10月23日~26日の日程で、フィギュアスケートの本格的なシーズン突入を告げるISUグランプリシリーズ・スケートアメリカが開催された。
相変わらずTV放映はかなり偏ったものだったし、殆ど男女シングルしか見られなかったのだけれど、私なりに振り返ってみたいと思う。 ISU Grand Prix Skate America 2008 公式サイト。出場選手や順位、得点、各選手ごとの細かい採点の詳細も全てわかります。 まず第一に、小塚崇彦選手、初のシニアタイトル本当におめでとう!! 彼はジュニアの頃からあのおサルさんのような風貌が目を引いていたのだけれど演技を見る機会があまりなく、初めてちゃんと試合を見たのは今年3月の世界選手権。彼は初出場ながら見事にがんばり、8位になりました。 そのときの彼のスケーティングの美しさは強く印象に残っていたので、今回楽しみにしていました。 が、まさか優勝するとは!! 小塚崇彦 2008 Skate America SP “Take 5” *振付は佐藤有香さん。彼の持ち味である滑らかな滑り、足さばきのよさを生かしたプログラムになっています。ステップもスピードを出すための足漕ぎが殆どないのに最後までスピードが落ちませんでした。そういう滑りのよさも評価されたのではないでしょうか。 スピンも柔軟性とスピードがありました。解説のカート・ブロウニングも彼のスケーティングを絶賛しています。 上位3名が全員4回転を失敗しているとはいえ、アメリカの両雄、エバン・ライサチェクとジョニー・ウィアを押しのけての優勝。これは初めてシニアでの表彰台争いに加わった彼にはいいアピールになりましたね。 エバンもジョニーもフリーを4回転転倒以外はうまくまとめており、小塚は細かいミスが目に付いたたため、優勝が決まったときは会場ドン引きだったのがちょっと気の毒。 エバンもジョニーもアメリカ人で地元だし、この2人の争いになることは予想できても、まさかこんなシニア3年目の10代の男の子に持っていかれるとは観客も、エバンやジョニーも思っていなかったのではないかと思います。失礼ながら私も「メダル取れれば上出来」と思っていましたし。 エバンとジョニーは4回転転倒でコンビネーションジャンプを一つ跳び損ねており、小塚は転倒はあったがそういう取りこぼしがなかったというのも大きかったようです。かなりの接戦でした。 「優勝小塚」がコールされた瞬間会場は数秒静まり返りました。小塚はバックスペースにいたので、ブーイングとかされないでよかったね・・・ でも彼の滑りは本当に美しかった。まだ派手さはないけど、基本に忠実な美しく丁寧な滑り。これからが楽しみな選手です。 色白でかなりの美肌は一瞬見とれてしまうくらいなんだけど、私はエバンのような男っぽいタイプのほうがどちらかといえば好みかな・・・エバンは背も高いので、黒などを着て滑ると氷の白にすごく映えます。 話がそれるけど、エバンの彼女はフィギュア界一番の美女、タニス・ベルビン。 彼女はアイスダンスの選手で、ベンジャミン・アゴスト選手とペアを組んでいます。オフシーズンはモデルもしているという彼女は、何を着てもそりゃあ似合いますとも。 彼女も今大会に出場、銀メダルを獲得!おめでとうございます。 Tanith Belbin & Benjamin Agosto-Torino Olimpic 2006 私が初めてタニスを見たのはトリノ五輪のとき。女性ながらあまりの美しさに息を呑みましたね~。このときは生き生きとしたスピードのある演技で銀メダルを獲得しました。 女子シングルはものすごいメンバーが終結していて誰が勝ってもおかしくない展開になるかと思っていたのですが、結果はキム・ヨナ選手が2位以下に大差をつけて優勝。 彼女は自分をどう見せるかということについて天才だと思いますね。長い手足を生かした動きも美しい。 ただ技術的には昨季からあまり進歩がなかった気がします。動きは洗練された気がしますけれども、ロクサーヌやあげひばりのプログラムで衝撃デビューを飾った2006年からあまりプログラム構成自体も変わってないんですよね。曲と衣装だけが違うと言うか・・・まだ若いんだし、もうちょっと冒険して欲しいなあとも思いますね。 本人は「今年は特に新しいことをするつもりはない」」と言っていたのですけど(こんなことを言うからまた『加点を約束されてるからだろ』等ツッコまれてしまう訳なんですが)他の選手はそれぞれ成長を目指して頑張ってますからね・・・でも昨季かなりのダメージのあった腰を直すことのほうが先だったのかもしれません。 昨季も開幕当初は絶好調でしたけど、後半は腰痛に悩まされていました。シーズン通しての体調管理が彼女にとって一番の課題なのかもしれないですね。 中野友加里選手、SP3位から逆転して銀メダルを獲得しました! 今シーズンは調整が遅れているという事で、彼女の得意技トリプルアクセルは残念ながら回避。課題だった3-3のコンビネーションも出ませんでした。但しオフに取り組んだバレエレッスンが動きを美しくしていましたし、表情も輝いていましたね。ジャンプ以外の要素が向上しての2位だったと思います。むしろ3Aというキメ技無しでこの位置につけられたということは、彼女にとってかなり自信になるのではないでしょうか。 彼女からは「調子が悪くてもどのような状態でも、自分のベストは必ず尽くす」という気合が感じられてすごく応援したくなります。 ここ数年、試合でも3位とか日本の3番手という位置にいることが多かった彼女ですが、そこから一歩抜け出しての2位は立派。世界的にもファンに名前が知られてきましたし、今年の世界選手権でのスタンディングオベーションもジャッジにアピール大だったと思います。次の試合が楽しみですね。 中野友加里 2008スケートアメリカLP 「ジゼル」 安藤美姫選手は今回3位。 昨季はエッジエラーの修正でジャンプのバランスが崩れ気味でしたが、今季は着地もかなり安定させてきましたね。回転不足をとられたのは残念でしたが良い兆しだと思います。 ただ、他のスケーティング、スピン、スパイラル等の部分の低下ぶりはちょっとびっくりでした。 つなぎも殆どないですし、スピードもなかった。すごく痩せたのに、そういう意味で体が重そうでした。体を動かすのが億劫そうに見えるというか・・・ 表現力も手首から上をヒラヒラさせた振りなどはありましたが、演技自体からはキム選手や中野選手などが放っていたようなその選手独特の魅力、輝きは見られなかったように思います。 今回安藤選手のSPは「SAYURI」のサントラからのスローナンバー「Chairman's Waltz」でしたが、彼女はやはり激しい曲のほうが合っている気がしますね。 安藤選手の今季のフリーは「ジゼル」、偶然にも中野選手と同じでした。去年「幻想即興曲」を中野選手がSP、浅田選手がフリーで使用するということはありましたが、同じ日に、しかも同じ国のトップ選手2人の曲がかぶるというのは異例で、記者会見でも海外の記者から質問があったようです。 ということでこのジゼル、中野選手と安藤選手の衣装対決(?)でもあったわけなんですが、安藤選手は「ジゼル」にしてはちょっとゴージャスすぎたかな・・・? うーん、以前の「カルメン」とか「サムソンとデリラ」「シェヘラザード」などが合いすぎていただけに、今季の安藤選手のプログラムはちょっと違和感がありますね。 イメージチェンジを図ったんだとは思いますが、彼女の演技スタイルからいっても、バレエでしかも「ジゼル」というのは厳しかったんじゃないかなー。そういうチグハグ感もあって、今回安藤選手の魅力は全く発揮できていなかったように思います。残念。 安藤美姫 2008スケートアメリカSP 「映画『SAYURI』より Chairman's Waltz」 フリーの動画が消されてしまっていたので、SPを貼ります。無難にまとめていたのですが、ステップという意外なところで転倒。もったいなかったですね。でもスローな曲というのを考えてもスピードがなかった。エッジに全く乗れていない感じで漕いでもスピードが出ない感じでしたね。元気もなかった。だるそうというか・・・ 衣装も生地の質感が重たそうで、デザインも「SAYURI」というよりは襟ぐりのあたりのデザインや刺繍がチャイナドレスのようで、欧米の人にありがちな、アジア文化に対して混乱した認識を持った人が作ったような衣装という気がしました。また、青とピンクのコントラストが激しすぎてちぐはぐな感じ。例年通りならモロゾフコーチとつながりのあるロシアの衣装屋さん(?)で作ったと思いますが、ワタシ的にはイマイチ。色白の人ならいいかもしれませんが、彼女の肌の色には合っていない感じがします。 安藤選手はシーズン前に「4回転を全試合で跳ぶ」と宣言しながら今回また回避しましたね。 4回転回避について「勝つためにコーチに進言された」と言っていますが今の彼女の力では、というかそれ以前にSPであれだけキム選手と点差がついていては優勝は無理でした。今回こそむしろコーチが何を言っても、何も恐れずにチャレンジできる絶好の機会だったのではないでしょうか。 次の中国大会では優勝しないとグランプリファイナルに出るのはかなり難しくなるので、4回転挑戦は今回の数倍決断が難しくなるでしょう。中国大会はまたキム選手が出場するし、客観的に見て安藤選手が4回転を完璧に決めても、キム選手を抑えて優勝するのはかなり厳しいです。 安藤選手の4回転サルコーは2002年、彼女はまだジュニアの選手で、しかも旧採点制度で1度成功させたきりの技です。今はルールが変わっているので、あの時と同じジャンプをしても回転不足を取られてしまうでしょう。彼女自身ジュニアの頃から成長し、体も変わっています。ここ5年も試合で跳べていないジャンプを「伝家の宝刀」的に持ち出すのはもう無理があるような気がします。彼女が4回転を持ち出すたびに見ていて辛くなるし、マスコミが煽るのも彼女を追い詰めている気がします。 彼女自身もシーズン前に「全試合跳びます」と自分でハードルを上げてしまうから苦しくなるわけだけれど・・・。跳べる状況なら不言実行、口をつぐんで試合で跳んだほうが、彼女にとっても精神的にラクなのではないでしょうか。 今回の彼女の全体的な技術評価、芸術的評価もかなり点数にバラつきが出て、結果低めに抑えられました。「技と技のつなぎ」の部分に4点をつけるジャッジも出てきており(キム選手や中野選手は6点~7点台)、このままではグランプリファイナルを2年連続出場できないだけではなく、世界トップグループから脱落する可能性もあります。 しかも今年シニアデビューしたアメリカの2選手が順調に育ってきており、今回も彼女のすぐ下の4位・5位に飛び込む状態となりました。うかうかしていると若手に追い抜かれるのもそれほど先の話にはならないかもしれません。 オリンピックもあるし、安藤選手は後の試合を余程頑張らないとかなり心配な状況になるかもしれません。 4位は今年シニアデビューしたアメリカの若手の一人、レイチェル・フラット。 彼女の名前は夏ごろから耳にしていて「かなりすごいらしい」と聞いていたので、今回彼女の演技を見るのを楽しみにしていました。 まだ歯を矯正中というあどけなさの残る彼女でしたがジャンプはかなりパワフル。今回は回転不足となってしまいましたが浅田真央選手と同じトリプルフリップートリプルループのコンビネーションを持っているし、スピンやスパイラルも良いトータルパッケージな選手というのは前評判通りでした。 また、彼女の衣装はシンプルながらも控えめなゴージャス感もあり、とても趣味のいいコスチュームだったと思います。この年頃は幼すぎても大人びすぎても似合わないので難しいと思いますが、すごく洗練された衣装でした。 今年シニアデビューですが動きが滑らかで、あまりジュニアジュニアしていないのでシニアに溶け込むのも早そうです。今後の成長が楽しみですね。 ただ心配なのはモロにアメリカ人の体質というか、成長するにつれて太っていきそうな肉のつき方をしていること。92年生まれなので今年16歳、ちょうど体が変わる年頃です。 アメリカの白人選手は、宿命的に成長につれてみっしりという感じで肉がついて逞しくなる人が多く、その為柔軟性やジャンプの高さが失われてしまう選手を時々見かけます。小鹿のようだったキミー・マイスナー選手までが最近逞しくなってしまっているので、それがちょっと心配。 Rachel Flatt 2008 Skate America SP 5位はアメリカと日本、両国籍を持つアメリカ在住の長洲未来。 彼女は15歳ながら今年の全米チャンピオンというタイトルをひっさげてシニア参戦してきましたが、見た目はすごくあどけなく、アメリカ生まれ・アメリカ育ちでありながら全く「帰国子女感」のない選手です。日本語もかなり話せますが、やはり英語のほうが話しやすいみたいですね。柔軟性も高く動きもしなやか、あどけない顔立ちですが、動きに女性らしさがあり、特に腕の動かし方は美しいです。 大会前に足を怪我したというニュースを聞いたので大丈夫かと思っていたのですが、頑張って最後まで滑りきりました。 ただ、フリーではステップで転倒したりミスも多かったので、疲れちゃったかなー?と思っていたのですが、大会終了後に実は足を骨折していたことが判明。しかし彼女は大会中そのようなそぶりは一切見せず、演技後のインタビューにも笑顔で答えていました。健気です。アメリカ育ちでも心意気は大和撫子ですね。 写真は今大会フリーのときのものですが、今見ると痛みをこらえているようにも見えます。 怪我の経過によっては次のNHK杯の出場も危ういとのことで、心配です。でもクセにしてしまうと後々大変なので、まだ若いししっかりと治して欲しいですね。 インタビューの受け答えなどを見ているととても素直で、応援したくなってしまいました。 Mirai Nagasu 2008 Skate America SP フラット選手も長洲選手も、シニアデビューという難しい状況の中で素晴らしい演技だったと思います。ですが浅田選手やキム選手のシニア参戦時ほどのインパクトはなかったですね。やはりあの2人はフィギュアの歴史の中でも飛びぬけた才能だと感じました。 ですがレイチェルもミライも、そして次のスケートカナダに出場する同じくアメリカのキャロライン・ジャンも、暫く振りの強い輝きを持った若手選手だというのは間違いのないところです。シーズンインの随分前からファンの間でここまで騒がれた選手というのは、浅田・キム両選手以来でしょう。まだまだ伸びしろは勿論あるし、若くて才能のある選手というのは見ていてもワクワクします。 キミー・マイスナーは8位でした。 2006年16歳で世界女王になったキミーですが最近ジャンプでの転倒が多く、非常に残念なことですが彼女のスケーターとしてのキャリアは16歳をピークにじりじりと後退しつつあります。 レイチェル・フラット選手のところでも書きましたが、アメリカ人独特のがっしりした体型へ変化していくにつれて特に下半身が逞しくなり、ジャンプの高さが保てなくなっているように思います。また、そもそも彼女はあまり柔軟性がある選手ではありませんでしたが、最近のフィギュアスケートは柔軟性が技の出来栄え(加点)に非常に重要な影響を及ぼすので、彼女や安藤美姫選手のように体が硬めの選手、特に後ろに反るのが苦手な選手は点が伸びにくい状態になっています。 以前はこの写真のように細身の美少女でした。現在も顔は以前と変わらずとってもかわいらしいのですが、ここ2年くらいのうちに体型は急激に変わってしまいました。 彼女は非常にまじめなので不摂生ということはありえないし、おそらく体質的なものだと思います。こればっかりは本人のせいではないし努力でどうにかなるというものでもないのでちょっと可哀相です。 先日、下記のような記事を目にしました。 -------- キミー・マイズナー、一歩抜け出して 2008年10月1日 2006世界選手権優勝の直後、キミー・マイズナーはジャンプが不調で途方に暮れ、16歳が競技人生のピークだったのではないかと疑うようになった。 世界選手権優勝の翌年は4位。今年は8位(※正しくは7位)に沈んだ。明るく魅力的で飾り気の無いマイズナーは、何かを変えなければいけないと分かっていた。 「じっくりと自分自身に問いかけなきゃならない時間がたくさんあった。私はまだスケートがやりたいの?って。」彼女は言う。「私はいつでも“イエス”と言ったわ。スケートが大好きだから。そうやって乗り越えてきたの。」 (後略) -------- (元の記事:Los Angels Times) 日本語訳のブログ:真央とイングリッシュと私 さま この記事は読んでいて頭が下がる思いでした。一度世界トップになった選手が今は8位前後を行ったり来たりしている。その状況はかなりプライドも傷つくだろうし、辛いと思います。 でも彼女をはじめ、どの競技であってもトップアスリートの皆さんはどんなスポーツでも、こちらに本当の尊敬の念を抱かせるような強い意志をもって競技に取り組んでいますよね。しかもベテランではなく、10代の選手でもこういうことをさらりと言ってのける選手が沢山いる。素晴らしいことだと思います。 私はどちらかというとスケーターは柔軟性のある選手の方が好きなのだけれど、キミーの人間性にはすごく魅力を感じるし、応援したくなります。彼女はスケートに悩んでも、スケートが大好きだから頑張ろうと前向きな気持ちを持ち続けています。今は辛い時期かもしれないけれど、また彼女が氷の上であの素晴らしい笑顔を見せるのを待ちたいと思います。 次はスケートカナダが11月初めに行われます。 出場するのは世界選手権銀メダルのカロリーナ・コストナー、驚異的な柔軟性を持ったアメリカのシニアデビュー組、キャロライン・ジャン、実力者のジョアニー・ロシェット、日本からは元気な笑顔がかわいい武田奈也選手が出演します。これもまた楽しみ。
by toramomo0926
| 2008-10-30 20:52
| フィギュアスケート
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