒 全日本2連覇達成 ソチ五輪最終予選会を兼ねたフィギュアスケートの全日本選手権第2日は22日、さいたまスーパーアリーナで行われ、男子はショートプログラム(SP)首位の羽生結弦(19=ANA)がフリーでも195・70点の高得点をマークし、合計297・80点で2年連続優勝を飾り、代表入り決めた。 羽生は冒頭の4回転サルコーで転倒したものの、続く4回転トーループは何とか着氷。その後のジャンプはコンビネーションを含め、すべて成功させて、GPファイナルでの得点を上回る“自己ベスト”をマークした。 町田樹(23=関大)277・04点で2位に入り、小塚崇彦(24=トヨタ自動車)は264・81点で3位。高橋大輔(27=関大大学院)252・81点で5位に終わった。織田信成(26=関大大学院)が256・47点でSPから一つ順位上げて4位。 羽生、初の五輪決定にも冷静 勝因は「自分のペース確立」 全日本選手権2連覇で初の五輪出場を決めた羽生結弦(19=ANA)は「決まりましたと言われなければ本当に気付かないくらい、冷静に自分の演技について分析をしていました」と第一声。 五輪の大舞台についても「全日本チャンピオンとかGPで頑張ってきたとか関係なく、次の試合は次の試合として、オリンピックとしてじゃなく、本当に次の試合としてしっかりやりたいと思います」と強調。19歳とは思えぬ冷静さで先を見据え「まだフリーの方で完ペキな演技ができていないので、それをしっかり目指すのと、それをできるようにするまでの練習を、きついと思いますけど、頑張って練習していきます。早くサルコーを決めたいです」とストイックに語った。 勝因については「自分のペースを確立できてきたからこそ、今回のプレッシャーのかかる舞台でもちゃんとできたのかなと思います」と分析。メダルも期待されるが「順位とかは分からないですね。これだけ白熱した全日本選手権で1位を獲れたのは自信になりますし、次に向けて一生懸命やらなきゃと思いました」と話した。 2013年12月22日 スポニチアネックス 2位の町田、ソチに前進「五輪に行きたい」=全日本フィギュア (前略) 以下は演技後の町田のコメント。 ■「すべてから解放されて、いまはすごく楽」 「(この結果に対して)五輪に行きたいです。(最終選考を戦ってみてどうだったか?)本当につらく険しくて、ここで逃げ腰になったり、弱気になったら、僕が死ぬまで後悔が残るんだろうなと。絶対に自分に負けないということだけは金科玉条にして持っていました。(手ごたえは?)2位ならいけると思っています。 (体調は万全じゃなかったと思うが?)実は体調もすごく崩れていて、靴のハプニングもあって、いまだから言いますけど、今季で最悪のコンディションでした。でも絶対に後悔はしたくなかった。ここで後悔したら、僕の人生にずっとつきまとうと思ったので、絶対に負けてたまるか、自分にだけは勝つということだけで乗り切りました。本当にすべてから解放されて、ありえないくらいの荷物を背負っていたんだなと思います。いまはすごく楽です。 (滑り終わってすぐ考えたことは?)僕のスケート人生で最大の全日本が終わったという解放感ですね。間違いなく競技人生で最大の全日本でした。 (昨夜は)ショートの反省をしつつ、今日この舞台で羽ばたけるように、自分の背中に大きな翼が生えているかのようなイメージをしっかり強く持ってベッドに入りました。 (2位になったが?)僕の仕事はもう終わったなと。あとは発表を待つだけですね。 (五輪行けたらどんな試合したい?)今日は最後まで滑り切ることができなかった。すべてを出したので悔いはないんですけど、しっかりと演じきることができなかったので、ソチという舞台でしっかり1番良い演技をしたいです。この『火の鳥』はソチのために、クリエートしたものなので、最高の『火の鳥』をやりたいです。 (今季はどういうシーズンだった?)昨年の最大の大敗(全日本)から、20年間歩んできたんですけど、それを1年間でもう1度歩み直すという感じでした。本当に基礎の基礎から立ち返って、また積み重ねていく作業だったので、20年目にして、その20年間を凝縮したシーズンだったと思います。 (終えてみてどんな景色?)今日は暗闇とかソチは自分の中から消えていて、この会場は屋根が動くので、縦に割れ目が入っているんですけど、そこがぐわーっと開いて、満天の星が輝いていて、そのなかに飛び立つというイメージをレッドカーペットのところで作ってから行ったので、気持ち良かったです。(飛び立てたか?)いや、最後は飛びきれなかったので(笑)。でもソチの会場はブルーを基調としていて、きっと青い空に火の鳥が飛翔していくさまをソチでは表現できると思います。着々と準備をしていきたいです。 (自分自身をコントロールできた?)いえ、ただただ根性だったと思います。それだけ厳しいコンディションでした。(メンタルが強くなった要因は?)メンタルとか僕が成長したとか思っていなくて、ここで後悔したら、それがしこりとなって一生僕につきまとうと思ったので。絶対後悔しない、後悔しないイコール自分には負けないということなので、それだけを自分に言い聞かせてやったつもりです」 2013年12月22日 スポーツナビ 小塚、何とか3位をキープ/フィギュア 2大会連続の五輪代表を狙う小塚崇彦(24=トヨタ自動車)は冒頭の4回転ジャンプの着氷が乱れ、後半の3回転ルッツで転倒した。それでもSPからの3位をキープし「転倒は残念だが、何とか踏ん張れた。ジャンプのミスはあったが、自分の演技ができた」と充実した表情を見せた。 昨季から右足甲の痛みを引きずり、引退が頭をよぎったこともあった。苦難を乗り越えて激戦の全日本を戦い抜き「これだけの仲間と滑れた経験は大きい。表彰台に残れたことは人生で大きなポイントになる」とうなずいた。 2013年12月22日 日刊スポーツ 五輪代表どうなる?羽生決定、町田も当確 高橋と小塚の争いは混とん ソチ五輪最終予選会を兼ねたフィギュアスケートの全日本選手権第2日は22日、さいたまスーパーアリーナで男子フリーなどが行われ、2連覇を飾った羽生結弦(19=ANA)の代表入りが確定した。 ソチ五輪の代表枠は男女ともに3。選考基準は (1)全日本選手権の優勝者は代表に決定。 (2)2人目はGPファイナル日本人最上位メダリストと全日本の2、3位選手の中から選考。 (3)2人目の選考から漏れた選手と、世界ランク日本人上位3人、国際大会のベストスコア日本人上位3人の中から3人目の代表を選考する …となっており、(1)に該当する羽生がまず決定。 GPファイナル日本人最上位メダリストのため、2人目は全日本2、3位の町田樹(23=関大)、小塚崇彦(24=トヨタ自動車)のどちらだが、今季のスケートアメリカ優勝、ロシア杯優勝、GPファイナル4位と国際大会で実績を残し、今大会でも成績上位の町田が選出されることが確実。3人目を小塚と全日本5位の高橋大輔(27=関大大学院)で争うことになる。 高橋はNHK杯でマークした268.31点が羽生に次ぐ今季日本人2位、世界ランクも羽生に次いで日本人2番手につけているが、全日本で5位という結果がどう評価されるか。選考は最後まで分からなくなってきた。五輪代表は23日の全競技終了後に発表される。 2013年12月22日 スポニチアネックス 悲痛の高橋5位に終わる「五輪以外では終わりと思っている」 フィギュアスケートのソチ五輪代表最終選考会となる全日本選手権が22日、さいたまスーパーアリーナで行われ、男子フリースケーティングで高橋大輔(関西大)はフリー170.24点、SPとの合計252.81点で5位に終わった。 高橋は冒頭の4回転トゥループは転倒、続けて挑んだ4回転も回転が足りず両足着氷となり、前日のショートプログラムに続いてジャンプでミスが続いた。演技後、「自分の演技ができなかったので、それが一番悔しい」と漏らした。「ミスを重ねていくごとにこれで終わったのかなという気持ちが強くなった」と話し、「五輪しか考えていなかったので、それ以外では自分では終わりと思っています」と五輪出場を逃した場合、そのまま現役を退く意向を明らかにした。 右足すねの負傷をおして出場し、体調が万全ではない中での演技となった。また、手から流血するアクシデントにも見舞われた。演技後は「気持ちで逃げていた自分が今季はいたと思うので、そういう自分に対して腹立たしく、情けなかった」と悲痛な思いを吐露した。 今大会優勝した羽生結弦(ANA)はソチ五輪代表に決定。日本の五輪枠はあと2つ。代表発表は、あす23日の全演技終了後に行われる。 以下は高橋のコメント。 ■「『五輪はもうないんだろうな』と終わった瞬間に思ってしまった」 「自分の演技ができなかったので、それが一番悔しいです。ミスを重ねていくごとにこれで終わったのかなという気持ちが強くなりました。自分自身に対して情けない気持ちと、最後まで応援してくれた皆さんに、そのパワーを返せなかったことが悔しいです。緊張感はありましたけど、今日は前向きに気持ちを強く持っていけたと思います。ただそれが結果につながらなかったのが悔しい。 (ひざの影響は?)それは分からないです。もちろんなかったとは言えないと思いますし、そこで逃げている自分もいたかもしれないし、これが自分の実力だと思うので、それは受け止めたいと思います。ジャンプのミスが続いた中で、ああやって拍手をくれたので、すごく心からうれしかったです。たぶん僕のスケート人生で一番苦しかった全日本だと思います。その厳しい壁を乗り越えられなかった自分自身に対して、もっとできる自分がいるんじゃないかという気持ちもあるんですけど、それができなかったのが悔しいです。まだ(ソチ五輪代表が)発表されていないので、分からないですけど、これからの自分の人生にすごく貴重な経験になったと思います。 (演技が始まる前はどういう気持ちだったのか?)思い出せないです。でも、マイナスのことを考えずに思い切りやりました。 (4回転を1つにする選択肢もあったのでは?)2本目はすごく迷って、回ったあとコーチからは『1本にしておけば良かったんじゃないか』と言われましたが、そこまで考える余裕もなく、自分自身に負けてしまいそうだったので、思い切りよくやろうと思っていました。今回はあまり冷静ではなかったかなと。ジャンプはダメでしたけど、それ以外はしっかりやろうと、プログラムとしてのパワーは出せたと思っています。これが最後になるかもしれないですし、最後になってもいいという気持ちで感謝を込めて、演じました。 (滑り終わって一番感じたことは)自分に対する情けなさというか、悔しいというより、自分に対していろんな面で、気持ちで逃げていた自分が今季はいたと思うので、そういう自分に対して腹立たしく、情けなかったと思います。(最後のステップは)体力ある限り滑り切ろうと。ジャンプで失敗してしまったので、滑りだけは最後までパワフルにいきたいと思っていました。 (コーチからの言葉は?)ちょっと忘れてしまったんですけど、『4回転を1回にしたら良かったのに』とは言われました。(選択に悔いは?)4回転1本にすれば良かったという気持ちはいま思えばありますけど、やってしまいましたし、いままであまりやらずにということはしてこなかったので、自分らしいと思います。 (目が赤いが?)まだ発表されていないですけど、自分の中で『五輪はもうないんだろうな』と終わった瞬間に思ってしまったので、それでですかね。 (手から血が出ているが?)1回目の4回転で転倒したときだと思います。鼻水かと思ったんですけど(苦笑)。触ってみたら赤かったので、たぶんそこだと思います。 (最後というのはどういう意味合い?)五輪、世界選手権、四大陸とありますけど、自分の中で四大陸とかは考えていなくて、五輪しか考えていなかったので、それ以外では自分では終わりと思っています。 (有力選手がそろっていた全日本だったが?)かなり厳しかったですね。自分の調子も上がってこないなかだったので、厳しかったです。男子フィギュア界もここまで層が厚くなったので、それはうれしかったし、その中で一緒に戦えたのは良かったと思います」 2013年12月22日 スポーツナビ 長光コーチ、高橋を称える「よく走り続けてくれた」=全日本フィギュア (前略) 以下は長光歌子コーチのコメント。 「(目に涙をいっぱいためて、時折詰まりながら搾り出すように話した)……最大限の努力をしてここまで、もちろん彼もそうですし、周りもいっぱい助けてくれてここまでこれて、良かったなと思います。 (ベストなコンディションではないというのがあったが?)本当に正直あと1週間欲しかったなと思いますが、でもそれが……これが全日本なんでしょうけれど。その中で本当にここまでこれると思わなかったので、まあ、無事4分間滑り終えて、本当にお疲れ様と言ってあげたいです。 (ここまでいろんなことがあったと思うが、高橋選手になんて声を掛ける?)最後、五輪を決める全日本で、万全でなかったことが、一番本人もそうですし、周りの人たちもそうですが、残念なんですが……。でもまあ、本当に4年間、バンクーバーシーズンで終わるつもりがここまで、4年間よく走り続けてくれたなと思います」 2013年12月23日 スポーツナビ 織田「失敗してごめん」夫人「楽しく頑張って」激励も SP5位の織田は表彰台に届かず、ソチ五輪への道は断たれた。 「失うものはないので思い切りやった。悔いはない」とフリーでは3位となる178・75点。前夜に大阪にいる夫人に「失敗してごめん」と電話で報告すると「あしたは楽しく頑張って」と激励されたという。「100%ではなかったけど、大きなミスなく終われてよかった。重圧でつぶれちゃいそうになることもあった」と激しい戦いを終えて思わず声を震わせた。 2013年12月23日 スポニチアネックス ***** 羽生選手の演技は凄かった。19歳で五輪に行く、つまりソチ五輪出場がずっと彼の目標だったとのことですが、この日本男子のレベルの高さの考えると、どんなに点数を出そうが、ファイナルで優勝しようが、五輪は大丈夫だという気持ちはやはり持つことは出来なかったでしょう。 SPもフリーも、全員の中では一番飄々と滑りきったようにも見えますが、やはりいつもの彼の演技よりも随分硬かったと思います。特にフリーでは、通常なら疲れの中でもふらつかないようなジャンプが、着氷が危うくなる場面が何度かありました。 でもそこで踏ん張って気持ちで勝った演技が出来たことで、見事文句なしに今大会の日本のエースとしての五輪出場権を掴みとりました。まず一つの大きな人生の目標を達成した訳です。本当におめでとうございます! 彼は間違いなくソチ五輪の金メダル候補の筆頭として名前が挙がることになると思いますし、実際獲ってしまうかもしれないな、と思わせる度胸、気持ちの強さがありますね。点数も出てますし、これはすごい事になりそうな気がします。 町田選手も、全日本で凄い演技が出来たのは本当に良かった。彼には五輪に行ってほしいとずっと思っていたので、彼自身の力でその権利をほぼ手中にしたというか、彼が出来ることは全てやりきった全日本になったということは本当に良かったと思います。心からおめでとうと言いたい。 ある選手の演技を見ると、「ああ、この選手に絶対に五輪に行ってほしい」と思う。でもそう思ったからといって他の選手の誰が行ってほしくない訳でもない。本当に見る側も辛い試合でした。 町田選手には、心に決めたことを強く持ち続ければ道は拓ける、未来は変わるということを改めて教えてもらった気がしました。TVで見ていた子供達や若い人たちも、きっと彼の姿、戦いぶりから何か感じるものがあったのではないかと思います。 小塚崇彦選手は、怪我というか故障の回復がどのくらいになっているのかが全く分からない状況だったので心配しましたが、予想以上に素晴らしい演技を見せてくれました。 表では「完全復活」に見えても、バックスペースや会場を出た後は体のケア等大変だったのかもしれませんが、試合のリンクの上では、完全に前の小塚選手が戻ってきていました。力をかけなくてもスイスイと滑るスケート、複雑なステップを踏んでも全く落ちないスピード、軽くてノーブルな身のこなし。やっぱり私は彼の滑りが好きです。 バンクーバー五輪では高橋選手と織田選手というお兄さん二人に見守られた弟分、という感じでしたが、いつのまにかすっかり大人になっていました。スケート一家に生まれ、その中で自分の意思でスケートをやってきて、ここが彼の居場所なのに、先天的な股関節の問題が発覚するというのは何てことだ、しかもこの大事なシーズンに…と落ち込みましたが、彼はしっかりと自分を立て直してきた。彼も今できるベストを尽くしたと思います。結果はまだ分かりませんが、今大会の演技には自信と誇りを持ってほしいと思います。 織田信成選手、練習では決まっていた4回転でミスが出たのは本当に残念でした。決まれば誰よりも美しく余裕のあるジャンプを跳べるのに…でもフリーは最後に良い笑顔も出て、本当に素晴らしかった。奥様やお子さんたちにも、素晴らしいパパの演技を見せられたと思います。 特に演技終了後、キス&クライを去る時に、次に演技する高橋選手に対して、自身も当落が危ない状況にも拘わらず「大ちゃんがんばーーー!!!」と声をかけた彼の姿に、もう何と言っていいかわからない気持ちになりました。 彼らのこういう姿、こういう関係性が、今の日本チーム全体を押し上げている。トップ選手同士がギスギスした関係にある国も当然のようにある中で、日本はこれだけトップ選手がひしめいていても、お互いに敬意と友情が確かにある。その美しさが、あのエールに凝縮されていたように感じました。 彼が笑顔で最後のステップを踏んでいる時、突然「ああ、ひとつの時代が終わっていく」と強く感じて泣きそうになりました。今迄見てきたフィギュアスケートの、私が生きている間に見られる中で一番の黄金時代になるだろう時が終わりつつある、ということを、彼の笑顔での渾身の滑りの中に感じました。 高橋大輔選手。 SPでもフリーでも、こんな表情の彼を見た事はありませんでした。演技前は「ひょっとして熱があるんじゃないか」と思う程に、目つきが彷徨ってるように見えましたし、演技後はSPは呆然と必死に涙をこらえていた。あのキス&クライの表情を忘れることができません。 フリーでも、冒頭の4回転で転倒し、手から出血していることに気付いた時にはハッとしました。 そして中盤の3ループが抜けた瞬間、彼は笑顔になっていました。そこから彼は戦う事を止めて、ただ観客やファンへの感謝の為に滑っているように見えた。雑念や緊張すらも消えて、真の意味で無心になっているように見えて、それがただただきれいで、悲しかった。 まだ選考結果はわからないけれど。 こんな事があっていいのか、神様はいないのかと思った。 高橋大輔というスケーターの最後の全日本がこんなことになっていいはずがない、という気持ちがどうしても頭をぐるぐる回ってしまう。 あれだけファンを魅了し、世界中のスケーターたちの尊敬を集め、目標とされている選手。日本男子1枠の時代から今の最強といわれる日本男子を牽引してきた。時には女子を含めたチームジャパンのリーダーとして後輩をなぐさめ、鼓舞し、労り、笑わせてきた。今の日本はあれだけ強豪ぞろいながらも内部でギスギスしたムードにならないのは、今一緒に戦っている後輩たちが高橋選手の姿を見てきたからというのは決して誇張ではないと思う。 冷静になって今一度選考基準を見てみると、高橋選手にはまだ十分選出される可能性は残っている。是非彼の最後の舞台はソチであってほしい、と願わずにはいられない。 高橋選手と小塚選手を、どちらかをシングル、どちらかを団体戦の出場選手として二人ともソチに連れて行くことはできないのだろうか。 現実的に見て、短期間で2試合をこなすには、高橋・小塚両名ともに身体的負担が大きすぎる。実力的には二人とも文句のつけようがない訳だし、その方が日本としても成績を残せるのではないか。 感情論でなく、二人とも体調が万全でないことを考えれば戦略的にも妥当な案だと思うのだが。 もし感情論で考えたとしても、これだけ日本のフィギュアスケートの人気と発展に貢献してきた二人に、それくらいの労いはあってもいいのではないだろうか。 どちらかが「これじゃ基準からは大きく外れる」という訳ではなく、どちらが選ばれてもおかしくない状況なのだから。 とはいえ、きっと「派遣人数(枠)」を超えた人数は選べないんだろうけれど、そんなことを考えてしまうくらい凄まじい戦いぶりだった。 無良崇人選手は今季プログラム変更等があったこともあり、最後の最後で自分の力を出し切れなかったように思う。本当に残念。 彼は来季以降の身の振り方について何も話していないが、男子だし年齢的にはまだ平昌五輪を目指せる年齢だと思う。この日本黄金時代を戦い抜いた一人として、是非今後も現役を続けてほしい。この戦いを経験したのだから今後更に、ぐっと強くなるはず。そして彼のような骨太の男性的な滑りを見せてくれる選手が少なくなっていく中、是非更なる存在感を見せてほしいと思う。 まだ動揺が収まらず、とりとめのない文章しか書けなかったけれど、今の気持ちを書いておく意味は多少なりともあるかとも思い、記録しました。 今シーズン初めは、こんな全日本になるとは思いもしなかった。 男子3枠争いは「激戦」になるだろうとは思っていたけど、それはもっとワクワクする予感でしかなかった。 こんなに動揺と悲しさと混乱をもたらすことになるとは。羽生選手の2連覇も、熱望していた町田選手の全日本神演技も、正直今の自分の中では頭にあまり入ってこない、そのくらい動揺している。 羽生選手の凄い演技を見た時に、全員の選手がベストに近い状態、それが無理ならだれも大きな怪我や故障がない「普通」の状態で、ガチンコでの戦いを見たかった、と思った。その状況での五輪枠争いを見たかった。それならきっと、結果がどうであっても私は熱狂していたと思う。 選手達の戦いには、最大の拍手を送りたい。ただ、これほど心残りな全日本選手権は、後にも先にももうないだろう。
by toramomo0926
| 2013-12-23 08:11
| フィギュアスケート
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