プルシェンコ選手、選手資格剥奪 -選手はISUの奴隷ではない
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このニュースを昼間見て驚き、仕事をしながら怒りに震えていました。国際スケート連盟(ISU)がエフゲニー・プルシェンコ選手(ロシア)の選手資格を剥奪したというのです。




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プルシェンコの資格剥奪=国際スケート連盟

 国際スケート連盟(ISU)は28日、バンクーバー五輪フィギュアスケート男子の銀メダリスト、エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)が規定に違反したとして、競技会への出場資格を剥奪(はくだつ)したと発表した。3~4月にロシア連盟の認可なく国内外のアイスショーに参加したことが理由。
 トリノ五輪の金メダルや世界選手権3度優勝を誇るプルシェンコは、この処分に対して3週間以内にスポーツ仲裁裁判所(CAS)に異議を申し立てることができる。

6月29日8時57分配信 時事通信 
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ISUは一体なにを考えているのでしょう?
資格剥奪というのは、恐らく選手に与えられる懲戒処分でももっとも重いもののひとつでしょう。選手ではなくなる、試合に出られなくなるということですから。
ドーピングしたわけでも、犯罪を犯したわけでもない選手を、なんの警告もなしにいきなり資格剥奪というのはまりにも唐突かつ厳しすぎやしないでしょうか。

今回のようなケースなら厳重注意か、多少の罰金や、たとえば1試合とかグランプリシリーズ出場停止などの処分ならまだわかりますが、これほどに大きな処分をいきなり、しかもこの程度の事案でというのは普通ではありません。
そもそもこの程度のペナルティならまずロシアのスケート連盟が処分を行うべきで、ロシアのスケ連を飛び越えていきなりISUがじきじきに、しかもこれほどまでに重い処分を下すと言うのは、どう考えても異常です。
ファンの方々が既に他のサイト等で多数声を上げているとおり、これはバンクーバー五輪前後において彼が審判やその採点について不平を述べ、抗議したということへの報復、今後の抗議等を封じるための見せしめ的な措置と思われても不思議ではありません。というか恐らくその要素はゼロではないでしょう。


しかし、それを言うならキムヨナ選手の五輪憲章違反の方が余程懲戒処分ものです。
(なんかいつもネガティブなことで彼女を引き合いに出している気がしますが、彼女はそういうネタが多いんですよね・・・)
彼女はバンクーバー五輪で公式スポンサーでない企業の商品を身に付けて演技し、それを大会期間中にコマーシャルに利用させました。映像や写真で証拠が残っています。
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五輪憲章に照らしてみれば、彼女の行為は完全に違反となるものです。
そして違反した選手は五輪へのエントリーすら認められず成績や記録は抹消され出場しなかった扱いとなり、当然メダルなども剥奪されるはずなのです。
それなのに、彼女に関してはISUもIOC(国際オリンピック委員会)も知らぬ存ぜぬを決め込み、うやむやの状況になっています。
問題にするならそちらの方がよほど重大なはずです。

また、今期でジャッジを引退したパトリック・イベンス氏は「公正にジャッジしている審判は全体のどのくらいだと思うか?」という質問に、「10%」と驚きの数字を述べたことが選手やファンの間で話題となりました。
更に彼は「以前地方の大会に呼ばれた時に買収まがいの話を持ちかけられ、断ったところ二度とその大会には呼ばれなかった」とも述べています。
「ジャッジは、現在、匿名で採点しているにもかかわらず、彼らはまだ自分の所属する連盟を恐れている。自分の国のスケーターを守る(自国の贔屓(ひいき))のために、同程度のランクのスケーターには厳しくし、自分の好きなスケーターを後押しする。
疎外されることを恐れるジャッジは、審判として招待してくれる国のスケーターを後押しし、単に何をやっているか、わかっていない者もいる!」
とも。
そして「私にとってのオリンピックチャンピオンは高橋だ」とも話していたのです。
このような内部腐敗こそ厳しく対応せねばならないのに、ISUはここ数年で特に噴出しているジャッジ買収疑惑、採点への不信感を打ち消す努力は一切せず、小手先のルール変更で世論をトーンダウンさせ、実際はごり押しの運用で勝たせたい選手を勝たせ、それ以外の選手はダウングレードで得点を抑えるということを続けています。

五輪の際も、元選手でプロスケーターであるエルヴィス・ストイコ氏は
「ISUは誰が勝つか、誰を負けにするかコントロールしたがっている。コンポーネントスコアをジャンプの採点より高く出せば良いだけだ」
「ISUは彼らが何をしているかを良く知っているように思えるのでね。 ISUは自分らが行ってることを分っていると思ってるんだ」

とはっきりと述べています。
また、バンクーバー五輪の採点に対して疑問を呈したフィギュア関係者はプルシェンコ選手やストイコ氏だけではありません。ISUの方針、ジャッジング、採点は元選手にも信頼されていない状態なのです。
そしてトリノでの世界選手権・女子シングルでは、SP・フリーともに最高難度の演技をノーミスで成功させた選手がいたにも拘らず、それよりも難易度も低く、今までとは別人のような破綻した内容でミスを連発し、無気力な演技をした選手を強引にフリーで1位となる高得点を与えて総合2位とさせ、ファン以外の人々も採点への疑問・不信を抱く事態を引き起こしています。会場ではブーイングが起きていました。


もしISUがプルシェンコ選手の態度に対して「意趣返し」的にこのような措置に出たのなら、思い上がりもいい加減にしろと言いたい。
ISUという組織は、スケートという競技の発展につとめ、また選手をサポートするための組織のはずです。
それなのに最近ISUは、選手とその得点、順位までも支配し、競技そのものを歪めてまでも自らの利益のためにしか動いていないように見えます。
そこには選手を少しでもよりよい環境で競技をさせるとか、選手のモチベーションを下げない運営をするという意識は全く感じられません。

そして今回ISUは、「言う事を聞かない選手は追放する」とでも言いたげな不自然で理不尽な、独裁的な行動に出ました。
フィリップ・キャンデロロ氏が以前吐いたといわれるこの言葉も、現実味を帯びてくるというものです。
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選手は連盟の奴隷ではありません。
あくまで選手がいてこその連盟で、方針に異議を唱える選手が出たら相互理解のために話し合ったり説明をしたりするべきで、懲罰的に選手生命を奪うようなことをするなんてどうかしています。
それもプルシェンコ選手のような長きにわたって輝かしい実績を収め、今日までのフィギュアスケートの発展に大きな貢献をした選手、ファンからも選手からも大いに尊敬されている選手をこのように遇するというのはISU自らの品位を貶め、フィギュアスケートという競技を殺そうとしているのと同じことです。

このニュースは世界中のフィギュアファン、そして選手や元選手達に衝撃と怒りをもたらしたと思います。
プルシェンコ選手はぜひともスポーツ裁判所に訴えて、戦って欲しいと思います。こんな理不尽なことはないですし、ISUが選手の努力を踏みにじり、恐怖政治のように独裁的な力を振るい続けるのをこれ以上許すべきではありません。

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<追記:6/30>


この件について私の理解と情報が足りなかったようで、
本日(6/30)、tokyometroさんより、プルシェンコ選手の選手資格剥奪の経緯について、貴重な情報をいただきました。
どうやらISUがロシアスケ連越しにいきなり処分をしたということではなく、プルシェンコ選手がメドべージェフ大統領に、ロシアスケ連のお金の使い方が不透明であると直訴したために、ロシアスケ連がプルシェンコ選手に対しアンフェアなやり方でアイスショーの出場許可を取り消し、「違反している」とロシアスケ連自らがISUに知らせたために起きた、ということのようです。
要するにISUがプルシェンコ選手に報復、というよりも、むしろロシアスケ連が主導でプルシェンコ選手にダメージを与えようとしたということのようです(ISU的にも利害が一致したので乗ったのかも知れませんが)。
こういう策略めいたものを見る度、やはり旧ソ連という感じがしますね。まさにおそロシア。シャレになりません。

でも、そうだとすると、状況はもっと深刻かつ悲惨ということになりますね。ロシアスケ連にはプルシェンコ選手応援派と排斥派がいるということも知りましたが、日本だけでなくロシアも、スケート連盟というところは選手を守ろうとはしないんだなと。

詳しい経緯をtokyometroさんが書いてくださっているので、是非ご覧下さい。
灰色の途

今回のことがISU主導にしろロシアスケ連主導にしろ、どちらも組織としては本来の働きを全くなしていないということは変わりませんね。
プルシェンコ選手の復帰がいつになるかわかりませんが、一日も早い競技への復帰を信じて待ちたいと思います。アイスショーへの出場は禁じられていないので、The ICEには来てくれると思います。精一杯声援を送ってこようと思います。
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<参考リンク>
正直にジャッジしている人は10%だと思う【OPジャッジのインタビュー】   -フィギュアスケートを死なせたくない【2】
灰色の途


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by toramomo0926 | 2010-06-29 20:42 | フィギュアスケート


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