挑戦を貫いた「2位」の価値-グランプリシリーズ フランス大会
b0038294_8302694.jpgグランプリシリーズフランス大会は今年の世界女王・浅田真央の初戦として注目されたが、浅田はジャンプの失敗が響きSP、フリーともに2位となり、カナダのジョアニー・ロシェットが優勝、グランプリファイナル出場を決めた。
男子は小塚崇彦がスケートアメリカに続いて銀メダルを獲得。優勝の常連だったブライアン・ジュベールが4位となるなど、男女ともに波乱の大会となった。

ISU Trophee Eric Bompard 2008
公式サイト。男女シングル、ペア、アイスダンスの採点の詳細。

今回のフランス杯は浅田選手本人には到底満足のいく結果ではなかっただろうとは思いますが、彼女は世界女王のタイトルに満足せず、守りに入ることなく更に自分の限界に挑戦しています。
つい私達は目先の順位、ジャンプの成否などに一喜一憂してしまうけれど、彼女が本当に目指しているものは「自分の限界に挑戦する」ということ。それができればおのずと結果もついてくるという考えを尊重し、見守っていきたいと思います。




ジャンプはうまくはいかなかったけれども、他の要素はまた大きく進歩していましたね。動きに更に女性らしさが加わり、体の使い方も洗練されて更に手足が長く見えるようになりました。完成形を見るのが楽しみです。


MAO ASADA TROPHEE ERIC BOMPARD 08 SP-Clair de Lune



それにしても、どんなに練習で好調でも人間のやることなので、やはり試合というものはわからないですね。
どれだけ練習で成功できても試合でできなければ意味がない、それがスポーツ。
それはどの種目でも同じですが、厳しい世界ですね。
グランプリシリーズは3月の世界選手権にむけての調整と、とりあえず順位を取りに行く大会という側面も大きいので(本戦となる12月のグランプリファイナルに向けての予選、という認識に見えます)、優勝を争うのは実質ロシェットのみだったとはいえ、この乱れようで2位というのは上出来だし、これだけの挑戦をしての2位というのは価値があると思っています。

ですが、傍目には「失敗演技」だったとしても、そしてファンとしては心臓に悪いものだったとしても(笑)私は彼女の常に挑戦していく姿勢がとても好きです。
安藤美姫選手のように世界選手権で優勝したことで目標やモチベーションを失いスケートを辞めることを考えたり、実際ステファン・ランビエールのように競技から一時期離れた選手もいる。またキムヨナ選手のように自分の今の能力と結果に満足し、ローリスクハイリターンな点の取り方で手堅く「優勝」というステイタスを取りに行く選手もいる。
しかし彼女には、はじめからその選択肢はないのだ。
一瞬の迷いもなく、「終わったことは忘れて、新しい気持ちで挑戦する。オリンピックイヤーに新しいことをするのは負担が大きいが、今年はまだそれができる」と言い続け、実際挑戦してきたのだ。

ジャンプではルッツの矯正や、基礎点が低めな上に自分が苦手としているトリプルサルコー(3S)を構成に入れてきた。より多くの種類の3回転ジャンプをプログラムに入れてきたことからも彼女の姿勢が伺える。


b0038294_1111888.jpgまた、トリプルアクセル(3A)を2回入れることを今季の最終目標とし、また3Aにダブルトウループ(2T)を、しかもコンビネーションの2回転ジャンプにはタノ・ジャンプ(左写真参照)という片腕を上に上げて回る(詳しくは知らないが、ジャンプの基本となる「脇をしめて手を結んで跳ぶ」姿勢を取れないので難しいと思われる)にしてきた。ここ数年ジャンプをタノにしている選手は私自身記憶にない。
SPではスローな曲を単調にならないように限界まで表現することを課題とし、フリーではワルツという切れ目のないリズムを4分間踏み続けた。
演技中数秒間静止してマイム等を入れ、表現力アピールと同時に休息を取る(選手にとってはそれでもあるのとないのではかなり体力的に違うらしい)ことはどの選手でもよくやることだが、そのような場も作らなかった。ひたすらワルツのリズムに乗って、タチアナ・タラソワが作り上げた「仮面舞踏会」という鬼のように要素の詰まったプログラムに挑んできたのだ。





b0038294_10201781.jpg彼女の能力があれば、あそこまで要素を詰め込んだものを作らず、もっと余裕を持たせたものでも優勝は狙えるだろう。しかし彼女はそれをしなかった。とにかく今の彼女の限界に挑戦し、それを更に押し広げようとしている。そのような姿勢こそがアスリートとしてあるべき姿のはずだ。
挑戦すれば当然失敗のリスクは高くなるが、来年のオリンピックイヤーでのプログラム製作においてその鍛錬は生きてくるはずだと思う。今季自分をいじめることによって地力がつき、来期のプログラム構成に余裕を持たせられる。それを狙ったのではないだろうか。そう考えると「今年はまだ挑戦することができる」という彼女の言葉も納得がいく。彼女は勿論来季のために今季を犠牲にしてもいいとは思っていないだろうが、目先のことよりももっと先を見据えているように感じる。
ただ、オリンピックの演技は4年に1度きりなので、一発勝負でガチッと決められるように、最初から自信をもって臨めるようにするメンタル面の強化もいっそう必要となるだろう。それにはコーチの後押しが不可欠だ。そういう意味でタラソワという強烈な引力を持つ人物が彼女のコーチになったことはよかったと思う。




b0038294_10503910.jpg私は彼女の「氷上のスフレ」と表現された軽やかで高いジャンプも好きだし、ここ数年飛躍的に伸びてきた表現の美しさ、何かを演技するというよりも完全に音楽と調和し同一化する彼女の演技も大好きだ。だが彼女の一番の魅力は、挑戦する姿勢だと思う。
彼女はシニアデビューしてから表彰台を逃したことは一度もなく、しかも2006年スケートアメリカ以外は全て1位か2位である。これ以上ないほどの成績を挙げながら決して満足せず更に高いところを目指す姿は本当に強くて美しい。彼女の成績に一喜一憂しながら、成長をリアルタイムで、しかも自国の選手として応援できるという幸せを感じながら見守っていきたいと思う。

私自身はそのような気持ちでいるのだけれど、マスコミやコメンテーターはそのような側面を見ずに「不調」を強調しそうで、それがちょっとファンとしては気分が悪いところ。特に何かと比べられるキム選手と比べて安易に勝った負けたとか言いそうなのがちょっと。

確かに試合を見れば浅田選手の方が最近はキム選手より失敗は多いだろう。 だが浅田選手だって3シーズン構成を殆ど変えず、しかも3Aはもちろん3Sもトリプルループ(3Lo)も飛ばずにダブルアクセル(2A)3回でいいというなら未曾有の点数をたたき出して優勝できる可能性は充分にある。
だが彼女にはそのような構成を作るなど思いもよらないだろうし、それで勝利しても心から喜ぶかは疑問が残る。
去年のフランス大会のSPで、1位を取りながらもジャンプの失敗を悔やんで涙を流した彼女を見れば、何を目標として競技しているかは一目瞭然である。
キム選手と浅田選手は確かに実力は拮抗しているしどちらも素晴らしい選手だけれど、目指しているものは違うのかもしれない。一見同じものを追い求めているように見えても、その本質は全く違うところにあるように思う。


b0038294_1131977.jpgワイドショー等のコメンテーターは専門家ではないのでそこまではわからないかも知れないが、日本のスポーツ記者やキャスターまでもそれを理解せずに報道するのは浅田ファンとしては少し腹立たしく思う。
あまりに最近フィギュアスケートの解説者やスポーツを担当する記者、ライターなどに上っ面のジャンプの成否、順位だけを見て評価を下す人が見受けられるので、せめて本職としている人達はもっと深いところで仕事をして欲しい。
せっかく世界で一番といってもいいほどに素晴らしい選手が粒ぞろいの国なのに、それを国民が本当には理解できていない状態はあまりに悲しい。



私は浅田選手をずっと応援しているので、オフの間のトレーニングの情報を見ながら今回の試合を本当に楽しみにしていました。
今回の彼女のSPで使用している「月の光」(ドビュッシー)は2006年に彼女がSPで使用した「ノクターン」(ショパン)と双璧で私がクラシックの楽曲で一番好きな曲でもあったし、時折ニュースなどで流れる彼女の体の動きが前年より更にしなやかになり、今年からついた専属トレーナーと栄養士のもとで積んできた陸上トレーニングの成果が目に見えて出てきたような気がしていたから。




Mao Asada Fluff practice in TEB

これはファンの方がニュース映像をつなげ、BGMをつけたもの。余計なナレーションや変な煽りが入るよりも、この方がずっと映像がじっくり見られるのでいいと思います。
Youtubeを見ていると、このように易々と画像編集と音楽を付けてアップしている方が多い。すごいですね。
練習では3Loも完全に回りきってから余裕を持って着地し、トリプルアクセル(3A)とダブルトウループ(2T)という女子ではありえないジャンプに成功していました。

今回は彼女はSP、フリーともにジャンプでミスをした。私たちにとっても、勿論浅田選手本人にとっても残念な結果だった。
しかし自分も含めてファンも関係者も、また彼女自身も「浅田真央」に求めるものがあまりに大きすぎ、高すぎて、2位でも「残念な結果」「不調」となってしまうことはちょっと気の毒に思いますね。
ただ彼女はここ数年見ているとスロースターターというか、試合を踏んで完成度を高めていくタイプに見えるので、ジャンプについては次のNHK杯に期待です。
殆どの選手はグランプリシリーズに入る前に地元の小さい大会やアイスショーなどで新しいSPなどをお披露目し、その手応えをみて調整していくということが多いですが、彼女は今季のプログラムを一度も公表していなかったので、たった1度の演技で全てを判断するのは早すぎるように思います。
ルッツ矯正がどのように判定されるかということや、久しぶりにサルコージャンプを入れたというのも精神的には緊張を高めたかも知れませんが、後は自分で自分をどのようにコントロールするか。練習通りにできれば、昨年のように減点を厳しく取られたとしても優勝は間違いないと思うので、頑張って欲しいと思います。

今季のフリー、ハチャトゥリアン作曲の「仮面舞踏会」は、ニーナという若い女性が仮面舞踏会で腕輪をなくしたことをきっかけに夫から激しく嫉妬され、ついには夫に毒殺されてしまうという悲劇がテーマ。

MAO ASADA TROPHEE ERIC BOMPARD 08 LP-Waltz Masquerade

ジャンプの失敗がありましたが、エレメンツぎっしり。特にステップは圧巻ですね。終わらない要素の数々、あんなにストレートラインステップが長く感じられるプログラムはそうはありません。しかもスピードもあり、回転も左右両方を交互に繰り出している。
更に(去年のSPもそうでしたが)進行方向が前ではなく、後ろ向きで進んでいます。それなのに、ただ漕いでいるところなどは一瞬もありません。エッジワークだけでリンクの端から端まで滑りきるって、どういうことなんでしょうか。
ステップの最初6拍くらい(動画では3:15辺りから)、勢いよく蹴りだすような動きがワルツの3拍子のリズムを表現していて、すごく好きです。

最初今回の演技を、特にフリーは見ていて辛いくらいだったのですが、見終わった後もあのワルツの音楽が自分の中でエンドレスに流れ続け頭を離れませんでした。
また、動画を何度も見ていくうちに、というか見れば見るほどこのプログラムのすごさと素晴らしさが分かってきて、必ず浅田選手はこのプログラムを本番で踊りこなすに違いない、という気持ちが出てきました。「ものすごい難易度で男子並みに体力も必要なプログラム」と報じられていましたが、このプロをこなしたら、彼女はきっと更に一段高みに上れると思う。怪我に気をつけて頑張って欲しい。
年末の全日本あたりには神がかり的なプログラムになっていそうですね。楽しみです。


最後に、タチアナ・タラソワ氏の談話を。
「マオが順当なら、あなたたち(記者)も書くことがないでしょう。これから面白くなる」
さすが大御所。貫禄の言葉です。


Mao Asada - Gala 2008 Eric Bompard-Por Una Cabeza

エキシビジョンです。DOIの時とは構成を少し変えていますね。
3週間前くらいからジャンプの調子を落としていたと試合後に伝えられていましたが、やはりループが2回転になってしまいましたね。NHK杯まであと2週間なので、ちょっと心配。


自分に課したハードルの高さ  2007年11月20日


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Excite エキサイト : スポーツニュース
by toramomo0926 | 2008-11-16 08:35 | フィギュアスケート


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