今シーズンの浅田真央の成長には目を見張るものがある。毎回進化した姿を見せてくれるのが私にとっての彼女の魅力の一つだったが、今期は想像を超えて脱皮したという感じである。
いい意味で子供らしさが抜け、「女性アスリート」として誰の目にも映るようになった。また背も伸び、長い手足と小さい頭、そしてしなやかな筋肉がついた体がオフシーズンの鍛錬を物語っていた。 昨シーズン終了後、浅田選手はオフシーズンに表現力やステップの強化に力を入れて練習した。 しかし彼女達のように生活の全てを競技に注いでも、1日は24時間と限られている。 氷の上だけでなくジム等での筋肉トレーニングも非常に重要になる。ジャンプの着地の安定や、美しい姿勢を保つ為だ。食事も、睡眠もとらなくてはならない。 そのためジャンプの練習にしわ寄せが来て、今期は調整が遅れ気味だということだ。 しかしフランス杯のフリーでも、3A(トリプルアクセル)は転倒したものの、空中での姿勢は「成功するかも」と思わせるものがあった。グランプリファイナルまでにはもっと調整してくるだろう。 彼女は今までは「ジャンプの浅田」といわれていたし、本人も「自分の持ち味」と言っていた。 2005年に15歳でシニアデビューし、試合を楽しんで軽々とぴょんぴょん跳んでいた、その頃から比べると確かに試合での成功率は落ちている。 しかし、当時は体つきを含めて表現力、演技全体的にもまだ「おこちゃま」「ジュニア」という色が感じられたのも事実である。それを理由に浅田選手の演技を評価しない声もあった。 今は、特に今季は完全に女性としての「しっとりとした優雅さ」を出せるようになった。これは間違いなく成長である。昨期までかなり言われていた「技術はあるが、表現力は・・・」という声は全く聞こえなくなった。 そしてジャンプの精度もそれほどは落ちていない。 女性の選手は誰でも体の成長とともにある程度ジャンプの精度は(少なくとも一時的には)落ちるものだが、彼女はその中でもかなり成功している部類だと思う。現役女子で2人しか跳べない3Aを、まだ完璧に跳ぶことが出来るのだから。それに演技自体の難度がかなり上がっているせいもあるのではないかと思う。 何より一番変わったのは精神的面だろう。成長とともに、ただ「楽しい」と言って滑ることができなくなった。 ニコニコしながら滑る姿は見ていても微笑ましかったので演技中笑顔が消えたのは残念ではあるが、しかし私はそれは悪いことばかりではないと思う。 確かに失敗は増えただろうが、その度に成長することができていると思うのだ。 今年3月の世界選手権、フリーを終えた瞬間のあの爆発的な歓声はその証だと思う。昨シーズンは「不本意な成績」と本人は述べているが、今までの「何でも軽々とこなす真央ちゃん」では、あそこまで観衆の心を揺さぶれなかったのではないか。 本当の勝利は、精神面を含めて自分に勝ったときに初めて得られるのではないだろうか。それこそが自他共に本当に実感できる勝利の味、ありかたなような気がする。 浅田選手には今は自分がもどかしく辛いこともあるだろうが、最終的に是非本当の勝利というのをつかんでほしいと思う。 今回のフランス杯、彼女はショートでの失敗の反省として、翌日のフリーで「最初のジャンプが成功しても失敗しても、その後からが演技開始と思って滑る」ことを決めて臨んだそうだ。 その結果最初の3Aで転倒したもののその後引きずることなく、落ち着いてショートで失敗したコンビネーションも決め、美しい滑りと、約40秒に56の要素という信じられないほどの高難度のステップを決めて、2位に20点近くの差をつけて優勝した。 これだけすごいのにまだ17歳、シニアデビューして2年目なのだ。2年目であそこまで当然のように毎回優勝を期待される選手はそうはいない。17~8歳というのは身体的、精神的にも今が一番大変な時期だと思うが、頑張ってほしいと思う。 彼女の昔の演技はミスも少なく確かに見ていて楽しいけど、最後には最新の演技が見たくなってくる。例えミスが増えても、私にとっては常に今が一番いいと思わせる数少ない選手である。 一つ気になっているのは、自分で自分を追い詰めてしまっているのではないかと思われるフシがあるところ。 いつもできることが試合でできない、そして出来ないと泣くほど悔しがるというのはいいことなのだが、一方で「勝ちたい、勝たなければ」という気持ちが、逆に試合で心身をこわばらせているのではないかと思えるところである。 試合に出て勝ちたいと思わない選手はいないだろうが、トリノでの荒川静香さんのように 練習をみっちりやって、あとはその場を楽しもうとすることで勝利をつかむ体勢を作れるようになったら、彼女は無敵になると思う。「どうしても勝たなければ」という気持ちから自由になったときが彼女は最強な気がしている。 そしてその時「楽しんで滑る」を実行したとしても、いろいろと経験を積んだ彼女は明らかに2005年の彼女よりも美しく、強いはずである。 しかし荒川静香さんだってそれができたのは現役の最後、24歳の時だった。 彼女はまだ17歳。 常に結果を出してしまうから周囲はどんどん期待というプレッシャーをかけてしまうけど、焦らずにひとつずつ試合を重ね、経験と精神的コントロールのノウハウを得て、彼女が小学生の頃から目標にしているバンクーバーで最高の結果が出ることを祈る。 <動画> *動画進行が重い場合は画面をクリックしてください。 youtubeサイトの同じ動画画面にジャンプしますので、動画部分右下の 「高画質で表示する」をクリックするとスムーズに見られます。 浅田真央 2007スケートカナダ エキシビジョン その美しさに加えて地上波で放映されなかったせいもあって、早くも伝説的演技になりつつあるスケカナのEX。 異例の2度のアンコールが巻き起こるほどの素晴らしい演技でした。 コメンタリーなし、会場音声なし。現地の盛り上がりを感じてください。 浅田真央 2005フランス杯 フリープログラム 2005年シニアで始めて優勝したのも、同じくフランス杯でした。 この時の浅田選手はノープレッシャー、無敵状態でしたね。ですが今の方が演技自体の質は上がっていると思います。 浅田真央 2006世界選手権 フリープログラム フィニッシュのあの爆発的な歓声は忘れられません。ESPNの普段あまり褒めない解説者も彼女を高く評価しています。彼らの解説はいつも的確でプロフェッショナルかつ素人にも分かり易いですね。こういう解説をしてくれる日本人がいるといいのに。
by toramomo0926
| 2007-11-20 11:30
| フィギュアスケート
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